第19話 大人の事情と世界の広がり
試験が終わった。頑張ったおかげで今回も3位だった。1位と2位は公爵令嬢とグレッグ様なので、それはどうにも超えられないらしい。まあ他の高位貴族の方々は抜いているので上々だと思う。
ウィル兄さまと春先の山越えで領地に帰る。まだ少し寒いけれども、これから草木も芽吹く季節。空気は冷たく澄んでいて、それでいて力強く瑞々しい雰囲気がある。北方にとっては新年よりも、より新しい年が始まったと感じられる時期だ。
夏の休暇と違って、ウィル兄さまとも話が弾む。問題の先送りと言われたらその通りなんだけれども、最近はとても気が楽だ。半年前は、それでもキース様が好き、と思っていたが、それもなんだか本当にそうなのかわからなくなってきた。それより今はクラスメイトとの時間や勉強が楽しい。北方は大好きなので出来れば卒業後は帰りたいから、エリス様と結婚したキース様にはなるべく長く王都にいてもらいたいものだ。その場合、私の結婚がどうなるのかはわからないが、まあ所詮、貧乏弱小男爵家出身、爵位を継げない次男三男と縁づいて平民になっても何とかなるだろう。
家に着いてしばらくゆったりと旅の疲れを取ったあと、家族会議が開かれた。エリス様が置かれている状況、それに巻き込まれているキース様のこと。貴族の事情にまったく興味が無かったものだからまるでわかっていなかった。寮の先輩方の噂話にもう少し耳を傾けていたならと後悔する。
お父さまは激怒。そして夏の休暇の際にお父さまには内緒にしたことでいじけている。お母さまは私が相談した時にちゃんと伯爵令嬢の家名を聞かなかったことを悔やんでいる。私が曖昧に伝えたんだけれども。お兄さまは噂を積極的に拾って家に伝えなかったことを悔いている。
とにかく、うちは家族そろってのんびりしていて、王都の貴族のあれこれに疎かった。田舎の弱小男爵家でも領民が飢えるようなことは今のところないし、納税も滞っていない。ものすごい災害に見舞われたこともない。何代にもわたって、可もなく不可もない領地で特に中央との関係を築く必要がなかった。北方の辺境伯領を中心に築いた絆があれば十分生きてこれたのだ。
そして、辺境は頻繁にお茶会や夜会に出席するには少し遠すぎた。だから1年様子を見ようとのんびりしていたら、キース様のご両親が慌ててやってきて平身低頭、謝罪されてびっくりしたというわけである。そして、お母さまは噂なんてどうせ広がるんだから気にしなくていいわよ~、というお気楽な手紙を送ってきた。キース様のお母さまの手紙との温度差がすごい。
「リリアはどうしたい?」
「あの、エリス様の状況が確定するのはいつ頃になるのかしら」
「わからん。ライズ子爵の予想だと、嫁き遅れになる前にかたを付けるのであれば卒業後1年以内というところだ」
「あと2年弱・・・その間、私と婚約を継続しているのと、解消しているのでは何が変わる?」
「継続の場合、伯爵家は他に良い話があればそっちに話を持って行くだろう。すでに整っている婚約に横やり入れのはどうしても揉めるからな。
リリアとの結婚は、キース君が伯爵家に選ばれたら解消、選ばれなかったらそのまま結婚する、ということになる。あまりにもこちらを馬鹿にしたことだが。
伯爵家から話が来る前に婚約を解消する場合は、キース君が格上の家に望まれたから仕方なく解消、という大義名分が使えなくなるから、単に浮気して婚約を解消した、ということになる。そうなったら伯爵家は責任を取ってキース君と令嬢を結婚させるだろうね。噂が出回ってるから令嬢の方も知らぬ存ぜぬではいられまい。キース君と令嬢の両方が評判を落とすことになる」
「うーん、どっちにしても誰かが傷つくのねえ。後者は後者で、私は浮気されて捨てられた女になっちゃうわ」
「そうだなあ・・・今から巻き返すという手もあるにはあるが。もし来年1年、キース君が伯爵令嬢とのことをきちんとして、リリアにちゃんと向き合うなら、リリアは許せるかい?」
「それは、ちゃんとしてくれるならいいわ。だって1年は様子見るって決めたんだし。そもそも怒っているわけじゃないのよ・・・うまく言えないんだけれど悲しいとか、悔しいとか、不安とか、怖いとか、そういうのがごちゃ混ぜになったような感じで。怒りとはちょっと違うような気がするの。だから、今すぐ決めなくていいのなら、あと半年、自分の気持ちも含めて様子見ることに抵抗はないわ。もちろんキース様次第だけれども。キース様が変わらなければ何も変わらないもの」
「わかった。じゃあ、とりあえずキース君と話し合ってみるか」
「そうね・・・一度ちゃんと話合わないとね」
今後のことを決めるというのに、半年前はあんなに絶望感に溢れていたのに、自分のことなのに、どこか遠いところから見ているような気分で淡々と話は進んだ。私自身も半年前とだいぶ変わったのだろう。世界が広がって交友関係も広がって、きっとキース様の存在が薄まった。他にも大切なものがいっぱいできたから。
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