第18話 リリアと結婚できないの?【キース】
「・・・キース、お前は、リリアをどうしたいんだ?」
黙っていた父さんが、泣きじゃくる母さんの背中を撫でながら聞く。
「どうするって・・・?」
「婚約を解消して、その伯爵令嬢に求婚したいのか?」
「解消?!なんで解消しなきゃいけないんだ?
それに、エリィはただのクラス委員仲間だし、伯爵令嬢だよ。僕なんかのところに嫁いでくれるわけないじゃないか」
母さんが横で「そんな令嬢、いくら頼まれても嫁にもらいたくないわ」とつぶやいている。
「キース、お前は王都の学校で、貴族同士の関係など学んでいないのか。うちはそんなに中央との関係は持たなくてもいいが、それでも多少は把握しておかないといかん。お前は卒業したらすぐに領地に戻ってくるつもりか?」
「僕は・・・予定通り、父さんが元気なうちは王都で文官として働くつもりで、そのために成績も維持して、クラス委員も頑張っているんだ」
「では、その伯爵令嬢になぜ婚約者がいないか知っているな?」
「兄君が出戻りの公爵令嬢に望まれていて、でも公爵が公爵令嬢を手放したくないから兄君が公爵家に入らないといけないかもって。だからエリィは伯爵家を継ぐべきか他家に嫁ぐべきか決まっていないって・・・」
「そこまで知っていて、なぜその伯爵令嬢に狙われていないと思える?
このまま進展しなければ、エリス嬢はいつまでも宙ぶらりんだ。伯爵はたまったものじゃない。そこで、娘の婚期を逃すわけにはいかないから待ちきれない、とどこかに嫁がせれば、伯爵家に跡取りがいなくなるわけだから、公爵も折れるきっかけを得られる。
その嫁ぎ先に、北方の子爵家の跡取りは理想的だ。婚期を逃す前に格下で妥協したという体もとれるし、北方はあまり社交活動はしないから、最悪引きこもることもできる。そういう思惑の可能性を考えたか?」
「・・・そんな、でもエリィからは何も言われていなくて・・・」
「言うわけないじゃないそんなの。家から家に打診があるならまだしも、婚約者がいるとわかっている男性に何か言うほど愚かではないでしょうよ、クラス委員になるくらいなんだから」
ようやく泣き止みかけた母さんが恨みがましく吐き捨てる。
「いやでも、そんな素振りも・・・」
本当に無かったか?エリィはリリアを紹介した時、なんて言ってた?
「あなたに婚約者がいたなんて知らなかった」。そう言わなかったか?
それは、婚約者がいてガッカリしたということか?都合のいい僕に婚約者がいたから。
その後も距離を取ることなく、今まで通り一緒にいた。
僕も態度を変えなかったけれど、エリィも変えなった。エリィだって噂は聞いていたはずなのに。
「ちゃんとしたほうがいい」
それも最近言われた気がする。「ちゃんと」って何だ?
「キース、こちらから伯爵家に話をするわけにはいかない。公爵家が絡んでくるからだ。それはわかるな?もし伯爵家との縁を考えるのなら、こちらは待つしかない。今回の噂で伯爵令嬢も評判は下がるだろうが、それでもお前が選ばれるかは確実ではない。
だからといって、リリアを縛り付けるなんて、そんな非道なことはできない。それに、そういう家の事情だけではなく、親友の大事な娘さんを大事にしないようなら、婚約は解消してもらう」
「解消って・・・そんなことしたらリリアは・・・」
「リリアは大丈夫だ。辺境伯家が興味を持っているようで、先日探りがきた。
北方出身の成績優秀者で跡取りではない令嬢。辺境伯夫人には身分が足りないが、同級生の3男が継ぐ予定の子爵の奥方になら是非とも迎えたいはずだ」
グレッグ・マイニング殿。そういえばリリアと連れ立って歩いていたし、親密そうで・・・それに帰ってくる時にもリリアに会いに行くのか、と聞かれた。
「お前がちゃんとしていないから、辺境伯家から、お宅の息子さんは伯爵家のご令嬢と親しいと聞いたが、などと探られるのだ。この分なら、メロー男爵家にも何かしらの話が行っているだろうよ」
足元がグラグラ揺れている気がする。リリアが僕の婚約者だというのは変わらないと思っていた。だから、その上で僕はただただ独りよがりなことをしていたのだ。
リリアがまだ子どもだからとか、僕もまだ卒業していないしとか、忙しいからとか、エリィは尊敬しているだけだからとか、ただの友達だとか、とにかくずっと言い訳して放置してきたことが、周りにとってはものすごく幼稚で愚かで許しがたいことで、そしてそれは付け入る隙となっていることを今、突きつけられたのだ。
「リリアは・・・」
「先にメロー男爵家で話をしているだろう。先方から連絡があり次第、訪問する。それまでは視察などに同行するように」
「わかった・・・」
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