第16話 嫌な予感【キース】
家から手紙が来た。リリアが入学してからの僕の行動が伝わったらしい。噂になっていることは知っていたが、適切な距離を保ち二人きりになったこともなく、人目を忍んで逢引きするような関係でもない。リリアとの時間を取っていないことも確かだが、それは忙しいからというのもあるわけで。後ろめたさがまったく無いわけではないが、そんなに問題になることではないと思い、それをそのまま手紙に書いて返信した。
その結果、さらなる激怒の手紙が届いた。後期試験が終わり雪が解け次第戻って来いとのことだ。春の長期休みには帰るつもりでいたが、卒業式までは仕事があるからその後に帰る。それを書いてまた送ったら、もう返事は来なかった。
少し集中力は欠いていたものの、生徒会役員のスパルタのおかげか後期試験はうまくいった。これなら来年のクラス委員も安泰だろう。
来年の生徒会役員には同級の高位貴族が2名、一学年下は3名、二学年下は4名が就任予定だ。
彼ら高位貴族は高学年になってからずっと生徒会役員として活動する。身分制度というのは学校では比較的緩く考えられているが、生徒会だけは別だ。彼らはこれから人の上に立つ存在として、その力量を磨かなければならない。
対して、僕たち下位貴族は、彼らの下で仕えるための立ち回りを学ぶ。僕がいくら成績が良かったとしても生徒会役員にはなれない。伯爵家は時と場合によって都合よく高位にも下位にも扱われる立場で、来年は最上級生の役員の人数が2人と少ないのでエリスはひょっとしたら役員に格上げかな、と考える。二人でクラス委員ができなくなるのは寂しいが、エリスはもしかしたら伯爵家を継ぐかもしれないと言っていたので、役員になれるならそのチャンスを逃すことはしないだろう。
試験が終われば卒業式だ。最高学年の役員とクラス委員が卒業生として抜けるため、少ない人数で回さなければならない。それこそ目の回るような忙しさだった。
特に卒業パーティは大人の入口ということで、かなり本格的なダンスパーティとなる。装飾も料理も音楽も他の学校行事とは比べ物にならない。男子生徒はまだいいが、女子生徒の支度のために侍女やドレスのレンタルなども手配する。来賓、父兄、エスコートの婚約者など生徒以外の参加者も多く、通常の学校の警備より厳重になるのでその打合せも。
そういう華やかな場に馴染みのない弱小子爵家の僕にとって何度やっても不案内なイベントだ。それでも去年までは上の学年のクラス委員の指示通りにしていればよかったが、今年はそういうわけにもいかず、胃がキリキリする思いだった。その中でエリスは伯爵家だからか慣れていて、色々な手配をさりげなく先に進めてくれていたりして、やはり育ちが違うのだなと憧憬と一抹の寂しさを感じた。
さて、すべての後片付けが終わってそろそろ実家に帰らなければならない。もはや声もかけなかったがウィルやリリアはすでに馬車の中だろう。そう思いながら荷物を持って馬車乗り場に向かう。そんなに高級ではないが御者と護衛は山越えに慣れた者を頼み、さすがにこの季節に野営は辛いので宿もきちんと手配する。荷物もあるので学校の前まで迎えに来てもらった。
その途中、見たことのある薄い髪の男子生徒が近づいてきた。リリアの同級生、辺境伯子息のグレッグ・マイニング殿だ。
「マイニング殿、今まで残っていたのですか」
「ええ、所用がありまして。ライズ殿はこれから帰省ですか」
「はい、両親にも帰ってくるよう言われておりすので」
「そうですか。休暇中はずっとご実家に?」
「ええ、基本的には。領地の視察などで留守にはしますが。種まきの時期ですからね、雪解けの状況など見たいと思いまして」
「そうですか、そういえば次期当主でしたね。リリア嬢にも会いに行かれるのですか?」
「・・・ええ、休暇のたびに両家で集まりますから」
「家同士の関係が良好なのはいいことですね。おっとそろそろ行かなければ。それでは良い休暇を」
そう言ってマイニング殿は去っていった。何かザワザワと嫌な気持ちになる。リリアの話を出されたからか。責められているように感じたのは、きっと後ろめたさのせいだ。これから帰る家でされるであろう説教と相まって、気分は重く重く沈むばかりだった。
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