第14話 エリス様の事情
「あら、皆さま集まって何をされているの?」
そこに涼やかな声が振ってきた。振り向くとエリス様が本を胸に抱えて近づいてきていた。
「エリス様、今日はお早いんですのね」
「もう休暇も終わりですから、今日はこれで勘弁していただきましたのよ。もうずっと生徒会室に缶詰ですもの」
「クラス委員も大変ですわねぇ。お食事はお済みなの?」
「ええ、久しぶりに食堂でとることができたわ。それで・・・」
「ああ、今、皆で集まって刺繍をしているところなのよ。エリス様もいかが?」
「そうね、では先に着替えて湯あみをしてくるわ」
そう言ってエリス様は軽やかな足取りで階段を上っていく。やっぱりすべての動作が洗練されていて素敵な方だなあ、と敗北感を感じていると、先輩方がこそこそ噂をしだした。
「エリス様も来年はご卒業だけれども、どうされるのかしらね。伯爵家をお継ぎになるのならそろそろ婿入して下さる方を見つけなければいけないでしょう?中途半端ではお困りよね」
「でも、噂ではほら・・・。継がないでお嫁入するのではないかしら」
え?伯爵家を継ぐのならキース様のところにお嫁には来れない。そうしたらキース様は、私は、どうなるの?なんとなく疑問が顔に出ていたようで、先輩方から補足が入った。
「ああ、新入生たちは知らなかったわね。一応エリス様にはお兄さまがいらっしゃるので、そちらが後を継ぐはずだったんだけれども、公爵家のお嬢様に見初められてしまって今ちょっと身動き取れないらしいのよ。お兄さまにもご婚約者はいらっしゃったのだけれども、それも白紙に戻ってしまって」
「お嬢様って言ってもね、未亡人なの。まだお若いんだけれども、隣国にお嫁に行ってすぐに旦那さまが事故でお亡くなりになってね、戻ってきたのよ。身分差はあるけど、再婚だから伯爵家に嫁いでも問題ないのだけれども・・・」
「公爵様がね、一度隣国に嫁がせているものだから、もう二度と手放したくないとお嫁に出したがらないらしくて、渋られていて話が進まないという噂よ」
「エリス様もお気の毒よねぇ。公爵様も影響の範囲を少し考えてくださればよいのに」
すごい。高位貴族のお姉さま方の情報力。そういえば淑女教育で貴族年鑑を覚えるように言われていた。試験には出ないからあまり熱心に見てはいなかったけれども、王都で社交をするにはある程度の貴族の事情は知っておかないといけないらしい。
「エリス様も、お嫁に行けるなら行きたいでしょうねぇ、ほら・・・」
ああ、キース様のことも話題に上ってしまうのね、と覚悟を決めていたら、一学年上の女生徒が慌てて制した。
「・・・あのっ・・・そのお話はここではちょっと・・・エリス様もいつ戻ってくるかわかりませんし、お耳にされたらお気の毒でっ」
そういいながら、私の方もちらっと見てくる。・・・ああ、この方そういえば領地は少し離れているけれども北方の男爵家の方だったわ、と思い出す。キース様と私の婚約を知っていて、私に聞かせまいとしているのだ。その気遣いが純粋にうれしい。私は、大丈夫、というように彼女に頷いた。
「ああ、そうね、つい気になってしまって」
そういってすんなりと先輩方は話を終わらせてくれた。しばらく人気のカフェの話などをしながら刺繍をしていたら、エリス様が刺繍道具を持って降りてきた。
「ハンカチが刺しかけなのだけれども・・・北方のタペストリーも素敵ね。リリアさん、教えてくださらない?」
ご指名されてしまった。噂は知っているはずなのにどういうつもりだろうと、なんとなくモヤモヤはするもののお断りすることもできず、「はい、喜んで」と答えるしかなかった。
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