第13話 北方の刺繍のモチーフ
冬になった。王都では社交シーズンに入るということで領にいた貴族がタウンハウスに移動してきて、なんとなく浮ついた雰囲気になってきた。
北方の山の向こうと辺境以外は基本的に全貴族が集合するらしい。特に新年のパーティはほぼ強制参加で、昔は北方も強制参加だったらしいのだけど、ずいぶん前に山越えの際に雪崩に巻き込まれて、男爵家1つ、子爵家2つ、計3家の当主夫妻が亡くなったことがあり、北方の参加は強制ではなくなったとのこと。交流はあまり無いし社交界にも出ないし、特産品は異国の香り満載だし、本当に同じ国なのか不安にはなるが、れっきとした国内である。
北方の辺境には国軍の訓練施設もあり、大きな軍事力を有する。謀反を起こされたり、独立でもされたらどうするんだろうと思うが、そこはキッチリ考えているようで、辺境伯家の直系の誰かが中央に出仕するか、王家に嫁ぐかしているらしい。要は人質だ。今は辺境伯様の妹、グレッグ様の叔母にあたる人が第二妃となっている。王妃様とは学生時代からの親友で、国王陛下が嫉妬するほどの仲の良さだと評判だ。お互いに王子と王女を何人かずつ産み、一緒に育て、特に継承争いもなく嘴を挟んでくる者もおらず、とにかく平和だとのこと。なによりである。
そんなこんなで両親が来ることもなく、いつも通り寮で過ごし、学校の新年パーティに参加し、友達と街に遊びに行ったりして一週間のお休みを満喫することとなった。
新年のパーティと言っても、大人たちは王宮でのパーティがあるので、学生だけのこじんまりとしたパーティだ。当然お酒が出るわけでもなく、夜も早めに終わる。ウィル兄さまに新年の挨拶をした他はずっとクラスメイトと過ごしていた。キース様は生徒会の方々と色々走り回っていて挨拶する機会もなかった。
お休み中は友達と街に遊びに行った他はずっと後期試験の勉強をしていた。前回のように精神的に追い詰められているわけでもないのだからそんなに必死になる必要もないのだが、せっかくの成績を維持したいのと、万が一婚約が無くなったとしたら、次の嫁ぎ先にせよ、就職先にせよ好成績を残した方が有利になるわけで、結果、勉強ばかりとなったのだ。
そんな休暇もあと一日となった時、イザベラに夕食の後でタペストリーを一緒に作ろうと誘われ、クラスメイトの皆で談話室で刺繍をすることとなった。秋祭りの時に北方の風習を皆に教えたら、せっかくだからみんなで作ってそれぞれ自室に飾ってみようかということになったのだ。クラスメイト達でソファに座って刺繍をしていたら、上級生が興味深そうに覗いてきた。
「あら、それ秋祭りの時に売っていた刺繍ね。北方のなんですって?異国情緒があって素敵ね」
・・・れっきとした国内です。
「結構太い糸を使うのね。見た目が素朴だし、立体的になって可愛らしいわね。わたしも小さいのを作ってみようかしら。おしえてくださる?」
「もちろんです、先輩。小さいものですとモチーフはすべては入れられませんので、いくつかに絞っていただくことになりますがどうしましょうか。ヤギと麦は豊穣の願い、ブドウと葉は子孫繁栄、鳥と魚は自由、木と山は安定、など色々な意味があります」
「そうねえ、良縁とかはないのかしら」
「それでしたら、女の子がいる家で良く使われているピオニーのモチーフはいかがでしょうか。幸せな結婚を願うものと言われています。ピオニーの場合は縁飾りはツタ模様が一般的です」
「あら、コロンとして可愛いのね。ピオニーってもっと派手なイメージだったわ」
「色が白ですし、そもそも糸が太いので繊細な刺繍のような華やかさにはなりませんが、糸で陰影を表現しないとただの丸になってしまうので刺しがいはありますよ」
「そうね、ではそれにしてみるわ。・・・基本の図案はこれね」
「では、縁をツタにして、ピオニーを配置して、少し空白残しますか?北方では、欲張りなのか空白があまりないように色んなものを配置しますが」
「空白にしておこうかしら。その代わり、ピオニーを少し大きくして・・・」
先輩とデザインを考えていたら、他にも上級生がわらわらと集まってきた。北方の刺繍を教えてほしいという人から、せっかくだからここで刺すと刺しかけの自分の刺繍を持ってくる人までいて、談話室は大賑わい。私も普段あまり接点がない上級生のお姉さま方と色々な話ができて楽しかった。色々な領があって、色々な家庭の事情があって、色々な将来を持っている人がいる。最近はクラスメイトとの交流があるが、今までの人生って狭いところで完結していたんだなと実感した。
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