第12話 リリアは可愛いけれど【キース】
秋祭りの実行委員の仕事で校舎を巡回していたら、リリアたちの学年のブースが見えた。懐かしい北方のタペストリーや小物たちに心は惹かれたが、なんとなく近づく気になれなかった。ペアで回っていたエリスと一緒にリリアのところに行きたくなかったし、ここ半年の自分の行動が褒められたものではないと自覚していたから遠くから少し見るだけで通り過ぎようとした。
「リリア!青みの強い柄のものってなかったかしら?」
「たしか下から三つ目の箱に青と緑がメインのものが入っていた気がするわ」
「リリア嬢、ちょっとこちらのご令嬢にモチーフの由来を説明できるかい?」
「はい!今伺います!・・・こちらはヤギを象ったものでして・・・」
忙しそうに説明したり売ったりしているリリアは屈託ない笑顔を振りまいていて、それは確かに貴族令嬢としては少しお転婆ではあるけれど、この間の長期休暇でおとなしく微笑んでいたリリアよりもずっと可愛かった。北方の風習や小物を誇らしげに説明する姿は北部出身者として頼もしかった。
同じクラスには辺境伯家のグレッグ・マイニング殿がいるようで、二人で手分けしてどんどん客をさばいていく。彼らは妙に息が合っていて少し面白くなく感じたのも事実で、本当に自分は身勝手だと思う。
夕方の巡回で、マイニング殿と連れ立っているところに出くわした。北部最大の高位貴族のご子息を無視するわけにもいかず挨拶に向かう。形ばかりの挨拶を交わしている間も目の前のリリアと背後のエリスが気になる。リリアは先ほどまでの笑顔ではなく貴族らしい微笑みをたたえていた。そして僕を「キース様」と呼んだ。
他のブースも回るという彼らを少し振り返ってみたら、二人が顔を寄せ合って親密そうに何か話していて、信じられないものを見た気分だった。その後他の生徒たちとも合流していたから二人だけで回っていたわけではないことに少しホッとして、それも自己嫌悪をかきたてた。
エリスが何か言いたげに僕を見ているのを気が付かないふりして巡回をはじめると、後ろからため息が聞こえた。
「いいの?」
「何が?」
「婚約者さん。忙しくてあまり会っていないんでしょう?」
「今も巡回中だ」
「少しくらい抜けても大丈夫だと思うけど」
「いいんだよ。仕事だ」
エリスが再度ため息をつく。
「一緒に歩いていた子、辺境伯様のご子息でしょう?取られちゃうわよ」
「リリアが僕の婚約者だって、彼も当然知っているよ」
「・・・まあ、いいならいいけれども・・・ちゃんとしたほうがいいと思うわ」
「わかってる、大丈夫だよ」
呆れたような睨むような眼を向けられたけど、それ以上エリスは何も言わなかった。
それから秋祭りは終わり片づけに奔走し、今度は年越しパーティの準備もあり、後期試験の準備もあり、気が付いたらまた2ヵ月ほど経ちすっかり風は冷たくなっていた。
クラス委員は毎年、高学年の生徒会役員以外の優秀者から選ばれるが、せっかく教えた仕事をもう一度教えるのは面倒だから次年度も継続できるように成績を落とすな、とかなりのプレッシャーをかけられる。
僕も例にもれず、生徒会室に缶詰状態で試験勉強をしていた。生徒会役員は高位貴族で構成されていて、彼らは幼少期から家庭教師がついて教育を受けているから学校の試験なんて特に準備の必要がないらしい。
だから勉強を見てあげるよ、という体でクラス委員が集められ、監視されてスパルタ教育だ。まあ、ただでさえ仕事が忙しくて夜の自習時間までもが削られているのだから、それくらいやらないと維持できないし、こき使っているという自覚がある彼らのせめてものサポート、という側面もあるんだろう。とにかく頑張れば成績も上がるし彼らの覚えも良くなるのだからやらないという選択はない。
そんなこんなで忙しくしているうちに新年を迎えることになった。
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