第11話 秋祭り、キース様と遭遇
私は商品の説明と売り子、彼は風習の説明と分かれながらも同じ北方同士、息の合った説明で、終了時間よりだいぶ早く商品が売り切れてしまった。せっかくだから他のブースも見に行こうと皆で移動していたら実行委員の腕章をつけたキース様とエリス様が連れ立っているところに出くわしてしまった。その時はたまたまグレッグ様と並んで歩いていたから、キース様としては年下とは言え同じ北方の上位貴族の子息であるグレッグ様に挨拶しないわけにもいかず、立ち止まった。
「マイニング殿、ご無沙汰しております。本日は我々の伝統文化についてご説明されていたとお伺いしました。盛況だったようで、同じ北方出身としてたいへん喜ばしく思います」
「ああ、ライズ殿、お久しぶりです。リリア嬢が素晴らしい刺繍を教えてくれて、皆で刺して出品することにしたのです。北方の認知度がこれで上がればいいのですが」
にこやかに会話しつつ、私の方をちらっと見る。
「・・・リリアも元気かい?」
「ええ、元気よ、キース様」
キース様、と私が呼んだことに少しびっくりしたようで、キュッと唇が引き締まった。
「ああ、そういえば二人は・・・」
しまった、グレッグ様は私たちの婚約を知っている。ここで皆に知られたくないな、と思って慌てて遮ってしまった。
「生徒会のお仕事が忙しいんでしょう?私たちはせっかくだから他のブースも回ることにしたの。そろそろ行くわ。ね、グレッグ様」
「あ、ああ・・・じゃあまた」
「ごきげんよう」
何かを察したように口を閉じたグレッグ様を少し強引に連れていく。後ろから視線を感じたが振り向かずに歩いていると、グレッグ様がすこし顔を寄せ、声を落として聞いてきた。
「君たち、婚約していただろう?何かあったのかい?」
「何かあったかなかったかと言えば、何もないんですけれども、入学してからほとんどお会いしてませんし」
「長期休暇中は一緒に過ごさなかったのかい?」
「両家の仲が良いものですから、我が家で集まりはいたしましたよ」
「ふぅん・・・」
グレッグ様はなぜか興味ありそうでもっと聞きたそうではあったが、これ以上話すこともないのでさりげなく他の皆とも塊になるように移動し、そこで会話は終わった。
秋祭りの終わりにはキャンプファイアーが行われる。中庭に櫓を組み、周りに置かれた大小のテーブルには友達同士だったり、カップルだったりが思い思いに陣取り、会場の隅に置かれた軽食や飲み物を楽しんでいた。私たちはそのままクラスの仲間と大きめのテーブルに集まり、男性陣が取ってきてくれた軽食をつまむ。夜は少し冷えるようになってきたので、火が揺らぐたびに顔や体に熱が当たって心地よい。皆の顔も炎の照り返しでいつもよりキラキラと興奮しているように見えた。
来年は北方だけじゃなくて東方の民芸品も出しましょうよ、と東の隣国出身の母を持つクラスメイトが言う。東は東で極細い糸で煌びやかな刺繍を刺した衣装が人気だ。さすがにドレスを作るのは難しそうだが、サッシュベルトやリボンなどなら刺せるだろう。
民俗学好きの男性陣は、東の隣国の香に興味があるらしい。香水が主流の我が国と違い、隣の隣国は香を焚くことが多く、それが最近高位貴族に人気があるらしい。色々と身分や年齢、その場の格式などでふさわしい香りというのがあり興味深いのだが、本などで知識は得られるけれども実際に体験してみたことは無く、どうにか安価で手に入らないだろうか、と思案していた。
仲の良いクラスメイト達と話しているうちにいつのまにかキース様のことは頭から抜けていた。こんな風にクラスの皆で過ごせるのは低学年のうちだけかもしれない。これから皆どんどん婚約が決まっていったりするのだから、そのうち一人二人とカップルで過ごすために抜けていくだろう。そう思ったら、今はこのクラスのこの時間がとても愛おしく思えた。
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