第10話 新しい人間関係と秋祭り
新学期、長期休暇でお母さまに話をしたせいか、穏やかに学校生活が再開した。キースにいさ・・・違う、キース様が来ないのはもちろん、なぜかお兄さまも前期よりは来なくなった。まあそんなしょっちゅう妹に会いに来る過保護っぷりも困るのでちょうどいいかもしれない。
私は同じクラスの仲良くなった友達と刺繍クラブを作って楽しみだした。長期休暇の課題だった刺繍がことのほか評判が良く、先生だけではなくクラスの女子生徒の間でも絶賛されたのだ。北方の伝統工芸品なので王都では珍しく、土産物として人気だったものを作ったのだから教えてほしいと皆に言われた。王都の繊細な刺繍と違い、糸も太くて色鮮やか。無骨ではあるがそれが良いらしい。それぞれのモチーフの説明も加え、風習なども語っていたら民俗学好きの男子生徒からも声がかかり、勉強会にも呼ばれた。
キース様がいなくても学校生活は充実していたし楽しかった。
民俗学の勉強会は、商会を持っている家の次男三男が中心だった。卒業後、家を継げない彼らは経営している商会で働くことになる人が多かった。よほど成績が良ければ官吏になるのもいいが、家督が長男に移った際に家に余剰の爵位が無い限り身分は平民になってしまうので、長男を支えつつ家を盛り立てていき、自分の商会を持つ夢を語っていた。
そのためには国内外の文化・風習・特産品などに精通するべきということで始めた勉強会だった。彼らは自分で身を立てなければならないからか、学ぶことに貪欲だった。
民俗学勉強会の他にも語学、経営学などを学校の授業以上に学んでいた。私は前期のやけっぱちな勉強が功を奏していて後期になっても授業についていけないようなことはなかったし、そのような仲間のおかげでいつのまにか勉強が楽しくなっていた。
低学年はクラス委員という制度は無いが、このまま頑張っていけば高学年になるときにクラス委員になれるかもしれない。そのころにはもう兄さまたちは卒業しているので何のわだかまりもなく活動できるだろう。そして、もし婚約が解消になっても成績が良くクラス委員などをやっていたら王宮で女官とかになれるかもしれない。
お母さまの助言のおかげか、思いつめていた前期が嘘のようにスッキリしていた。
秋祭りは後期がはじまって1か月後に開催される。かなりの強行軍にはなるが皆で小さなタペストリーを作ってバザーに出品することにした。その横にはタペストリーやモチーフ、風習の説明を民俗学勉強会の皆がパネルを作って掲示する。色とりどりの刺繍は田舎の情緒豊かで目を引いたらしく、多くのお客さんが来てくれた。
王都に時々来る異国のバザールみたい、と言われたのは解せないけれども。れっきとした国内の田舎である。王都はこの国の比較的南の方にあって、私たちの領がある北方との間に低いけれども山があることで遠いイメージがあるようだ。
山といっても舗装こそされていないが馬車の通れる道はあるし途中に宿場もある。それでも王都で育った人にとっては南の隣国の方が馴染みがあるらしい。隣国との貿易で町が発展しているし南方のリゾート地も人気なので、わざわざ山を越えて長閑なだけの北方に来ようとはあまり思わないのだ。だからこそ、国内なのに謎の異国情緒を感じるタペストリーなどの伝統工芸品が好事家に好まれて冬の大事な産業になっているのだ。
そんな土地柄だからこそ、あまり人の出入りがなく、何となく北方は北方でのんびり助け合っていて、引っ越すにも結婚するにも近場でというのが多い。兄さまとキース様は次期当主だから、私は子爵夫人になるのだからと王都の学校に来たが、北方の貴族の次男三男などは王都の学校ではなく、自領や王都よりよっぽど近い北の辺境領の学校に行くことも多く、私たちのクラスには北方出身の人は私ともう一人、うちよりもっと北にある辺境伯の三男しかいなかった。
辺境は国の端、普通は隣国と接して国を守っているものだが、北に関してはその先は険しい雪山と切り立つ崖、荒れ狂う海となっており、何から国を守っているかと言うと獣と野盗である。ただ土地が広いので国軍の訓練施設があり、共に切磋琢磨している。辺境領の三男はどうも武の才能がないということで、王都で学び、政治経済的分野で領の発展に尽力するつもりらしい。名をグレッグ・マイニングという。北方らしい薄い髪色に赤みがかった目、軍人に囲まれていたら華奢に見えるかもしれないが、背も高くガッシリしていた。さすが辺境伯様、爵位を複数持っているので彼は長じたら子爵位を継ぐ予定らしい。
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