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第1話 幼い婚約―政略抜き

本日より1月3日までは、毎日2話ずつ更新します。

最終話まで執筆済みですので、少しずつ読んでいただけたら嬉しいです。

幼い頃に整った大好きなお兄ちゃんとの婚約は、ただフワフワとして楽しかっただけだった。 何かが違うなと気が付いたのは12歳、それでもほんの子供の頃だった。


ライズ子爵家長男キースと、私、メロー男爵家リリアの間で整った婚約は、特に政略的なこともない、親同士の仲が良く領地が隣の幼馴染だった、というそれだけのものだった。キース兄さまが13歳、私が9歳の頃だった。

貴族の結婚なので一応国には届け出るが、事務的に受理されて、新聞の片隅にちょっと載るくらい。上位貴族同士など国への影響が大きい婚約に関しては物言いがつくこともあるらしいけれども、農業が盛んなだけの弱小貴族の私たちには無縁で、すんなり受理されて新聞に載って知り合いからお祝いの品が届いた。


我が家には同じく4つ上の兄ウィリアムがいて小さいころからお互いの家を行き来して遊んでいた。物心がつく頃には私は二人の後をついてヨチヨチ歩いていた。兄たちは時々私の面倒も見てくれていた。だいたいは私を振り切って走って行ってしまったけれども。

私が6歳の時、彼の下に弟ルイが生まれた。年の離れた、小さな小さな赤ん坊に皆メロメロだった。兄たちの関心が私から赤ん坊に移ったのが少し寂しかったのを覚えている。まあ、私もメロメロだったのだけど。


兄たちは12歳になると王都の学校に通うことになり、寮に入った。私はその時8歳で、元気いっぱいに田舎で過ごしていたが、ずっと遊んでくれていたキース兄さまとウィル兄さまがいないのはとても寂しく、長期休みで帰ってくるのを指折り数えて待っていた。


入学して半年、初めての長期休暇に二人は連れ立って帰ってきた。


「おかえりなさい、キース兄さま、ウィル兄さま」


「ただいまリリア。元気にしてたかい?ちょっと見ないうちに背が伸びたんじゃないか?」


「リリアただいま。キースのやつ、リリアにお土産買うからって、髪は伸びたかとか背はどうだとかしきりに気にしてたんだよ。半年でそんなに変わるわけないのにな」


「おい、お土産、びっくりさせようと思ってたのに先に言うなよ!」


キース兄さまは笑いながら頭を撫でてくれた。半年前はギュウギュウ抱きしめてくれたのに、と思って抱き着いたら慌てたように引きはがされた。


「リリア!だめだよ、淑女は簡単に男に抱き着いたりしちゃだめなんだって、マナーの授業で教わったんだ」


「キースはマナーの授業も真面目に受けてたからなあ。でもさ、あんなの都会の上位貴族だけなんじゃないか?うちみたいな田舎貴族じゃ領民との距離も近いし、かしこまったパーティとかもないし」


「おいウィル、お前だって当主になったら年何回かは王宮のパーティに出席することになるんだからちょっとは覚えとけよ。・・・そんなわけでリリアも立派な淑女になれるように勉強するんだぞ」


「お母さまに少しは教わっているわ。テーブルマナーとか、刺繍とかダンスとかも」


「そうか、頑張っているんだな。まあ今まで通りの元気なリリアも可愛いけど、知っておいて損はないから。あと、くれぐれも男に抱き着いたりするんじゃないぞ」


「お兄さまにも?」


「うーん、ウィルは兄弟だから・・・じゃあ、ウィルと俺と、ルイだけはいいことにしよう!」


そういって、一度離された体をギュウギュウ抱きしめてくれた。私は嬉しくてキースお兄さまの胸にぐりぐり頭をこすりつけてしまう。その間にルイが体をねじ込んできて4人わちゃわちゃと応接室のソファでじゃれているのを両家の両親が目を細めて見ていた。少し大人になった兄たち、まだまだ子供の私、まだ文章にもなっていない覚えたての言葉で無邪気にはしゃぐ幼児。とても平和でとても幸せな風景だった。


ずっとこのまま可愛い子供たちでいてほしいと思ったのは、きっと両家の母親たち。その夏のうちに両家の間で、キースお兄さまと私の結婚の話が出た。お母さまに「キースのお嫁さんになる?」と聞かれたとき、「お嫁さんになる!」と即答したことは覚えている。

ただ、私はまだ恋だの愛だのがわかるほど成熟していなかった。田舎で周りとの接点もあまりなく、同年代の男の子はキース兄さましか知らなかった。都会の子たちに比べて圧倒的に幼かったのだ、私は。

だから、キース兄さまとずっと一緒にいられるということにただ喜んでいて、私を妻にすることを、私よりずっと年上のキース兄さまが本当はどう思っていたのか、あまり真剣に気にしなかったのだ。


諸々の話し合いの後、キース兄さまが13歳、私が9歳の時に婚約の届け出をした。王都のキース兄さまとは手紙で交流をし、半年に一度、長期休みに帰ってきて一緒にピクニックをしたり、遠乗りにいったりした。キース兄さまはいつも優しくて、婚約者としてプレゼントも欠かせなかったし、何の不満もなかった。


私は子爵家の家政を取り仕切るための勉強や、淑女教育も始まって充実した日々を送っていた。とはいえ、お互いの領の主要産業が農業であることや、小さい領ならではの領民との距離の近さなども相まって気を抜くと淑女の仮面は取れていることが多いのだが、領民に慕われる領主の妻としてはそれくらいがちょうどいい、公式な場所でちゃんとできていれば良し、というのが両家の母たちの意見だったので教育を受けつつものびやかに過ごさせてもらっていたと思う。今となってはのびやかすぎたんだろうな、と思うけれども。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

楽しんでいただけましたら、ブックマークや高評価をいただけると嬉しいです^^

次の更新は21時頃です。

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