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第5話:薪割り? 剣でやるのが常識ですよね?

ここからは、しばらくリオナ視点です。

私とおじいちゃんが始めた『陽だまり相談所』の評判は、少しずつ町に広がっているみたいで、なんだか嬉しい。


今日の依頼も、町の人からのささやかな助けの求めだった。相談所の扉を叩いたのは、腰をくの字に曲げた、人の良さそうなおばあさんだった。


「こんなこと、相談していいものか迷ったんだけどねぇ…」


おばあさんは申し訳なさそうに切り出した。


「冬に備えてまきを用意したいんだけど、見ての通り、腰が悪くてねぇ。この丸太の山を前に、途方に暮れていたのよ。そんな時、あんた様の噂を聞いてね。あんた様なら風魔法か何かで丸太を切れるんじゃないかと思って」


話を聞いた私は、すぐさま元気よく胸を叩いた。


「おじいちゃんではなく、ここは私にお任せください! 私、 薪割り、得意なんです!」


お年寄りが困ってるって聞いたら、じっとしてなんていられない。それに、体を動かすのは大好きだ。


「リオナ、一人で大丈夫か?」

「平気だよ、おじいちゃん!私だって『陽だまり相談所』の相談員なんだから! それにおじいちゃん、腰痛持ちだもんね。体を動かすのはやめた方がいいんじゃない?」

よく腰が痛いって言うから、無理はさせられない。ここは私の出番だ。

「ふむ…。では、わしは留守番をしておるかのう。くれぐれも、怪我だけはせんようにな」

「はーい!」

心配そうに見送るおじいちゃんに元気よく手を振って、私はおばあさんの家へと向かった。


おばあさんの家の裏庭には、言葉通り、丸太が見上げるほどの山になっていた。ひゃー、これはやりがいがありそうだ!


「さあ、やりますか!」


気合を入れる私に、


「お嬢ちゃん、斧はこっちにあるけど…その細腕で、本当に大丈夫かねぇ…?」


おばあさんは心底心配そうに、私の顔と丸太の山を交互に見比べる。無理もない。


「いえ、大丈夫です。それに道具なら、もっと使い慣れたものがあるので」


私はそう言うと、腰にさげた剣のつかに手をかけた。きらりと陽光を反射して、磨き上げられた刀身がまばゆい光を放つ。


それを見たおばあさんの目が、まん丸になった。


「け、剣!? お嬢ちゃん!? どうして剣なんか」


「えへへ。こっちの方が振り慣れてるんです!」


そう。私にとっては、斧を振り下ろすより、この剣で素振りをする方がよっぽど簡単で、体に馴染んでいる。体の力を抜き、意識を剣先だけに集中させる。


丸太をじっと見つめると、不思議とその表面に一本の細い光の線が見える。まるで木が「ここを切って」と教えてくれているみたい。たぶん、この線に沿って剣を振れば、一番きれいに割れるんだ。普通の人には見えないようで、これも私の勇者の力のおかげらしい。


そのときだった。町の自警団員が、剣を構える私を見て、慌てたように声をかけてきた。


「おい、そこのお嬢ちゃん、危ないぞ! 薪割りなら、ちゃんと斧を使わないと。そんな細い剣で切れるわけ……」


自警団員の心配の言葉が、まだ言い終わらないうちだった。


「それじゃあ、行きます! えいっ!」


短い気合と共に、私は剣を振り下ろす。狙いは丸太の中心線。


スパァン!


風を切る鋭い音の直後、乾いた小気味いい音が響き渡った。

分厚い丸太が、まるで熟した果実のように綺麗に真っ二つに割れる。断面は驚くほど滑らかだ。うん、今日も調子がいいみたい!


「……え?」

自警団員は、あんぐりと口を開けたまま、言葉を失っていた。


「やあっ!」

「せいっ!」


私は次から次へと、剣の素振りでもするかのように、剣を振るっていく。右、左、右上段、胴切り。一つ一つの動きは、それはもう、薪割りというよりは演舞に近いかもしれない。体の芯から力が湧いてきて、気持ちのいい汗がじんわりと額に滲む。楽しい。ふと横を見ると、自警団員の視線は、私の手の中の剣と、地面に転がった薪とを、信じられないものを見るかのように何度も往復している。


だんだん楽しくなってきて、私は少しだけ速さを上げた。

スパパパァン! と軽快な音が連続で響き、薪の山が面白いように築かれていく。気持ちのいい汗が、額を伝って頬を流れる。やっぱり、こうやって人の役に立てるのは最高に気持ちがいい!


どれくらいの時間が経っただろう。最後の丸太を切り終えた私は、剣についた木屑きくずを布で丁寧に拭うと、鞘へと納めた。


「ふーっ、終わりました!」


達成感いっぱいに振り返ると、おばあさんは、私と、私の後ろにできた薪の巨大な山を、やっぱり交互に何度も見比べていた。やがて、わなわなと震える指で私を指さし、かすれた声で言った。


「あ、あんた、一体何者なの…?」


その言葉に、私は「してやったり」と笑いながら、ぺこりとお辞儀をした。


「陽だまり相談所のリオナでした! また何かあれば、相談に来てくださいね」

 

 自警団員は、何も言わずに背中を向け、何度も首を横に振りながら去っていった。

おばあさんは、その後何度もお礼を言ってくれて、依頼料の他に、手作りの団子まで持たせてくれた。役に立てて嬉しいし、感謝されてもっと嬉しい。私はほくほくした気持ちで、相談所への帰り道をスキップした。


「ただいまー! 無事に終わったよー!」


相談所の扉を開けると、書斎からおじいちゃんが「おお、ご苦労じゃったな」と優しい顔で出迎えてくれた。

「うん! これ見て! 依頼料とは別に、おばあさんがお礼にって持たせてくれたお団子!」

私は、手にした袋を掲げてみせる。

「しかもおばあさん、依頼料にも色をつけてくれたよ」

私が薪割りの一部始終を自慢げに話して聞かせると、おじいちゃんは「そうかそうか、それは良かったのう」と、目を細めて嬉しそうに相槌を打ってくれる。その時間が、私はとても楽しかった。


その夜。

自分の部屋のベッドに寝転がって、私は今日の出来事を思い出していた。おばあさんの驚いた顔。心から感謝してくれた笑顔。人の役に立てた満足感で、胸の中がぽかぽかと温かい。

この力で、これからもたくさんの人を助けられたら、すごく素敵だ。


でも、ふと、胸の奥に小さな影が落ちた。

私は【勇者候補】。それは、いつか魔王なんていう、とてつもなく強くて悪いやつと戦うかもしれないっていうこと。そのために、この力はある。


今日の薪割りは、ただの人助けだった。でも、これから先、もし恐ろしい物とか、悪い人が現れたら…? その時、私は剣で、相手を傷つけることになるんだろうか。

ううん、傷つけるだけじゃないかもしれない。命を、奪ってしまうことだって。


そうなったら、私はどうなっちゃうんだろう。

そして、そんな私を見たら、おじいちゃんは…?


考え始めると、どんどん胸が苦しくなってくる。


「……ううん! 考えても仕方ない!」


私はぶんぶんと頭を振って、嫌な考えを追い出した。


「今は、目の前の人を助けるだけ! そうすれば、きっと大丈夫!」


そう自分に言い聞かせて、ぎゅっと目を閉じる。明日もまた、誰かが相談に来てくれるといいな。そう願いながら、私はいつの間にか、深い眠りに落ちていた。


本話をお読みいただき、誠にありがとうございます。本作は書籍化を目指しており、少しでも「面白い」と感じていただけましたら、ブックマークやページ下の評価(☆☆☆☆☆)で応援いただけますと、大きな励みになります。どうぞ作品を育てていただきますよう、よろしくお願いいたします。第一部完結まで、毎日朝7時頃に更新します。

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