第41話:おじいちゃんじゃないけど、あー、これだよ、これ
あの地下遺跡での死闘から、数日が過ぎた。わしの腰は、毎日の温泉による湯治と、安静な生活のおかげで、ようやく痛みも和らいできた。
今日は久々に、お気に入りの安楽椅子に深く身を沈め、窓から差し込む柔らかな陽光を浴びておった。ああ、これこそが、わしが求めていた第二の人生というものじゃ。この穏やかで、何気ない時間こそが、何物にも代えがたい宝物なのだ。
窓の外に広がる庭からは、若者たちの楽しげな声が聞こえてくる。わしの愛しい孫娘リオナと、その友人である花屋のノエル。二人はハーブの手入れに精を出しておった。
「リオナちゃん、このハーブ、前よりもずっと大きくなったみたい。きっと、リオナちゃんのおかげだね」
「えへへ、そうかな? みんなが元気に育ってくれて嬉しいよ!」
ノエルの優しい声に、リオナが太陽のように明るい笑顔で応える。二人の周りを、すっかり元気を取り戻したフィーが「キュピ!」と嬉しそうに飛び回っておる。実に、平和で、愛おしい光景じゃ。
ふと、庭で笑うリオナの動きが、一瞬だけ止まったのが見えた。彼女は、何かを確かめるように、きゅっと自分の拳を握りしめていた。じゃが、すぐにその力はふっと抜け、彼女は少しだけ寂しそうな、それでいて、安堵したような、とても優しい顔で空を見上げた。
リオナは、あの戦いで発揮した特別な力を、もう使えなくなったと言っておった。
「レーンフォルト先生、一局どうですか」
わしの思考をさえぎったのは、目の前の盤面を指さす、トーマスだった。
「いいじゃろう、若いもんにはまだまだ負けんよ」
そうして、わしとトーマスは遊戯に興じる。
「うーん、また負けました」
「トーマス君、まだまだじゃな。挑戦はいつでも受けて立とう。このわしを唸らせるような一手を、期待しておるぞ」
わしがからかうように言うと、彼は「もっと勉強します」と、真面目な顔で悔しがっておる。この実直さこそが、彼の美点じゃな。
そこへ、リオナとノエルが、淹れたてのハーブティーを盆に乗せて居間にやってきた。
「おぉ、リオナ。いい香りじゃな。いつもお前の淹れる茶は格別じゃ」
「もう、おじいちゃんったら。はい、トーマスもどうぞ」
「あ、リオナ、ありがとう」
若者たちの微笑ましいやり取りに、わしの口元も自然と緩む。四人と一羽で、他愛のない話に花を咲かせる。この、何でもない、温かい時間。これこそが、わしらが命を懸けて守ったものなのじゃ。
コン、コン。そんな和やかな談笑の最中、少し遠慮がちに、相談所の扉がノックされた。
「はーい!」
リオナが、すっかりいつもの元気な調子で返事をし、ぱたぱたと玄関へと向かう。扉を開けると、そこに立っていたのは、見覚えのあるリオナと同年代の若者だった。彼は、もじもじとして、
「あ、あの…!リオナさん!」
リオナは少し戸惑ったように目をぱちくりさせていた。
「どうか、僕の悩みを、聞いてもらえないでしょうか!?」
若者は、何かを切実に相談したいというように、必死の形相でそう言った。今日の午後はゆっくり書物でも、と思っていた考えを諦め、わしは新たな相談者を迎え入れたのだった。
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