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第39話:さすがに疲れたので、帰ります

どこまでも沈んでいくかと思われた意識が、不意に、凄まじい力で現実へと引き戻された。最初に感じたのは、全身をさいなむ、骨の髄まできしむかのような激痛。そして、耳に届いてきたのは、わしの名を呼び、悲嘆にくれる、仲間たちの声だった。


「おじいちゃん…! いやだ、いやだよぉ…!」


愛しい孫娘の、胸が張り裂けそうな泣き声。わしは、ゆっくりと、重い瞼をこじ開けた。ぼやけていた視界が、徐々に焦点を結んでいく。目の前には、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった、リオナの顔があった。


「おじいちゃん……!よかった……!」


リオナはわしの胸に顔を埋めて、子どものようにわんわんと泣きじゃくった。


「死んじゃうかと思った……。大好きだよぉ、おじいちゃん……!」


わしが目を開けたことに気づいたリオナが、喜びに満ちた声を上げる。その声に、周囲で嗚咽を漏らしていた者たちが、一斉にわしを覗き込んできた。


「ししょう~!」


クララも、その知的な眼鏡を涙で濡らしながら、子どものように泣きじゃくっていた。ノエルとトーマスも、顔を真っ赤にして号泣していた。そして、少し離れた場所で、ゴドルフとダリウスが、安堵したような、それでいて呆れたような、複雑な表情を浮かべているのが見えた。

どうやらわしは、生きているらしい。


口の中に、様々な薬草の、苦く、それでいて力強い味が残っていた。傍らには、空になった、小さなガラスの小瓶が、何本も転がっておった。

わしが不思議に思っていると、ゴドルフがやれやれといったふうに、顎でトーマスの方をしゃくった。


「…ったく、無茶しやがって。そこの薬屋の小僧が、狂ったようにその小瓶どもをお前の口に、次から次へと突っ込んどったぞ」


そして、わしの無事を確認したリオナは、はっとしたように、今度は別の場所へと駆け寄っていった。


「フィー! しっかりして!」


彼女が向かった先には、フィーが力なく横たわっていた。リオナが涙ながらにその小さな体をそっと抱き上げると、フィーもまた、ゆっくりと、そのつぶらな瞳を開けた。


「キュピ…」


弱々しくも、しかし確かな声だった。その声を聞き取ったノエルが、驚きと喜びに満ちた表情で、リオナに伝えた。


「リオナちゃん! フィーが…! 『あのペンダントだよ。とても強い守りの力が、最後の最後でおじいちゃんを守ったんだ。おじいちゃんは死んでいなかった。だから、僕は命を犠牲にせずに済んだんだ』って…!」


ペンダント…? フィーを大切そうに抱いたリオナは、再びわしの元へと戻ってきて、妻の形見のペンダントをわしの手のひらに置いた。この、小さな魔石が、わしを…。リオナは、涙で濡れた顔で、しかし、満面の笑みを浮かべて、こう言った。


「おばあちゃんが、私とおじいちゃんを守ってくれたんだよ!」


その言葉は、どんな治癒魔法よりも、わしの心の傷を、そして体の痛みを、優しく癒やしてくれた。


(…エリアーナ、お前はずっと、わしらを見守ってくれていたのだな。…ありがとう。これからもこの子のことを見守ってやってくれ)


わしは、心の中で、今は亡き最愛の妻に、静かに語りかけた。


「さあ」


わしは、ゴドルフとダリウスの肩を借りつつ、自らの足で、ゆっくりと立ち上がった。そして、満身創痍でありながらも、この絶望の淵から見事生還した、勇敢で、そしてかけがえのない仲間たちを見渡し、力強く告げた。


「帰ろう。こんな薄暗い場所はもうこりごりじゃ。みんなが、我々を待っておるぞ」


わしの言葉に、仲間たちは力強くうなずき返してくれた。


本話をお読みいただき、誠にありがとうございます。本作は書籍化を目指しており、少しでも「面白い」と感じていただけましたら、ブックマークやページ下の評価(☆☆☆☆☆)で応援いただけますと、大きな励みになります。どうぞ作品を育てていただきますよう、よろしくお願いいたします。第一部完結まで、毎日朝7時頃に更新します。

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