プロローグ
その名は、畏敬と共に語られる、伝説そのものであった。
【王国首席宮廷魔導師】、アルセイン・レーンフォルト。
火・水・風・土・光・闇・無――あらゆる属性の魔法を自在に放つその姿から、人は彼を【七星の賢者】と讃えた。
ひとたび戦場に現れれば、敵味方を問わず全ての者が武器を置いたことから、人は彼を【無血の聖人】と崇めた。
時に太陽を生み出し、時に雨を降らせ、時に地を揺らし、天変地異すら意のままに操るその力を前に、人々は彼を【神の代行者】と畏れた。
ただ一人で国家戦力に匹敵し、騎士、魔導士、学者、神官、国王でさえも、あらゆる人が彼を【王国最強】と認めるに至った。
全盛期の彼は、国一つ、いや世界を手中に収めることすら可能だったかもしれない。
しかし、長きにわたり君臨し続けた彼は、忽然と表舞台から姿を消した。
人々は噂した。さらなる力を求めて異世界に旅立ったと。あるいは、禁断の魔法に手を出して消滅したのだと。
――だが、その真実を知る者は、少ない。まさか、その生ける伝説が、定年退職によって今やただの老人として片田舎の町に住み、腰痛に顔をしかめながら最愛の孫娘と一緒に『お悩み相談所』を始めたなど。
これは、あまりにも強すぎて不自由だった賢者がようやく手に入れた穏やかな第二の人生と、その隣で花開く新たな勇者のつぼみの物語である。
本話をお読みいただき、誠にありがとうございます。本作は書籍化を目指しており、少しでも「面白い」と感じていただけましたら、ブックマークやページ下の評価(☆☆☆☆☆)で応援いただけますと、大きな励みになります。どうぞ作品を育てていただきますよう、よろしくお願いいたします。第一部完結まで、毎日朝7時頃に更新します。