実は私、二回目なんです
彼女の実家にあいさつを済ませた帰り道、ふたりで近所の評判のラーメン屋に入った。
見た目通りこってり、がつんと来る味だった。
「うまいなあ、これ……。君は子供の頃から何度も通ってたんだろうね」
そう言ったとき、気が進まなそうな様子の彼女が箸を置いて、ぺこりと頭を下げた。
「隠していてごめんなさい、実は、私……二回目なんです」
胃に入ったばかりの熱いスープが、喉の奥で固まった気がした。
……えっ、二回目って、再婚なの?
今ごろそれ言う?
さっき会ったご両親も、そんな素振りはなかったけど……。
俺だけ、知らされてなかったのか?
箸が止まる。ラーメンの味がしなくなった。
結婚って、そういうことも受け入れる覚悟が必要なんだよな。
再婚なんて人の値打ちに関係ない――そう思ってたけど、いざ自分のこととなると……やっぱり引っかかる。
理由とか、前の相手とか。
彼女は伏し目がちに続けた。
「ここのラーメン、実は苦手なの。背脂がくどすぎて……
子供の頃に父に連れられて一度だけ来て、今日で二度目。
でも、あなたがあんまり嬉しそうだから、言いづらくて」
えっ?
顔を上げた彼女が、まっすぐこっちを見た。
「……でも、恋人のうちは合わせていられたけど、結婚するなら、ちゃんと伝えなきゃって思ったの」
……なんだ、ラーメンの話か。
本気で動揺した自分が可笑しくて、吹き出しそうになる。
よかった――心からそう思った。
彼女のラーメンの好みも知らないとね。
「じゃあ、次は君のおすすめのラーメン屋に行こうか」
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