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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

薫くん

作者: 毛利

高校生のときに学校の授業で書いたものを少しだけ手直ししたものです。

最初の一文が指定されていて続きを書くという課題でした。

「拝啓 ひとつだけ教えて下さい。困っているのです。

私が息子を殺したのでしょうか。私が悪かったのでしょうか。」



 詳細は無くそれだけが書いてある便箋を机に放り出し、冷蔵庫から取り出した缶ビールを開ける。



 転校先は、かなり田舎だった。今までも転校を繰り返す中、田舎に来たことはあったが一番田舎だったように思う。


 歩くだけで軋む廊下に顔をしかめながら教室に向かう。おじさんというよりおじいさんに近い担任と教室に入った。


 「転校生や!」


 坊主頭の少年の声に続いてわっと歓声が上がる。慣れた光景だった。どうせここもすぐに去るんだから、と考えながらぐるっと教室を見やると一人だけポツンと座る少年がいる。みんなが仲良く大騒ぎしているのに一人でいるのが、なんだか異様だった。


「青山翔あおやましょうです。東京から来ました。」

「東京!?ほんま!?」


 読みどおりだ。ここからうまく立ち回れば、東京の話だけでしばらくもつ。こことそんなに変わらないよ、などと言いつつ馴染んでいけば嫌われずに人気者として終えることができる。

 指示を受けて席につくやいなや、周りの子が興味津々で話しかけてきた。どこに行っても変わらない反応に呆れつつもにこやかに対応するしかなかった。



 休み時間になり、僕を中心に置いてクラスが盛り上がっていてもさっきの少年は一人でポツンと座っていた。


 「あの子はなんていうの?」

 「ああ、薫かおる?」


 互いに目を合わせながらくすくす笑う彼らを見て確信した。避けられているのだろう。深入りすると面倒だ。

 それからの流れはもはや僕にとっては”日常”だった。今までと違って一つだけ、薫と呼ばれていた少年が気がかりだった。


 昼休みに少年はいつも、弁当を抱えて教室を出ていく。その日はなんとなく、考えるより先に僕は彼を追いかけていた。


 「薫くん」

 「どうしたの」

 「いつも外で食べてるの?僕も一緒にいいかな」


 悩むように小さくうつむく彼の顔を、初めてじっくり見た。他の男の子たちとは違い、何故か真っ白な肌をしていた。珍しいくらい綺麗な二重まぶたが瞬きをするたびに丁寧に

織り込まれる。


 「君も避けられるから、だめ」

 「どうして避けられてるの?」


 沈黙し、早足で逃げるように歩き出す彼の横につき追いかける。


 「男の子好きなのバレちゃったから」


 吐き捨てるような口調でそう答え、彼は僕を置いて走り出した。鈴のような高い声と、中学生にしては小さい後ろ姿が頭から離れなかった。




 そこからはよくある話だ。詳しく思い出すまでもない。彼が気になって仕方がなかった僕は毎日彼と弁当を食べ、仲良くなり、そして恋をした。僕も避けられていたが、元々友達でもなんでもない彼らから何を言われても大して気にならなかった。何より僕には薫がいた。


 また引っ越すという話を聞いたのは、雪の日だった。

 「何度もごめんね」

 困ったような顔でそう謝る母は、僕が快諾すると信じて疑わないようだった。


 「僕だけ残るよ」


 初めての反抗の言葉に呆気にとられる両親を前に、目も合わさずにまくし立てる。

「近くに寮のある高校があるじゃないか。そこに行くよ。」


 返事も聞かないまま部屋に戻り、布団に入って電気を消した。両親の小さな話し声がリビングから聞こえてくる。困っているだろうか。たまにはわがままを言ってもいいだろうと自分に言い聞かせ、目を閉じた。





 薫が首を吊って死んだのは、同じ高校に進学すると伝えた翌々日のことだった。この村に残る意味のなくなった僕は東京の高校を受験し、進学した。両親が安心しているのが目に見えて分かり複雑な気分だった。

 

 薫の自殺について詳しいことは何も聞いていないが、告別式の日の薫の母親の態度からは僕が嫌われていることがよくわかった。息子のことを認められない母親が、僕と同じ高校に行けることになったと嬉々として話す薫に何か言い、それに傷ついて首を吊ったというところだろう。まあ、何を考えても想像の域を出ないが。


 あの村にいた期間が短かったからか、あの恋が思春期の気の迷いだったからなのか、恋人を亡くしたという経験であるはずなのになんだか夢で見たような現実味のない思い出だ。今でもたまに届く、誰に対してなのかよくわからない謝罪や嘆きの手紙だけが現実であることを思い返させる。


 「お前が殺したんだよ」


 そう呟いて便箋を破くと、何故か涙がこぼれそうになった。


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