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賞味


「お茶飲むか?」

「いただきます」


ハーブティーをコップに淹れて隣に腰掛けたメティに渡した。


「熱いから気をつけて」

「ありがとうございます」


目の前には焚き火と川、見上げれば満点の星空、そして隣にはお茶を冷ましているエルフ。まさに異世界って感じ……ん、あれ?異世界…?ここはただの世界だろ、俺は今なんでそう思ったんだろう。前にも似た様なことがあった気がする…うーん、なんだか記憶が曖昧だな。何か大きな事を忘れている様な気がする。


「どうかしましたか」

「俺、いま眠っていたか?」

「えっと、目は閉じていましたが…どうでしょう」

「…そうか」


なんだ寝惚けていただけか。


「お側に寄ってもいいですか」

「構わないぞ」


安心した様子でメティが寄り添ってきた。


「なあメティ、どうして毎回了承を得るんだ?前はそんなじゃなかっただろう」


「以前もお話ししましたが、私はその…進度と距離の詰め方が分からないので。匙加減を間違えてミウに嫌われるのが恐くて…だから最初みたいにこちらから安易にベタベタしない方がいいのかな…と自分なりに考えまして…」


俺は何も言わずにメティを抱き包んだ。そして手を絡ませ、耳元に口を近付けた。


「えっ、あの…」


「伝えるのが遅れてすまなかった。メティ、俺は君が好きだ。仲間として、友として、女性として」


「それは…本当ですか?」


「ああ」


「うっ、うぅ…」


突然メティが泣き出したので俺はかなり焦った。


「ど、どうしたメティ。なにか気に障ったか」

「違うんです、とても嬉しくて…私、ミウに出会えて本当によかったです…改めてそう思いました」

「そうか、俺も同じ気持ちだよ。これからもよろしくな」

「こちらこそよろしくお願いします」


それから俺達は黙って寄り添いながら川のせせらぎと焚き火の音を満喫して過ごした。


朝を向かえ、朝食を済ませて出発した。いざヴェザレフの町へ。


「うわあ、山だ〜」

「地図によるとあの山を越えるとヴェザレフの町です」

「あれは積乱雲…一雨降りそうだな」

「確かに、早めに設営場所探して天幕張っておく?」

「ああ、今のうちに薪も集めておこう」

「あそこの岩場なんてどうですか」

「いいね、岩で風が凌げる」

「そうだな」


大きな岩を背に天幕を張って寝床を作った。火を起こそうとした矢先、雨が降ってきたので断念した。


「本降りですね」

「これじゃ身動き取れないね~」

「仕方ないな、止むまで…」

「待って下さい!何か聞こえますっ」

「えっ」

「魔物か?」

「恐らく…。複数体来ます」


微かに奇妙な足音が聞こえてきた。これは…確かに近付いて来ている。


しかしエルフの聴覚は本当に優れているな。


「やるぞ」

「はいっ」

「りょーかい」


俺達は各々武器を取った。


漸く足音の主が見えてきたが、これは驚いたな。現れたのはリザードマンの群れだった。数は10前後。持っているのは原始的な槍のみ。ティブア湿原に居たやつより全体的に劣る。


「あれはリザードマン!恐らく近くに池か沼があった様ですね。私達の魚のにおいに釣られて…」

「に、肉だ〜!」

「えっ」

「メティは食べたことないのか」

「い、いえありません。そもそもリザードマンって食べられるんですか」

「ああ、結構美味しいんだぞ。ミミル、わかってるな」

「もちろん!」

「メティ、できるだけ一撃で仕留めて血抜きしてほしい。あまり傷めると味が落ちる」

「わ、わかりました。やってみます」


「はっ!」


ドシュシュッ! 「ギャッ!」「グォッ!」


ミミルは的確にリザードマンの脳天を貫いていった。さすが槍使い、見事な突きだ。


「はあっ!」 ザンッ!


メティは双剣を2本同時に振り首を落として回っている。ミスリル製の剣か…凄まじい斬れ味だ。


俺は『杭』で頭を撃ち抜いていった。


「終わったね〜」

「ずぶ濡れですね」

「風邪を引いたら大変だ。俺はこいつらを捌いておくから2人は着替えてくれ」

「りょーかい。その代わり着替え終わったら呼ぶから直ぐに来てね」

「そうですよっ、ミウが風邪を引いてしまいます」

「わかった、呼ばれたら直ぐに行く」


2人は天幕の方へ行き、俺は『刃』で素早く食用部分を切り取った。


「ふうっ」


正直酷いものだ、イヴがいればもっと綺麗に捌いてくれるんだが。


「ミウくーんっ!」


ミミルの声がしたので急いでリザードマンの肉を抱えて戻ると、2人は直ぐに着替えるように促した。


着替え終えた後もメティがびしょ濡れになった俺の頭を一生懸命拭いてくれた。この優しさが普通に嬉しい。


雨が弱まるまで待ってから火を起こし、シンプルに串焼きにして持参したハーブソルトとスパイスをかけて頂いた。持たせてくれたアニラに感謝しないとな。


「お、美味しいですっ!」


メティが感動する様に叫んだ。


「リザードマンの肉がこれほど食べやすいなんて…それに味付けのお塩と香辛料が絶品ですねっ」

「それは獣人国の特産品のハーブソルトとオリジナルスパイスだ」

「そうなんですね。獣人族、是非とも見てみたいです」

「いつかメティちゃんにウチの師匠でもあるアニラちゃんを会わせたいな。白狐の獣人だから真っ白い綺麗な体毛なんだよ」

「白狐…ですか。さぞかし美しい方なんでしょうね…なんか私、自信無くなってきてしまいました」

「大丈夫大丈夫っ、メティちゃんも負けず劣らずの美人だから。ねっ、ミウくん」

「ああ、その通りだ」

「あ、ありがとうございますっ」


メティは照れながらも嬉しそうに微笑んだ。


うん、普通に可愛い。


その後雨は止み、静かな夜が訪れ俺達は眠りに就いた。

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