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記憶


目を覚ますと外はすっかり暗くなっていた。


服を着てミミルを起こしてから先に1人で食堂へ向かった。


「あっ!ミウさん!」と受付のお姉さんが駆け寄って来た。


「どうも」

「先ほどリクトメティアさんに町を出ると聞きました」

「ああ、本当は今日の予定だったんですけどね」

「もう!そういうことはちゃんと教えてくださいよ。見送りくらいさせてくださいねっ」

「す、すいません。わかりました」


怒られてしまった。でもその言葉が単純に嬉しかった。そして怒ったお姉さんは普通に可愛かった。


「お姉さん、ありがとう」

「私、ヨウリっていいます。お姉さんじゃなくて名前で呼んでください」

「わかりました、ヨウリさん」


俺が笑いかけたその時、後ろからわざとらしい咳払いが聞こえるとヨウリさんは怯えた。


「ミウ、お話は終わりましたか」

「あ、ああ。ちょうど終わったところだ」

「では食事を取りましょう。さあ食堂へ」


そう言って俺の腕を掴んでメティはぐいっと引いた。


「わかったわかった。では失礼します」


ヨウリさんは口をすぼめて残念そうに会釈した。


それから降りてきたミミルと3人で食事を取った後、軽い鍛練をしたあと一息ついていた。


「前におっしゃってましたが、ミウの想い人兼ミミルの師匠は吸血鬼なんですよね?」

「うん。そう言えばこっちの大陸にも吸血鬼って居るの?」

「居ますよっ!目撃情報が極端に少ないですが…とにかく恐ろしい存在です」

「情報が少ないのってもしかして…」

「はい。遭遇して生還する者が殆ど存在しないのです」

「吸血鬼はなぜ人を殺すんだ」

「それが…噂では『本能』だとか」

「なっ、それだけで…」

「随分と物騒だな。それにしても吸血鬼が存在するとは驚きだ」

「本当だよ〜、イヴ姉に教えてあげたい」

「そうだな」

「他の怪人族や悪魔族というのは聞いたことがありませんが、もしかしたらこの大陸のどこかに居るのかもしれませんね」

「そうだね。一度くらい見てみたいな〜」


暫くお喋りした後、明日早起きする為にメティと別れて俺とミミルはギルドの2階に戻って早めに眠りに就いた。


翌朝、荷物を持って1階に降りるとヨウリさんと他のギルド職員やダンジョンで救出した冒険者達が並んでいた。


「おはようございます。町の入口までご一緒します」


「荷物は俺等が持つぜ」


そう言って俺とミミルの荷物をひょいと持って行ってしまった。


途中でメティも合流し、荷物を持ってもらっていた。


「ミウさん達『女神の聖槍』が無事に旅をできる様に祈っています」

「俺等も祈ってるぜ」

「気を付けてな」

「皆ありがとう。それじゃあな」

「じゃあね~」

「皆さんお元気で」


大きく手を振りながら俺達はテッサの町を後にした。


「メティ、目的地の町までどれくらいだ」

「地図を見る限り6日前後でしょうか」

「そこってどんな町なの」

「町の名は『ヴェザレフ』、勇者が生まれ育った町です」

「なっ!?勇者だとっ」

「勇者…ってなに?」

「えっと…魔王を打ち倒すべく立ち向かった英雄です」

「ふ〜ん、勇者っていうジョブなの?」

「いえ、勇者は唯一無二の存在ですよ」

「えっ、それじゃ凄い人なんだっ」

「うーん…どうでしょう」

「え…違うの?」

「ん?そういえば魔王は聖騎士が倒したんだよな。勇者は何をしていたんだ?」

「あっ、確かに」

「詳しくは知りませんが勇者は魔王と戦っていないんです。そもそも魔王城に向かっていなかったとか。結局魔王を討ったのは聖騎士ですし、何もしていないと思われているので民からの印象はあまり良くありません」

「なるほど〜、確かに全然凄くないね。魔王と戦うの嫌だったのかな」

「旅の途中で心が折れたのかもな」

「相手が相手なので有り得ますね」


休憩を挟みながら暗くなるまで歩き、夜は野営して明かした。交代で見張りを立て順番に睡眠を取った。


こういうの懐かしいな、ガールズとの旅を思い出す。


丸太に座って焚き火を見ながらそんなことを想った…まずい、あんまり考えると恋しくなる。


「考え事ですか」

「メティ、起きてたのか」

「はい。お隣よろしいでしょうか」

「もちろん」


わざわざ許しを得てから座るなんて珍しいな。


「なあ、メティの故郷、エルフの里はどんな所なんだ」

「大樹に囲まれ、自然豊かで空気も水も澄んでいる幻想的でとても美しい地ですよ」

「そうか、それはいつか行ってみたいな」

「是非とも来てください…と言いたいところですが里の中には同族以外は立ち入れないんです」

「そうか、それは残念だ」


メティは申し訳なさそうに笑った後、焚き火に目をやった。


「落ち着きますね」


「そうだな」


暫しの沈黙が過ぎるとメティは上半身を揺らしだした。顔を見てみるとうつらうつらしていた。


倒れない様にそっと俺の身体に寄りかからせると直ぐに寝息を立て始めた。


目が覚めないのを確認して慎重に抱き上げ、天幕に連れて行って寝床に寝かせ毛布を掛けた。


「ん…ミウ…」


寝言か、可愛い声だな。頭を優しく撫でて俺は見張りに戻った。


翌朝、街道を歩いているとミミルが溜息を吐いた。


「はぁ〜、魔物も賊も出ないお陰で身体がなまってきたよ」

「やるか」

「いいね」

「私もお願いします」


荷物を下ろし、3人で模擬戦を行って汗を流した。


近くに川が在ったので少し道から外れて身体を清め、模擬戦で体力を消耗したので今日はそのまま川の側で野営することにした。


「ミウくん魚がいたよっ」

「それって食べられるやつか?」

「私も見ましたが平気ですよ」


メティがそう言うので魚を捕ることにした。


ミミルが川に手を入れて魔法を放った。


「ショックタッチ」 バチィッ!


うん、大漁…と言うか食べ切れる量じゃないぞ。


「おいミミル…」

「ごめん。もっと加減するべきだった」

「し、仕方ありませんよ。なるべく沢山食べてあげましょう」

「そうだな」


その晩、俺達は焼き魚を食べて食べて食べまくった。


恐らく3人とも当分は魚を食べたいとは思わないだろう。


いつもの様に交代で見張りをしていると、メティが起きてきた。

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