欲求
「あれ、てっきり朝帰りかと思ったのに」
「メティは男を知らなすぎる…だからこそ何と言うか…大切にしたくてな」
「はぁ…本当にミウくんは罪深き色男だね」
「なんだそれは。ほら寝るぞ」
「は〜い、おやすみ」
「おやすみ」
早朝に戸を叩かれて目が覚めた。
「う〜ん、誰〜?」
布団から出る気のないミミルは迷惑そうに顔をしかめた。
「おはようございます」
「メティか、こんな早くにどうした?」
「いえ、その…特に。早起きをしたので来てしまいました…お休み中にご迷惑でしたね、ごめんなさい」
「メティちゃん〜、悪いけどもう少し寝させて。ミウくんは起きなよ〜」
「お前…」
勝手なことを言ってミミルは布団を被った。
「メティ、支度をするから食堂で待っててくれ」
「はいっ」
俺だってもう少し寝たいけどメティを放ってはおけない。
顔を洗ってから着替え、食堂に行ってメティの向かいに座ろうとすると当然の様に隣に座るよう促された。
にっこりと微笑んだメティは普通に可愛いかったので俺は隣に腰掛けた。
それから早めの朝食を済ませ食後にお茶を飲んでいるとミミルがやって来た。
「おはよ〜」
「おはようございます。先ほどは起こしてすいませんでした」
「全然平気だよ。恋する気持ちは抑えられないよね〜」
「そうなんです…。ミウ、もしも不快だと感じたら直ぐに言って下さいね」
「わかった、ちゃんと言うよ。今のところ何も問題無いけどな」
「そうですか、良かったです。私、その…こういう事の距離感の調節が分からなくて」
「大丈夫だよメティちゃん、ミウくんは何でも受け入れてくれるから」
「おいミミル、何でもってことはないぞ」
「あはは、そうだよね。ごめんごめん」
ギルドを出て俺達は地図屋と鍛冶屋に行った後、採取クエストをこなしつつ鍛錬をした。ミミルは新調したばかりの槍を生き生きと振るっていた。
そうして向かえた売却価格が決まる日、俺は再び変装して例の雑貨屋に来ている。
「大変お待たせ致しました。買い取り価格は締めて115ルーマになります」
なな、なんだと、まさか3桁になるとは…これは予想外だ。
「この値で取り引きを進めても宜しいでしょうか?」
俺が気付かれない様に店内に居るメティの顔を見ると、彼女は思案顔の後、コクリと頷いた。
「んんっ、ではその値で頼む」
「ありがとうございます」
こうして現状で言う『大金』を手にした俺達は早速町を出る準備に取り掛かった。
「えっ!?この大陸にも魔王っていたんだ!」
メティの部屋で荷造りを手伝っていたミミルが大声を出した。女性の荷物に触れるのはどうかと思って俺は部屋の外で待っている。
「はい、ですが数年前に聖騎士達が討伐したんです」
「へぇ~、そうだったんだね」
「魔王の人種は何か知っているか?」
「いえ、ただ『魔族』とだけしか」
「魔族…か。それはこちらで言う魔人族なのか気になるな」
「そうだね」
荷造りを終え、テッサの町最後の夜は町の大衆居酒屋で食事を取ることにした。
「わあ、メニューが沢山あるね」
「そうだな。メティは来たことあるのか?」
「はい、メルストレとこの町に来て冒険者になった日、記念にこのお店で贅沢に食事を楽しみました」
「そっか…メルストレちゃんと来たんだ」
「すまない、思い出させてしまったな」
「構いませんよ。私の大切な思い出の1つなので。そしてこの時間も大切な思い出になります」
「ウチも同じ思いだよ」
「俺も同じだ」
「うふふ、ではもう一度乾杯しましょう」
「ああ」
「そうだねっ」
その夜、俺達は遅くまで飲み食いしながら楽しく過ごした。そして仲良く酔い潰れて居酒屋で朝を向かえた。
「お客さん、いい加減帰ってもらえますか」
「う…すまない、直ぐに帰る。2人とも起きてくれ」
そう言って2人の肩を揺すると、ミミルとメティはもぞもぞと起き上がった。
「うぅ…気持ち悪い…」
「わ、私もです…」
俺はちゃっかり制御しながら飲んでいたから頭が痛いくらいで済んでいる。まあ飲んでも呑まれるなってやつだな。
顔色の悪い乙女2人をなんとか店の外に連れ出したものの地面に座りこんでしまった。気分が悪そうだ、出発は明日に延期するか。
「う…オェェッ…」
遂にメティが嘔吐した。俺はメティの背中を擦りながらミミルの様子も窺っていた。
「ゲホッ、うぅ…こんな醜態を晒すとは…申し訳…オェェッ!」
「き、気にするな」
居酒屋で貰っておいた水をメティに渡して口内を濯がせた。辛そうだ…猫耳姉妹の二日酔いの薬を持って来るべきだったな。
そのまま暫く俺達は道の隅でじっとしていた。日が高くなった頃、2人は漸く歩ける様になった。
「まだ気持ち悪いか?」
「はい…少しだけ」
「ウチも気持ち悪い〜」
「出発は明日にして今日はゆっくり休もう」
「りょーかい…」
「すいません…」
「気にするな」
メティと別れ、ミミルとギルドの部屋に戻った。
扉に蹴躓いてミミルが転びそうになったところを間一髪抱き抱えたその時、胸をしっかり触ってしまった。まずい、最近忘れていたそういうスイッチが…!
「す、すまない」
「いいよいいよ〜。ねえミウくん、身体拭きたいんだけど」
「わかった」
部屋の外で待っている間に俺も顔を洗って拭き布を濡らして服を脱がずに拭ける箇所を拭いた。
さっぱりした状態でノックするとどうぞ〜と返事がした。部屋に入るとミミルは薄着になってベッドに座っていた。これは…目のやり場に困る。
「気分はどうだ」
「うん、だいぶ回復したよ」
「それは良かった」
「ねえミウくん…ウチ、ちょっと…そういう気分になっちゃった」
「…俺もだ」
「一応ね、イヴ姉達には許しを頂いてるんだ〜」
「えっ、そうなのか」
「あやつが耐え切れるとは思えん。って」
イヴ…アニラ、セルビナ、こんな俺を理解して受け入れてくれてありがとう。帰ったらたっぷり埋め合わせしよう。
罪悪感を抱きながらそう誓い、俺は二日酔いのミミルを抱いた。
普段とは異なる剥き出しの乙女の様な表情と声に興奮して俺の理性は吹き飛んだ。
2回戦目を終え、そのまま俺達は夕方まで眠った。




