激変
メティは解せぬ様で落ち着き無くキョロキョロ見回している。
よし、ちょうどいい具合に出店がいくつか構えているな。
「飲み物を買って来るからあそこのベンチに座っててくれ」
「わ、わかりましたっ」
俺はジンジャーエールとフルーツジュースを買ってメティの隣に座った。
「どっちがいい」
「ミ、ミウが先に選んでくださいっ。あと距離が近くて私…その…顔が熱く…」
「いいからメティが好きな方を選んでくれ。俺は両方好きだから問題ない」
「でででではフルーツジュースをっ」
メティは震える手でカップを受け取り、顔と耳を真っ赤に染めながらちびちびと飲み始めた。
俺は敢えて喋らずに飲み物をゆっくりと飲んだ。生姜の風味がツンとして清々しい気分になる…なかなか美味しい。
メティはチラチラと俺のことを見ている。
「…」
「あ、あのっ…その…」
「沈黙は苦痛か?」
「そ、そんなことはありませんっ…ミウとなら…」
最後の方は恥ずかしいのか小声で言った。俺となら…か。嬉しいことを言ってくれる。
「俺もメティとなら言葉がなくても平気だ。一緒に居ると安心するからな」
「へっ…!?」
そう言ったあと、メティの方に体を向けてそっと手を握った。
「ひっ!?」
「すまない、嫌だったか?」
メティは無言で首を横に振った。拒まれなかったことに一安心したが、メティはもう噴火寸前状態の顔色だ。
「メティ、手を繋いだまま俺の身体に寄り掛かれるか」
「ひえっ!?うぅ……ややややってみます!」
メティはぎこちない動きで俺の身体に左半身をくっつけた。
「あの、ミウ…心臓が飛び出してしまいそうです」
「目を閉じてゆっくり深呼吸して」
「すぅ~、はぁ~」
「どうだ」
「す、少し落ち着きました」
「このままでも大丈夫そうか?」
「…はい」
それから暫くの間、俺達は無言で寄り添っていた。
自覚はないが長い時間が俺達の上を流れて行った気がする。その証拠にメティはすっかり慣れた様子で頬を俺の肩にぺたりと着け、手を繋いでいない方の腕を俺の腕に巻き付けている。
「なあメティ、まだ緊張するか?」
「いえ、なんだかとても心地良くて…離れたくありません」
さっきの今で随分と変わったな。これは俺の予想を超えてきている。なんか匂いを嗅ぎ始めたし…。
「もしかして汗臭いか」
「いいえ。凄くいい匂いがします…これがミウの香りなのですね」
すっかり忘れていたメティのストーカー気質が顔を出した。まあ全然構わないけど。
「メティ、少し歩こうか」
「はい、どこへでもっ」
驚いたな、メティは行き交う人々に見られようが恥じらうことなく腕にべったりくっついている。
「その、恥ずかしくないのか?」
「はい、なんだかどうでも良くなってしまいました」
「物凄い進歩だな」
「ミウは私がこうなることを見越していたのですか」
「そう仕向けたのは事実だが、メティは俺の想像を遥かに超えてきている」
「えっ、もしかしてご迷惑…だったりしますか」
「そんな訳ないだろ…」
いてててて。
俺の一言でメティの力が増した。胸が思い切り当たっている。これは色んな面でアニラと良い勝負かもな。
町中を散歩した後、ギルドに入ると冒険者と職員の視線が凄まじかった。まあそうなるよな。
「メティ、ギルド内ではくっつくのやめようか」
「えっ、なぜですか?」
ぽかんとしたメティの顔を見てつい笑ってしまった。そして俺もなんだかどうでも良くなった。
「いや、今の言葉は忘れてくれ」
「はい…?」
小首をかしげたメティは普通に可愛かった。
ギルドの食堂に行くとミミルが席に着いて飲み物を飲んでいた。そして俺達を見つけると目を見開いて叫んだ。
「えぇ~!?この数時間に何があったのメティちゃん!」
「うふふ。ミウのお陰です」
「そういうことだ」
「ミウくんまさか…」
「それは否定させてもらう」
「そ、そっか。まあそれも時間の問題か〜」
「おいミミル…」
「何の話ですか?」
「き、気にするな。さあ食べ物を注文しよう」
「りょーかい」
「はいっ」
全員があらかた食べ終わったタイミングで俺は切り出した。
「2人に話がある」
「なに〜?」
「なんでしょう」
「3日後にまとまった額のお金が手に入ったらこの町を出ようと思うんだが、どうだろう」
「いいね、大賛成!」
「私も賛成です」
「ありがとう。メティ、神国を目指しつつ情報収集と昇格を目指したいんだが次はどこに行けば良いと思う?」
「それなら内陸寄りの『商都レムイノ』でしょうか。歴史ある立派な商業都市なので常に様々な物品や人々で溢れています。それゆえに色々と情報も得やすいかと。ただ…」
「なんだ?」
「ここからですとかなりの距離なので村や町を経由して行く必要がありますね」
「そうか。どのみち地図を買っておいた方が良さそうだな」
「そうですね、地図があった方が計画を立てやすいです。明日にでも買いに行きましょう」
「ねえねえ、その都市まで何日くらいかかるの?」
「私も行ったことがないので道程を知らず、断言はできませんが地図を見る限りテッサの町からだと大体2週間前後でしょうか」
「に、2週間!?」
「それだけこっちの大陸は広いってことだな」
「そうだね〜。それにしても商業都市かあ…なんだか楽しみっ」
「明日地図を買いに行く時鍛冶屋にも行こう。買い物ついでにミミルの槍を新調する」
「やった〜!さすがミウくんっ」
「それじゃあ今日はもうお開きにして休む…」
いてててて。
メティが俺の腕に強く抱き着いた。む、胸が。
「どうしたメティ」
「…」
「あはは、宿屋まで送ってあげたら」
ミミルに言われメティに目をやると強い眼差しで訴えてきた。
「わ、わかった。行くぞメティ」
「はいっ」
べったりくっついているメティを宿屋まで送り届け、お泊りという単語が頭を過ぎったがぐっと堪えて俺はギルドの2階に戻った。




