緊急
「じゃあ今日のところは解散するか」
「あ、ミウ…えーと、その…もしよかったら一緒に剣を買いに…」
「ん?」
「あ〜、素材の採取だけとは言え丸腰で森に入るのは危険だもんね。ウチは部屋で休んでるから2人で買いに行きなよ」
「分かった。メティ、気を利かせてくれてありがとう」
「そ、それはっ、パーティーメンバーですから当然のことです!」
「じゃあ行こうか」
「は、はひっ」
そうして2人で鍛冶屋に向かって歩き始めて直ぐにメティは喋らなくなった。
とんがり耳が赤い、もしやとは思っていたが男と2人きりで出掛けるの初めてなのか。
「…」
「メティ、無理してないか」
「いいい、いえいえそんなことはっ」
「一度深呼吸してみたらどうだ」
そう言って立ち止まって促すと、メティは足を止めてゆっくりと時間をかけて深呼吸した。
「どうだ?」
「はい…少し落ち着きました」
「メティは異性と買い物に行ったことないのか?」
「同種族ならありますが人間の殿方とは初めてで…年甲斐もなく緊張してしまって。お恥ずかしい限りです…」
そういえば口調がやたら丁寧になったな…と言うかエルフの男が平気なら人間の男も平気じゃないのか?まあ種族が違うと色々と変わってくるか。確かに俺だって言葉が通じても初対面の外国人が相手だったら多少緊張はする。
鍛冶屋に入り、先日値切ってくれたおっさんに出迎えられた後、俺は剣が並んでいる棚に近寄った。
正直一番安い剣で構わないんだが、そんな物買おうとしたらメティが黙っていないだろう…どうしたものか。
「気になる品はありましたか」
「ああ。えーっと…そうだな、これにしようかな」
俺が手にしたのはアイアンソード、2番目に安い剣だ。くっ…これを買ったら所持金が殆ど無くなってしまう。
「えっ、その剣で良いのですか」
「あ、ああ。握った時にとてもしっくりきたんだ」
そう言いながらちょっと振ってみせた。直刀じゃないし俺の『月明爪』に比べたら全てが遥かに劣る…だが悪い一振りではないと思う。創造魔法を付与すれば斬れ味も刃こぼれも問題ない訳だし、本当は一番安いブロンズソードでも良いくらいだ。
「うーん…」
メティは腕組みしながら眉間にシワを寄せてアイアンソードを凝視している。やはりお気に召さない様だな。だが俺には金が無い、ゆえに選択肢も無いのだ。
「私がお金を出すのでこちらのスティールソードにしましょう。取り敢えず振ってみて下さい」
「え…あ、ああ」
渡された剣を軽く振ってみると違いがはっきりと解った。確かに全然違う。しかしFランクのクエスト報酬で買うにはあまりにも高額だ。
「メティ、本当にお金出してもらっていいのか?」
「もちろんです。私達はパーティーですから」
結局剣鞘も買ってもらい腰にスティールソードを携えて鍛冶屋を出ると、自分は冒険者なんだと今更ながら思った。
「メティ、ありがとう。感謝するよ」
「へっ!?いいい、いえいえ!御礼なんて」
「お腹空いてるか」
「えっと、そうですね…少し空いたかも」
側の露店で大きな蒸し肉饅頭を買って半分に割ってメティに渡した。
「熱いから気を付けて」
「はい…戴きます」
メティはハフハフしながら美味しそうに食べた。見てるだけで癒される。
俺も火傷しない様に息を吹いて冷ましてから口に入れ咀嚼していると、メティがチラチラと俺を見てきた。
「どうした」
「いっ、いえ別に」
誤魔化す様に一気に食べたメティの口に饅頭の欠片が付いていたので、黙って取ってあげると軽くパニック状態になってしまった。
「すまない、驚かせたか」
「いいい、いえ!その…ありがとうございます」
反則的な恥じらい方だな。普通に可愛い。
「メティ、この町に魔導書店はあるか」
「ありませんね。もう少し大きな町に行かないと」
やはり魔導書も存在するのか。
「そうか。じゃあ買い物も済んだしギルドに戻ってクエスト表でも見てみるか」
「はいっ」
そう言ってギルドに向かって歩き出したは良いがまたもやメティがチラチラと見てくる。
「どうかしたか」
「えっと、その…また2人で買い物…行けたらな、なんて」
「俺達はパーティーだろ、この先何度だって一緒に買い物するさ」
「は、はいっ!」
この可愛らしい笑顔があんな表情に変わるなんて…この時の俺は知る由もなかった。
ギルドに戻ると大声が耳に入った。
「皆さん、緊急の依頼です!どうかお集まりください!」
なんだなんだと冒険者達は続々と受付に集まった。
「ミウくんメティちゃんおかえり〜」
「ただいま」
「ただいま帰りました」
丁度降りてきたミミルと合流して俺達も受付に向かうと、ギルド職員の男性が大きな声で説明をし始めた。
内容はこうだ。2日前、Eランクの冒険者パーティー6名がダンジョンを捜すクエストを受注してそれを達成。しかし物足りなかったのかそのパーティーはそのままダンジョン内に足を踏み入れてしまったとか。これは偶然近くで薬草採取していた冒険者達の目撃証言だ。要するにこれはダンジョンから戻らない冒険者達の救助クエストになる。
「おい、そのダンジョンの推奨ランクは分かるのか」
「不明です。申し訳ありません」
「Eランクが6人戻らない時点でリスクはかなり高いよな」
「おう、そんなクエストお断りだぜ」
「ランクの高い冒険者を他所から呼べばいいだろ」
「そうだそうだ」
「もう全滅してるかもしれねぇしな」
文句を言いながら去る者が出てきた。
「すいませんっ!」
突然メティが大声を出した。
「も、もしかしてそのパーティーって『砂塵烈風』ですかっ」
「はい。その通りです、確かメンバーには…」
「私、行かないとっ!」
俺達にそれだけ言ってメティはギルドを飛び出て行ってしまった。




