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失態


「良い人だったね」

「そうだな。しかしやはりケルンとは異なる通貨だ」

「ルーマって言ってたよね。どうする、手持ちは10ルーマ。冒険者登録に必要な金額が15ルーマ…それに泊まる場所も確保しないと。あと食事も」


まずいな…金が無い。あ、おっさんの名前聞くの忘れてた…また会えたらちゃんと聞いてお礼しよう。


俺達が見慣れない硬貨を握り締めてどうしたものかと考えていると、わかり易く柄の悪い連中が近寄って来た。


1、2、3…7人か。うち数人は刃物を持っている…穏やかじゃないな。


「よぉ兄ちゃん、死にたくなけりゃその金よこせ」

「お、この女童顔の割にいい身体してるぜ」

「んじゃ金と女置いて消えな兄ちゃん」


「断ったらどうなるんだ」

「てめぇの死体から金と女を奪うだけだバァーカ」

「罪悪感とか無いのか」

「ギャハハ!そんなもん微塵も感じたことねぇよ」


成る程、今の口振りは常習犯ってことか。一度や二度じゃない、こいつらは人を殺している…うーん。


「ミミルは人を殺したことあるか」

「あるよ~。盗賊とか蛮族とか」

「こいつらの死体から金を取る覚悟はあるか、良心は傷まないか」

「余裕だよ。さっきのおじさんも言ってたけど、こういうのは始末した方が治安も善くなるし一石二鳥だと思うな〜」

「そうだな」


「オイッ!なにをごちゃごちゃ…」

「粒っ」


パシュシュッ。「うっ」 「がっ…」


ドササッ。


俺の『粒』は的確に7人の額を貫いた。


そして2人で賊どもの死体を漁って36ルーマ手に入れた。


「よし、これで冒険者登録できる。ギルドに行こう」

「意外だね。ミウくん、人を殺すのに躊躇いが一切なかった」

「もちろん気分は良くないが…俺は無慈悲に何人も殺めてる奴等に情けをかける程お人好しではないからな」

「それもそうだね。ウチなんて罪悪感ゼロだよ」

「何にせよ俺達も賊の仲間入りだな」


冒険者ギルドに到着し、受付のお姉さんに声を掛けた。


「あのう、冒険者登録をしたいんですけど」

「ようこそ冒険者ギルドへ。登録ですとこちらの用紙にお名前とパーティー名とシンボルをご記入ください。登録料は15ルーマになります」

「分かりました」


シンボルも描くのか。名前はまあ本名でも構わないだろ。問題はパーティー名…目立たない普通の名前が良いんだけどこの大陸での普通がどんなものか分からない。


「パーティー名って皆さんどんな感じなんですか」


「そうですね…『火竜の息吹』や『牙狼の咆哮』などいかにも強そうな名前が人気ですよ」


強そうな名前か…度合いによっては目立つよな、うーん…難しい。


「女神の聖槍とかどう?」

「えっ、さすがにそれは…」

「わぁ、とても素敵な名前だと思いますよっ」

「あ、ああそう…じゃあそれにします」


まあ丁度良いくらいの強そうな名前か、ナイスだミミル。シンボルも絵の得意なミミルに描かせた。


「ではこちらが冒険者ライセンスになります、これよりお二人はFランク冒険者です。クエスト表はこちらになりますがFランクですと安全性の高い薬草や鉱石の採取がメインになりますね」


成る程、こっちは下がFランクまであるのか。


「じゃあそれにします」

「承りました。こちらが地図になります。森の奥に入ってしまうと魔物と遭遇する危険性があるのでくれぐれも御注意を」

「親切にありがとうございます。では行ってきます」

「はい。お気をつけて」


俺達はギルドを出てそのままクエストに向かった。


町の北西に在る森が目的地だ。


「ミウくんお腹空いたよ~」

「腹ごしらえするか」


俺達は荷物の中からリザードマンのジャーキーとベアラビットの干し肉を出して食べた。


「美味しいねこれ」

「そうだな。でも欲を言うとちゃんとした料理が食べたいな」

「その為にも稼がないとね〜」


森に着き、クエスト表で見た薬草の特徴を思い出して採取して回った。


「なんか数が少ないね。場所変える?」

「そうだな。魔物も見てみたいしもう少し奥に行ってみるか」

「りょーかい」


森の奥へ進むと木々が生い茂り鬱蒼とし始めてきた。


「あ、あの岩鉱石が混ざってるよ」

「本当だ。持てるだけ取っておこう」


『刃』で岩を慎重に削り鉱石を取り出したその時、大きな音と共に目の前に黒っぽい巨大な虎の魔物が現れた。


「ガルルルルッ!!」


「ミウくんどうする?」

「殺して死体を誰かが見付けたら騒ぎになりそうだ。ここは追い払おう」


俺は魔物に向けて殺気と魔力圧を放った。


「ガッ…ウゥ」


魔物は怖じ気付いて逃げて行った。


「ミミル、以外と平静だったな。もう少し驚くかと思ったが」

「だってイヴ姉達に比べたらあんな魔物全く脅威にはならないよ〜『本気で殺しにかかるから数分間生き延びる』って修行内容があったからね…あれを体験したお陰かな」

「そうか…なんかごめんな」

「どうしてミウくんが謝るのさ。それにウチは強くなれて感謝してるんだよ」

「それなら良かった」

「あ、あの辺薬草が沢山生えてるよっ」

「奥に来た甲斐があったな」


「ちょっとよろしいですか」


「!?」


声のする方を見ると近くの木の上に黒装束の人物が居た。


声からして女性、被ったフードから金色の髪が覗いている。腰には双曲剣、背には小ぶりの弓を携えている。それにしても警戒を解いていたとは言え、まるで気配を感じなかった。


「なんでしょうか」

「今、この辺に大型の魔物がいませんでしたか?」

「いえ、気付きませんでした」

「ウチも気付かなかったよ~」

「失礼ですがあなた方は冒険者ですよね」

「はい。駆け出しのFランク冒険者です」

「そうですか。凄まじい気配を感じて駆けつけたのですが…本当に何も見ませんでしたか?」

「はい。お役に立てず申し訳ないです」

「じゃあそろそろウチらは町に戻るのでっ」

「…分かりました。お気をつけて」


俺達はそそくさとその場を去った。


「ねぇミウくん、あの人まだこっち見てるよ」

「あんまり見るな、怪しまれる」


しくじったな…まさか人が居たとは。


「これからは魔物と遭遇したら逃げよう」

「そうだね。ランクが上がるまではおとなしくしておいた方が良さそう」


テッサの町に着き、俺達はギルドに向かった。

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