振舞
「当て…ですか?」
「ああ。ブデオン大雪原で助けた冒険者、覚えているか」
「あっ!」
「確か『鋭察のソリュテ』だったか。城郭都市フスレイウを拠点にしていると言っていたな」
「フスレイウなら王都アルディアから行くよりここデスピアから向かった方が近いですよ。安全な道程ではないですけど皆さんなら問題ないかと」
「決まりだな。今日は休んで明日出発しよう」
「うむ」
「はいっ」
「そうだな」
「でしたら明日までに雪原用の旅支度をご用意しておきます」
「そうか。悪いなエダロス、助かるよ」
「いえいえ、普段から善くして戴いてるのでこれくらいさせて下さい」
「まだ明るいし薪は自分達で取って来る」
「了解しました」
俺達は国民街を抜けて雑木林に向かった。
大量に落ちている枝を拾い集め、4人で持てる限界を手にしてエダロスの店に戻った。
国民街を歩いていると住民何人かすれ違ったが、以前程避けられることはなくなったがまだまだ壁を感じる。
そしてやはり皆良い暮らしをしてる様な表情ではない。少し痩せこけて見えるし…そんな時にふと思い付いた。
「炊き出しとかって…やっぱり迷惑かな」
「素敵な発想だとは思いますが…どうなのでしょう」
「よいではないか。一度アルディアに戻って材料と調理器具と器を取って来よう」
「ミウ、お前というやつは…私は惚れ直してばかりだぞ」
「えっ」
「珍しく大胆な一言じゃのう、セルビナよ」
「う…まあな」
「アニラだって惚れ直しっぱなしですっ」
「いちいち張り合うでない。そうと決まれば急ぐぞ、じきに夜が来る」
「ああ」
「はいっ」
「わかった」
エダロスにそのことを伝えると、街の渇れた噴水広場でやったらどうかと提案された。
俺達は王都に戻り、ミゥーズ傭兵団に事情を話して運ぶのを手伝ってもらった。
お陰で早速新らしい転送石を乱用することになった。
「何を作るのですか?」
「野菜たっぷり肉団子スープかな」
「それは栄養も豊富で温まりますねっ」
噴水広場で火を起こし、普段傭兵団が使っている業務用の巨大鍋にアルディアから持って来た大量の野菜とブデオン大雪原に生息するベアラビットという巨体で獰猛な兎の肉で作った肉団子を投入、灰汁を取りながらグツグツ煮込んでティーバ産のハーブソルトとスパイスで味付けをして完成。
因みにベアラビットの肉は鶏肉に近くてとても美味しいとエダロスに教えてもらい、直ぐにイヴとセルビナが狩りに行って入手した取れ立ての食材だ。
うん、出汁が利いててうまい。
「お、美味しいですっ」
味見をせがまれたので一口あげるとアニラは絶賛してくれた。
「ミウ、妾も」
「私もだ」
「わかったわかった」
フーフーしてから2人にも味見させながら横目で見ると、街の人々が徐々に集まってきて様子を伺っていた。
いいぞいいぞ、もっと集まれ。
「記念すべき一杯目はエダロスに」
「えっ、良いんですか!」
「当然だ」
「ありがとうございます。では遠慮なくいただきます」
エダロスはこんな美味しい物は初めて食べたと感動しながら手を休めることなくあっという間に完食した。
街の人々は物欲しそうな顔でそんなエダロスを見ていた。
「セルビナ、頼む」
「わかった」
セルビナは涸れた噴水の囲いに立った。
「私は元魔王六大凶牙のセルビナ。魔国の民よ、よければ食べて行ってくれ。もちろん無償だ!」
「全く、淡白な言葉じゃな」
「俺は簡潔でいいと思うぞ」
「そうですね、長々と説明したら変に警戒されそうです」
すると1人の少女が駆け寄って来た。確かこの子は前にも会ったな。
「ちょーだい」
「はい、熱いから気を付けて食べてね」
刹那、セルビナが少女のスープに少量の氷を入れた。火傷防止か、相変わらず気が利くな。
「あ、ちょっと…!」
母親が止めようとしたが少女は早々にスープを口に入れた。はふはふした後、おいしい!と軽く跳び跳ねてスープが溢れそうになったのでアニラが注意した。
それを見た他の住民達も歩み寄ってきてスープを次々に受け取って行った。
「これはうまい!」
「美味しいっ!」
「身体が温まるなぁ」
絶賛の嵐の中、1人の中年男性が声を荒げた。
「どうして人間がわざわざこんなことをする!何か企んでいるに違いない!毒でも入っているんじゃないのか!」
場の空気が一気に変わり、街の人々は不安そうに手にしたスープを覗き始めた。
「な、なんてことを!この方達は…」
「俺が勝手に始めたことだ、もし気に障ったなら謝る。疑念を抱く者は手に持っているスープを棄ててくれて構わない。因みに炊き出しの動機を述べるならば、ここに居るセルビナは掛け替えの無い大切な仲間だ。その仲間の同種族に施しを与えることに理由はそんなに必要無いと俺は思っている。それだけだ」
スープを棄て器を放って去って行った人も居たが結局集まった殆どの人達がおかわりをして器を返却してくれた。
「ご馳走さまでした」
「ありがとう、美味しかったよ」
「お兄ちゃん、また作ってくれる?」
「ああ。もちろんだよ」
そう言って女の子の頭をそっと撫でると嬉しそうに笑ってくれた。母親は申し訳なさそうに頭を下げてから手を繋いで去っていった。
調理器具等をアルディアの屋敷に持ち帰り、そのまま風呂に入ってガールズを寝かし付けてから就寝した。
翌朝、4人でエダロスの店に行って荷物を受け取りフスレイウを目指した。




