初級
受付に居たのはおっさんと若い女の子…親子かな。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。暫く滞在したいのですが」
「了解致しました。サービスで1泊3ケルンですっ」
あれ、看板には1泊5ケルンって…というか何のサービスだ?長期滞在割引みたいな感じかな?
「おい、何のサービスだ」
おっさんが顔をしかめた。
「えっ、うーん。カッコいい人サービスかな…いたいっ」
女の子は頭を叩かれた。
「全くお前は」
「あ、5ケルンで構いませんよ」
宥める様に言うとおっさんは申し訳なさそうな顔をした。
「お気遣い感謝しますがお客さんにやっぱり5ケルンですなんてことは言えません。3ケルンで良いですよ。この紙にサインして下さい」
「何かすいません」
これはツイてる…と言うよりこの子のおかげか。
叩かれた女の子は反省する様子は無く俺にウインクした。普通に可愛い。
「ではお部屋にご案内しますっ」
女の子に案内されて2階の端の部屋に着くと彼女は話し始めた。
「あの、冒険者さんですか?」
「いえ、これから登録しに行くんです」
「そうなんですねっ。ギルドには柄の悪い連中が居るので絡まれない様に気を付けて下さいね」
何て優しいんだ。可愛いし。
「ありがとう、気を付けます。初対面なのに優しいんだね」
「誰にでもって訳じゃないですからっ」
照れながらそう言って鍵を渡し、女の子はそそくさと去っていった。
何だよあれは…勘違いして浮かれてしまうぞ。
部屋に入り荷物を下ろしてお金と短剣だけ持ってギルドに向かった。
ギルドに到着し扉を開けると凄い熱気を感じた。
うーん…ギルドと言うよりは小汚い酒場に近いな。
ギャハハと笑って酒を飲んでる奴等はなるべく見ない様にカウンターに向かった。
「こんにちは。冒険者登録をしたいのですが」
「何だ新入りか。これから死ぬのか!ギャハハハ!」
後ろから馬鹿みたいにでかい声でそんなこと言ってる奴が居る。無視無視。
「登録ですと20ケルン頂戴します」
お姉さんに言われ布袋から硬貨を取り出した。
「20ケルン確かに頂きました。ではここにお名前ともしパーティー名がお決まりでしたら記入して下さい」
パーティーか…。俺に仲間なんて出来るのだろうか。
一先ずこれで俺は最下位のEランク冒険者だ。
冒険者になったからにはやっぱり魔王討伐でも目標にするべきなのか…いや勇者じゃあるまいしそんなだいそれた目標は不要か。
「これが冒険者カードになります。当ギルドはあなたを歓迎致します。分からないことが有れば何なりとお聞きください」
愛想好くて優しい。そして普通に可愛い。
「ありがとうございます。よろしくお願いします、綺麗なお姉さん」
「綺麗だなんてっ」
あれ、素で照れてるけどあんまり言われないのか?どう見ても美人だけど。
「よお新入り。奢ってくれたら何でも教えてやるぜぇ」
うわ、めちゃ臭い。酒臭い上に一週間体を洗ってない様な臭いだ。
「結構です。では」
「おいおい待てよ。俺は親切に言ってるのによ」
肩を掴まれ止められた。
汚い手で触るな!なんて言ったらこいつ襲いかかってきそうだな。
俺は振り返ってカウンターのお姉さんに聞いた。
「ギルド内や冒険者間にルールとか有るんですか?」
「は、はい。ギルド内での暴力は厳禁ですが…」
外では何でも有りってことか。お姉さんは心配そうに俺を見ている。
「ありがとうございます。クエスト決めたらまた声掛けますね」
そう言って笑い掛けるとお姉さんはまた照れていた。
「おい!何イチャついてんだよ。さっさと奢れよ」
「取り敢えずギルドから出ないか」
そう言って少し殺気を込めて睨み付ける。目立ちたくはないが嘗められるのは嫌だ。
「どうするんだ。俺はクエストを見に行きたいんだ。さっさと決めてくれ」
「ちっ…」
大男は後退りした後黙って席に着いた。周りの奴等が睨んでくるけど無視無視。
クエストの掲示板を見に行くとランク毎に受注可能な様で、Eランクの俺は報酬の少ないお使いの様なクエストしか受けられない。
ん?このC級クエストは…ワイルドウルフの群れの討伐。報酬は30ケルン。
ワイルドウルフって道中で何度か遭遇したあのデカオオカミのことかな。このくらいのクエストが丁度良いかもしれない。
お姉さんに相談してみよう。