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儀式


「何としても隙を作るのじゃ!」

「おう!」

「はい!」

「分かりました!」


ポルメネは治癒結界を張った。相手はアンデッドなので治癒する心配は無い。


「俺が止める、アニラは後ろから抑えてくれ!」

「了解しました!」


ルシガルが不滅の守護者の目の前に立ち、反撃せずに大剣を躱し続けている。あれは何かを誘っている…まさかあいつ!


「必…貫刺ッ!」 ドシュッ!


笑みを浮かべたルシガルは胴体を貫かれながら不滅の守護者の両腕を掴んだ。


ガシィッ!


それとほぼ同時にアニラが背後に廻り、奴を羽交い締めにした。


「ブラッディ・ショットガンッ!」 バァンッ!!


イヴが撃つ寸前にアニラとルシガルは離脱した。


「ガ…」


不滅の守護者の身体は崩れかけているがまだ倒れずに構えている。


「ちぃ、しぶとい奴じゃ。ブラッディハチェット!」 バキンッ!


血刃の手斧は弾かれた。


「ブラッディ…」

「ハッ!」 ザンッ!

「ぐっ…!」


イヴは斬り上げられて後方に飛ばされた。


「イヴ姉さん!」

「連続圧拳っ!」 ガガガガッ…!


「ググ…結…晶現ッ!」 バシュッ!


「きゃあ!」 ドサッ。


鋭い結晶はアニラの肩を抉った。


皆に感謝する。私を信じて隙を作ってくれたことを。渾身の一振りで終わらせる!


「氷刀・物干し竿っ!」 ザァンッ!!


極限まで研ぎ澄ませた氷の刃で不滅の守護者の胴体と両腕を水平に切断した。アンデッドだろうがその様ではもう戦えないだろう。左腕の御返しだ。


「ヌ…力ハ示サレタ…器ヲ持ッテイケ…我ガ大剣トトモニ…」


そう言い残して不滅の守護者は目の光が消え、動かなくなった。


台座から『魂の器』を無事回収し、守護者の大剣も持ち帰ることにした。


治癒と回復に努めて休息を取った後、私達は急ぎ足でダンジョンから出た。


途中、魔物数体と遭遇したが問題なく全て討伐した。


転送石を使用して屋敷に戻ると皆が出迎えてくれた。


私の腕を見て皆揃って悲しんでくれた。私は純粋に悲しんでもらえたことが嬉しかった。ポルメネにはお前のせいじゃないと少しきつめに言った…そうでもしないと彼女は自分を責めるだろう。それにこれは名誉の負傷、ミウの為なら腕1本くらい安いものだ。


「ふん、腕を失くしたか。器は手に入ったのだろうな」

「勿論です」

「遅かったから心配したんだよー」

「そういえば出発から何日経っておるのだ」

「11日ですわ」

「なっ、そんなに経っていたのか」

「洞窟内では朝晩が分からぬからのう」


確かに何度も睡眠をしっかり取りながら慎重に進んでいたし、戦闘にもかなり時間を掛けていたからな。


「それで、儀式は可能なのですよね!」


「落ち着け見苦しいぞ。魔導儀式は明日行う、生け贄を決めておけ」


取り敢えず解散になり、身を清め久しぶりの温かい湯船に浸かってすっきりした。


夜、アニラと共にイヴの部屋に行った。


「来たか」


イヴに促されて私とアニラは椅子に腰掛けた。暫しの沈黙の後、アニラが口を開いた。


「平等に…決められませんよね」

「…そうだな」

「お主ら、魂を捧げるのは妾じゃぞ?」

「えっ」

「なっ、何を言っている!」

「まあ聞くがよい。妾はミウと過ごした時間が一番長い、そしてお主らよりも長く生きている。お主らは死ぬには若すぎる」

「いえ、一度生きることを放棄したアニラの命を捧げます。ミウ様の為なら本望ですっ!」

「駄目だ。かつてミウから故郷を奪った元凶であり二度も命を狙った私が犠牲になるべきだ!」

「お主ら勘違いをするな。異論は認めん、これはもう決まったことじゃ。これ以上議論するつもりはない。ここは年長者の顔を立ててもらうぞ、よいな」

「イヴさん…」

「イヴ…」


アニラは泣きながらイヴに抱き付いた。


気付くと私も涙が頬を伝っていた。


「何じゃ2人して情けないのう…仕方ない、今宵は3人で寝るか」

「はいっ」

「ああ」


泣きじゃくり、鼻を啜りながら私とアニラは返事をした。


それからイヴはミゥーズ傭兵団全員を集めてに事情を話した。皆が悲しみ、号泣していた。特にダレアとポルメネは傭兵団を創設した頃からイヴを慕っていた分、悲しみは大きく深いものだった。


イヴの部屋に戻った私達は3人で夜通し今まであった数々の出来事を思い出して沢山語り合った。


途中、イヴとアニラが軽い言い争いをしてから笑っていた。私も初めはつられて笑っていたが、これも最後だと思うと途端に笑えなくなってしまった。


イヴが居なくなる…想像ができない、喪失感に自分が耐えられるか不安になった。


翌朝を向かえ、朝食後、王都を出て鍛練の時によく訪れていた『ユイナ台地』にやって来た。


私がミウと二度目に戦った場所でもある。


魔王様、テルセリーデ、ルミディア、ルシガル、ミゥーズ傭兵団全員、そして私達『クローバー』が集まった。


地面には既に魔方陣が描かれ、ミウの所持品である直刀、冥王の指輪、旅の御守り、貝殻の装飾品が並べてある。そして中央に『魂の器』が配置されている。


「さあ、生け贄は誰だ。まさか決められなかった訳ではないな」

「なめるでない。贄は妾じゃ」

「…ほう、吸血鬼か。どうやって決めたのだ、賭け事に負けたか?」

「そんなことしません!イヴさんはアニラ達を想って自ら進んで決めたんですっ」

「そうです。私達も覚悟はできていましたが…恥ずかしながらイヴの覚悟より劣っていたのです」

「自ら進んで…だと。貴様等2人も覚悟していた…?」

「その通りじゃ。分かったらさっさと始めんか」

「…」

「魔王様?」

「はぁ…つまらん。つまらんぞ」

「貴様、何を言っておるのじゃ」

「醜い争いが見れると思っていたのに…落胆したぞ。まあもういい、下がれ吸血鬼」

「なっ、何なのだ貴様…まさか魔導儀式はできぬのか!」

「見くびるな、儀式は行う。但し『親しい者の魂』は必要無い」

「どういうことですか」

「あれは嘘だ。必要なのは『同等以上の魔力を持つ者』。そして儀式にはワシの魂を使用する」


「!?」


その場の全員が驚きを隠せなかった。


解らない、魔王様は一体何を考えているのだ。

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