犠牲
「てっきり巨大な魔物が出てくると思ったんだがな…先ずは俺が出る。隙を見て不意討ちを頼む。汚ないやり方だが手段は選んでられない…そうだろイヴカロン」
「うむ、あれはかなり強い…分類するならば精霊を宿したアンデッドじゃ」
「精霊…ですか?」
「装備品か」
「その通りじゃ。あやつが身に纏っているのは強力な加護を受けた鎧。恐らく元は名高い騎士、死してなお『魂の器』を守り続けているのじゃろう。ただのアンデッドナイトとは別次元の存在…名付けるならば『不滅の守護者』といったところか」
「ポルメネ、研磨魔法を頼む。俺は今から30分間身体強化した状態で戦う」
「分かりました」
「無茶はするなよ」
「ああ。冷静に判断する」
「ふふっ。お主、家族と再開してから随分と丸くなったのう」
「確かに。特に言葉遣いが変わりましたよね」
「はっ、妹達に叱られたからな。じゃあ行ってくる」
ルシガルが一瞬で台座の近くまで行くと、座っていた不滅の守護者が飛び降りてきた。
ズシーン!!
「でかいな。本当に元は人間だったのか?」
「ググ…侵入者ヨ、魂ノ器ヲ欲スルナラバ我ヲ討チ、力ヲ示セ」
そう言って不滅の守護者は見るからに異質な大剣を構えた。魔剣とは違うが霊気を纏っている…恐らくあの剣にも強力な加護が施されているな。
「上等だっ!」 ガキィーンッ!
速い。動きが殆ど見えない、これがルシガルの最大速力か。
キィンッ! 「くそっ」
だが不滅の守護者はルシガルの攻撃を全て大剣で捌いている。見切りも相当なものだな。
「うおおっ!」 ガキィンッ!
「ムゥ!」 バキッ!
「なにっ」
大剣の一振りでルシガルの鉄爪が容易く折られ、私達は危機を悟り結界から出て仕掛けた。
「ブラッディハチェット!」
「アイスロックスコール!」
「風掌波っ!」
ドガガガガガガッ!! 「ググ…」
損傷は無さそうか…いや、肩の部分が割れている。
「たたみ掛けるぞ!アイスソードフォーメーション」
「ブラッディクロスソード」
「永続圧拳っ」
「うおおおーっ!」
4人で一斉に攻め掛かったその時、不滅の守護者が溜めを作っていることに気付いた。
「輪…転斬ッ!」
ガキキキキンッ!!
「ぐあ」
「ぐっ」
「くっ!」
「ぬう」
凄まじい体の回転から産み出された斬撃によって全員弾き飛ばされた。なんて威力…こいつが騎士だった頃の剣術か、かなり洗練されている。
「必貫…刺…ッ!」 ギィンッ!
イヴを狙った強烈な刺突を彼女は2本の血剣で受け流した。
「皆、こやつの剣はまともに受けるな!必ず避けるか受け流すのじゃ!」
「了解だ!おらぁ!」 ガキンッ!
「アイスロックショット!」 ガガガァン!
「ムウ…」
「よろけたぞ!アニラ!」
「はいっ!嵐風剛圧拳っ!」 ドゴォンッ!!
「ヌォォ…」
背後からの強力な打撃、効いたはずだ。
「イヴ!」
「うむ。いつでも撃てるぞ」
「俺が止める!その隙に撃ち込め!」
ガシィッ!
ルシガルが後に廻って羽交い締めにした。
「ゆくぞっ!」
「…結晶…現ッ!」 ドシュ。
「がっ!?」
突如背中から先の尖った結晶が複数出現し、ルシガルの腹部を貫いた。
ドガァッ! 「ぐふっ」
更に不滅の守護者は魔法を放つのを躊躇ったイヴに前蹴りをくらわせた。
「ルシガル!イヴさん!」
「ごほっ、妾はルシガルの腹を治す。その間相手を頼めるか」
「わかった!」
「お任せください!」
身体から結晶を出せるのか…それよりあの前蹴りを受けた時の反応、恐らくイヴも肋骨が折れている。2人の治療が終わるまで何とか持たせなければ。
「コールドステイク!!」 ドガガガガッ!
「圧脚っ!」 ガァンッ!
「セルビナさん!」
「ああ!」
あえて近距離で戦う。そうすればこいつはきっと…。
「輪転…斬ッ…!」
きた!私とアニラは素早く後方に跳んで避けた。
「今だ!」 バキィッ!!
「ヌ…!」
回転斬りの直後、潜伏していたポルメネが現れ思い切りメイスを振り、背中の鎧を砕いた。
「よし!良いぞポルメネ!」
「オオ…オオオッ…!狂…連撃ッ!!」
ガガガガガガンッ! 「きゃっ!」
突如不滅の守護者は凄まじい連撃を繰り出し、ポルメネは捌き切れずに弾き飛ばされ腰を着いた。
まずい、あの体勢じゃ防ぐも避けるも難しい。
「ポルメネ!」
私は全速力で移動してポルメネの前に立った。
ザンッッ!!
ドサッ。
凄まじい一振り…全く反応出来なかった。何か落ちたので音のする方を見ると、そこには私の左腕が転がっていた。
「うぐぅ…!」
その瞬間、鋭い激痛が走り脚がふらついた。こいつ、『ダークイルミネーター』を着けていない方の腕を狙ったのか。
「セルビナさん!」
「セルビナ!」
「はああー…永続嵐風圧拳っ!」 ドガガガッ!
「うおおーっ!」 キィンッ!
「直ぐに止血します!」
「ああ。頼む」
きっと悟っているのだろう、ポルメネは今にも泣きそうだった。治癒魔法では傷は癒せても欠損した部位を元に戻すことはできない。だがあの時前に出ていなかったら確実にポルメネは死んでいた。
賢明な判断だ、間違ってはいない。それでもつい考えてしまった…私はもう両手で刀を握れない…想い人が生き返っても両腕で抱くことができないのか…と。
「セルビナ、念のため腕は持ち帰る…凍らせておくがよい」
「ああ。フリーズミスト」 パキキキ…。
2人はアニラ達の加勢に行った。
「…」
隻腕の私では足手まといに…いや、何を考えているんだ私は。まだ戦いは終わっていない。奴を倒して『魂の器』を手に入れるんだ。
私は立ち上がって刀を強く握りしめた。




