到達
「あれは!」
「成る程、クリスタルクラブじゃな」
「ポルメネ、支援魔法を」
「はい!」
「俺達に気付いたか。どんどん出て来るぞ」
「この地形だと固まるより散って戦った方が良い。ポルメネ、いけるか?」
「当然です!」
「よし、援護できる様に一定の距離を保ちつつ散開するのじゃ!」
「分かった」
「了解です」
「おう!」
「はい!」
全員出し惜しみ無しで魔法を多用しながらひたすら戦った。
クリスタルクラブの硬さはクリスタルビートルを上回る…しかも確実に30体以上は居る。
ここは正念場だ。必ず乗り切る!
どれくらい経っただろう。私達は無我夢中で戦った。
魔力消費は当たり前、このダンジョンで初めての大きな負傷。血を流し、防具も傷み、全員が極限状態で戦っている。
「きゃっ…!」
「ポルメネ!」
「ぬう、ブラッディクロスラージソード!」
バキィッ! 「ギシャアー!」
「永続嵐風圧拳!」 ドガガガガッ!
「うおおおーっ!!」 バキャッ!!
「アイスロックヘビーショット!」 バキィンッ!!
私達はひたすら戦い続け、気が付くと辺りはクリスタルクラブの死骸で埋め尽くされていた。
「ギィーッ!」 ズズーン…。
最後の1体を仕留め、討ち漏らしがないか確認した後全員その場に座り込んだ。
「はあっ、はあっ」
「ぐ…もう動けん」
「くそ、肋骨をやられた」
「皆さん、治癒結界を張るので集まって下さい」
「治癒結界…?ポルメネ、そんなこともできるのか」
「はい。治癒魔法と結界魔法を独自に組み合わせて完成させました」
「ほう、それは凄いのう。本当に成長したものじゃ」
「姉さんにそう言って頂けて嬉しいです」
私達は一ヵ所に集まり、ポルメネの治癒結界に包まれた。
「魔力回復薬だ」
「ありがとうございます」
「各々回復薬と薬草液の数を数えておけ」
「分かった」
「了解しました」
「うむ」
今の戦い…正直かなり危なかった。仮に追加で10体ほど出てきたら犠牲者が出ていたかもしれない。
「寝床と食事の準備をしよう」
「うむ。今は休息が必要じゃ」
「アニラはこの死骸を退かします。採取はしますか?」
「そうじゃな。数が多いゆえ、妾も手伝おう」
「俺も手伝う」
「ポルメネは私と食事の準備だ」
「分かりました」
「結晶の魔物じゃと食べることもできぬな」
「そうですね。普通の蟹が食べたいです」
「良いな。俺も蟹は好物だ」
「セルビナ姉さん、食事はどうしますか」
「大きい皮袋に凍らせた肉が入っている。それと根菜を使ってスープを作ろう」
「良いですねっ。では火を起こしますね」
「頼んだ」
私達は食事と睡眠を充分に取ってから、地底湖を抜けた。
「イヴ、食料と水、薬が残り少ないぞ」
「そうじゃな。ルシガルよ、最終手段は覚えておるな」
「勿論だ。いつでも行けるぜ」
最終手段とは身体強化魔法を使用したルシガル1人でダンジョンの外に出て予め王都から持ってきて置いてある物資を取って来るということだ。
出発の際、全員の背負い袋にたっぷり物資を入れて来たがこのダンジョンは私達の想像を超えるほどに深いかもしれない。その時の為に前日に運んでおいたのだ。
お陰で転送石をかなり使ってしまった。次にエダロスの店に行った時、ここで入手した素材と交換してもらおう。
「あ、あれ!」
「まさか…あれなのか」
広い空間の奥に在る台座の上に器の様な物が見える。あれが『魂の器』だとしたらここは最深部なのか。
「ここが最深部ならば迷宮の主が出てくるはずじゃ。セルビナ、探知魔法は使うな。気取られる可能性がある」
「それ程の相手なのか」
「うむ…魔王に近しいものを感じる」
「なっ」
「嘘だろ」
「そんな…」
「一度引き返すぞ」
「うむ、万全の状態にして挑むべきじゃ」
「わ、分かりました」
用心の為ポルメネに頼んで隠蔽結界を張っておいてもらって良かった。ここで唐突に戦闘が始まったら全滅していたかもしれない。
私達は静かに手前の道まで戻り、薬だけ取り出して荷物を置いてから輪になって座った。
「どんな魔物でしょうか」
「あれだけの力を感じたのに姿が見えぬということは大型の魔物ではないかもしれぬ。或いは擬態していて気付けなかったか…先ずは様子見じゃな」
「そうですね。下手に攻撃するのは避けましょう」
「全員、体力と魔力はどうじゃ」
「私は問題ない」
「アニラもです」
「右に同じだ」
「いつでも行けます」
「よし、先と同様に隠蔽結界の中に入ったまま近付こう。戦闘前に少しでも相手の情報が欲しい」
「そうじゃな。これは慎重過ぎるくらいが丁度よい戦いじゃ」
「何としても主を倒して手に入れましょう」
「おう!」
「はいっ」
そして私達は再び最深部の広い空間に入った。
敵の姿は見えない、やはり擬態しているのか。
「む、あれか」
「えっ」
「あの上に座っている奴か」
見上げると最奥の台座の遥か上に魔結晶が横向きで突き出ており、その上に鎧を纏った人らしきものが胡座をかいている。




