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三葉


あれから半年が経った。


あの日、後から転送されて来たルシガルの口から伝言を聞かされた。『約束守れなくてごめん』と。


私達は急いで体勢を立て直し3人でエダロスに貰った黒い転送石を使って魔国デスピアに行き、魔王城まで休まずに走った。


魔王城は跡形もなく破壊されていた。


アニラは泣き崩れ、イヴは無言で僅かに残った城の瓦礫を隈無く調べていた。


ミウの荷物と『月明爪』は脱出する際、ミウがルシガルに預けて転送させたので無事に残っている。


私達はエダロスの店に戻り、事情を詳しく話すと彼は随分と落ち込んでいた。出会ったばかりの相手を悲しませるとは、お前はやはり凄い奴だ。


それからが大変だった。ベルギュリウス王、ルムリス達、ミゥーズ傭兵団にミウの死を告げると皆嘆き悲しんだ。特に動揺し取り乱していたのはルムリスとレリス、そしてポルメネだった。きっとアギレやヘルキバ達も悲しむだろう。


一度だけアニラが「生きてる意味が無い、もう死にたい」などと口走ってイヴを本気で怒らせた。私は喧嘩する2人を必死で止めながらも涙を堪えるので精一杯だった。


ルシガルは実家に帰り、落ち込んでいる妹達を慰め続けているとか。


魔王様と一の牙2人は暫く我々の屋敷で共に暮らしていたが、ある日何も告げずに姿を消した。


落ち着いた頃、屋敷の近くにユラノの墓を建てた。そんなことをする義理は無いと誰もが言いそうだが、きっとこの為にミウは彼女の遺体を転送させたのだと思う。


お前は最後まで御人好しなんだなミウ。


ルシガルとテルセリーデとルミディアには感謝された。魔王様は何も言っていなかったが姿を消す前、時折ユラノの墓の前に座り込んでいるのを目にした。


喪失感と言うべきか…この胸に空いた穴が埋まることはない…そんな気がする。それでも私は精一杯生きようと思っている、ミウの分まで。


最近はギルドに行き、手頃なクエストを受注して手に入れた素材をエダロスの店まで持って行くのが日課になっている。


基本的に3人で行動しているが、4人で旅をしていた頃に比べると活気が無いと言うかパーティーの雰囲気が常に暗い気がする。


アニラは窶れた。たまに体調を崩してクエストに来ない時もある。


どうやらふとした時にミウのことを考え、様々なことを思い出してしまうと膨大な喪失感が押し寄せて来て心身共に不調を来す様だ。あの状態がこの先ずっと続くと思うと正直心配だ。


ある朝、支度を済ませてから屋敷の玄関でイヴと話していた。


「なあイヴ、アニラを故郷に送るのはどうだ?」

「うむ…妾も考えていた。今のあやつは見るに堪えん」

「そうだな。しかしバラバラになってしまうのは寂しいものだな」

「そうじゃな…。孤独は恐ろしい。セルビナ、お主はどこにも行かないでくれるな」

「ああ。勿論だ。私はミウの創った傭兵団や成した偉業、ここタルハスという国での彼の存在を守り続けたいと思っている。クローバーの印を失くす訳にはいかないからな」

「うむ、妾も同じ想いじゃ」

「ならば約束しよう」


そう言って私が小指を立てて前に出すと、イヴは懐かしむ様に笑った。


「アニラも約束します。因みに故郷には帰りませんから」

「アニラ」

「よいのか?」

「はい。アニラもあの方が存在した証を守りたいのです」

「そうか」

「まあたまには両親に会いに帰ろうとは思っています」

「うむ、きっと喜ぶじゃろう」

「ではギルドに行きましょうか」

「大丈夫なのか」

「はい、最近は調子がいいので」


ギルドに到着するといつもの様に顔馴染みの冒険者達が挨拶をしてくれた。


3人で掲示板を見ていると受付嬢が駆け寄ってきた。


「おはようございます。つい先程王国より緊急討伐クエストの要請が入ったのですが…」

「内容は?」

「王都近くの森でハードマンティスの強化個体が出現した様で。被害が出る前に迅速に排除して欲しいとのことです」

「2人ともよいか?」

「ああ」

「やりましょう」

「ありがとうございます!Aランク相当のクエストなのでどうかお気をつけて」


私達はクエストを受注して証明書を受け取り直ぐに出発した。指定区域に入ると木が数十本切り倒されている場所があった。


「近いな」

「あれは凶暴かつ好戦的。呼べば出てくるじゃろ」


「出て来なさーいっ!」


アニラが大声で叫ぶと、鳴き声と共に木を倒しながら巨大な何かが向かってきた。


現れたのは通常のハードマンティスよりも一回り大きなものだった。


「ギシャアアアーッ!」


「なかなか硬そうじゃのう」

「そうだな」

「斬撃より打撃が良さそうですね」


シャキン。


「アニラが陽動、イヴと私で叩き潰す。エンチャント・アイスハンマー」

「よかろう」

「了解です」


「ギシャー!」


「風掌波っ!」


ゴォォーッ! 「ギギ…」


「はっ!」


グシャァッ!!


私とイヴは高く飛び声を揃えてハードマンティスの頭を氷の大鎚で挟む様に叩いて潰した。


ズズーン…。


「仕舞いか」

「確かこの魔物、ミウ様がまだソロの時に戦ったことがあると聞いたことがあります」

「そうなのか?」

「はい」

「……討伐証明は両鎌じゃったな」


ズババババッ!


イヴが血刃で巨大な鎌と甲殻を切り落とした。鎌以外の素材はエダロス用か。


「鎌は両方私が持とう」

「すまぬな」

「ありがとうございます」


王都に戻り、ギルドに行って証明部位と証明書を提出して報酬を受け取った。


「流石クローバーのお三方です、ご協力感謝致しますっ」

「気にするな。また何かあったら遠慮なく言ってくれ」

「はいっ、ありがとうございます!」


「では帰りましょうか」

「うむ」

「ああ」


「いたいた。探したよー」


聞き覚えのある声がして振り向くと、ギルドの入り口にルミディアとテルセリーデが立っていた。

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