魔王
俺は『物干し竿』を構え直した。
「もうそれは見えている。残念ながら俺は斬れねぇよ」
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと来い。真っ二つにしてやるよ」
「てめぇ…手も足も出ない野郎が生意気なんだよっ!」
ジャキン!
鉄爪が伸びた。仕込みだったのか、ついてるな。
「これで息の根止めてやるよ!」
よし、ここでわざと物干し竿を高く構える。
「やれるもんならやってみろ」
「いくぜっ!」 ザッ!
やっぱり見えない。だが見る必要は無い。物干し竿をしまって…
ドシュッ!
「ぐっ…!」
「はっ、なんだ口だけか。全然反応できてねぇ…なにっ!?」
ルシガルの突きで俺の腹には穴が空いた。計画通り胴体を狙って突いてくれた。攻撃を確実に当てるには捕まえるしかないからな。
こいつの武器が腕と一体型で良かった。それにしても激痛だぞ、ちくしょう。
「くっ、抜けねぇ」
「おらぁ!」 バキィ!
「ぐっ…!」
俺はルシガルの頬を思い切り殴った。
衝撃でルシガルの腕が抜け、俺は急いで腹に治癒魔法をかけた。
「くそっ、何のつもりだ。顔を1発殴られたくらいで俺は倒れねぇ。馬鹿が、もう同じ手は通用しないぞ」
「分からないのか、馬鹿はお前だ。次で終わらせる」
「敗者の戯れ言か?今度こそ死ねっ!」
感じるぞ、奴の憎悪と殺意が増している。ここだな。左拳に『鎧』を纏いルシガルの爪を掻い潜って全力のアッパー!
ボガァンッ! 「ぐぅっ…!」
更に至近距離で腹に向けて「玉っ!」
ドゴォッ! 「ぐおぉっ」
ドサッ。
「ふぅ、俺の勝ちだな」
「な、なぜだ…どうして俺の動きを読めた」
「そうだな、なんというか…今のお前は気配が強過ぎる」
「はっ…お前への怒りが仇になったか…くそっ、魔王様に負けて以来の敗北だ」
「お前、冒険者だったんだろ?」
「…ああ。Sランク冒険者、瞬迅のルシガル」
「Sランク!?凄いな。で、なんで魔王軍に?」
「ちっ…。数年前、Sランク5人で魔王討伐に来たが、俺以外は殺された。魔王様は俺だけに選択肢を与えた。軍門に下るか死ぬか」
「なんでお前だけなんだ?」
「殺すには惜しいと思ったそうだ」
「成る程な…魔王って血も涙もない奴だと思ってたから意外だ。おっと、急がないと。そろそろ行く、ヘタレが治ったら家族に会いに行けよ」
「待て、殺さないのか」
「俺はルムリス達を悲しませたくない、そもそも敵だから命を奪うって思考…故郷に置いて来たんでな」
「はっ、変な奴だな…」
「じゃあなっ」
「ちょっと待て」
「ん?」
ーーーーーーーーーー
「お久しぶりです、魔王デルート様…」
「一番乗りは貴様かセルビナ。元魔王軍が魔王の討伐とはな。それにしても単騎とは…仲間と合流しなくて良かったのか?」
「問題ありません。道標を配置しながらここまで来たので」
「成る程、だが仲間が来るまで生きていられるのか?」
「そちらも問題ないかと」
「生意気な。この裏切り者めが、ワシの強さを忘れたか」
ジャキンッ!
あれは代々魔王様だけが持つことを許されている『魔剣ゴルコビア』凄まじい威圧感だ…恐らく何か魔力を秘めている…充分に警戒しておこう。
ーーーーーーーーーー
この氷の道標は…セルビナか、急がないと。
「ミウ様!」
「ミウ!」
走っているとアニラとイヴが後ろから現れた。
「2人とも無事か」
「はいっ」
「うむ」
「セルビナが先に行ってるようだ、急ぐぞ!」
長い階段の先にある巨大な扉の向こうから戦闘音がする。
扉を勢いよく開くと血を流し傷だらけのセルビナが戦っていた。
「セルビナさん!」
「一度下がれ!皆で戦うぞ!」
セルビナは素早く俺達のもとに移動した。
「ミウ…すまない。先走った」
「無茶するな、到着が遅れてたら危なかったぞ。これからはちゃんと自重してくれ」
「わかった…」
俺はセルビナを抱き寄せて治癒魔法をかけた。
あいつが魔王か…思っていたより見た目が若い、そして普通にイケメンだ。
「まさか侵入者を1人も始末できんとは…六大凶牙も当てにならんな。セルビナを誑かした人間と仲間達か…全員生きてここから出られると思うなよ。ダークネスブレイド…!」
ヴンッ!
魔王は黒い魔法剣を出して二刀流の構えになった。
「あれは闇の属性魔法か?」
「そうだ。闇魔法は生命力にもダメージを与える。私とイヴはある程度耐性がある、ミウとアニラは気を付けろ」
「分かった」
「解りました」
「…あの魔力、妾達の耐性も当てに出来ぬぞセルビナ」
「確かにそうだな…気をつけよう」
「うむ」
場の空気が張り詰めている…遂に魔王との決戦だ。
さあやるぞ!




