寵愛②
「ミウ、やはりお前は不思議な魅力を持っているな」
「本当ですよ。初対面の魔人族とあんなに親しくなるなんて」
「さすがじゃな」
「後悔はしたくないからな…」
「後悔、ですか?」
ガールズが心配そうに俺を見ている。
「えーっと…あ、買った指輪皆で填めようか」
「はいっ」
「そうだな」
「嵌め込んである魔石の色がそれぞれ異なる様じゃが…」
冥王の指輪は黒、妃の指輪はピンク、オレンジ、イエロー。
「ジャンケンで決めるか?」
「ミウ様に選んで戴くのはどうでしょう」
「賛成じゃ。頼んだぞミウ」
「分かった」
アニラがピンク、セルビナがイエロー、イヴがオレンジ。直感的にそう決めた。指輪のサイズは持ち主の指に合わせて勝手に大きさが変わるという優れものだ。
「やはり左手の薬指でしょうか」
「そ、そうじゃな」
「良いのか?」
「駄目だ。3人の左手の薬指に填める指輪はもっとちゃんとした物をちゃんとした手順で選んで贈りたい」
「ミウ様っ、アニラはその時を楽しみにしています」
「私も楽しみに待っている」
「妾もじゃ」
「俺も楽しみだよ」
「そういえばミウ、転送石がこれだけ手に入ったんだ。この場所を記憶させて一度王都に戻るのはどうなんだ」
「うん、俺もそう思ったんだけどな…」
「ミウ、お主の判断は正しい」
「どういうことですか?」
「今アルディアに戻ってミューズ傭兵団やルムリス達に会ったら妾達は間違いなく気が緩むじゃろ」
「そうですね」
「そうだな」
「妾達はこれから魔王城に乗り込むのじゃぞ。苛烈を極める戦闘が待っている、そんな時に気を緩めることがどれだけ危険か分からぬか」
「あ…たしかに」
「その通りだな。すまない、愚かな提案をしてしまった」
「気にするな。俺だって本当は皆に会いたい。イヴもそうだろ」
「当然じゃ」
それから俺達は街外れの開けた場所で野営の準備をした。
街の近くに雑木林が在るので薪を拾ってきて火を起こし、夕食後、温かいお茶を飲みながら軽い作戦会議をした。とはいえ至ってシンプルな内容だ。
「魔王城はかなり広い。元六大凶牙の私ですら行ったことのない場所が沢山ある。兎に角はぐれない様にして進もう」
「分かりました」
「うむ」
「了解だ。城内に魔物は居るのか?」
「いや、六大凶牙以外の魔王軍は魔王城の近くに在る兵舎に居る」
「城なのに番兵や巡回兵も居ないのですか?」
「ああ。そもそも魔王城に侵入する者など滅多に現れないからな。もしも侵入者が現れたとしても六大凶牙が迅速に始末するだろう」
「成る程な…因みに六大凶牙ってあと何人いるんだ?」
「恐らく7人だ。魔王様は空いた穴は直ぐに埋める御方だ」
「それは厄介じゃな。まとめて相手するとなると手に負えぬ」
「それは問題ない」
「なぜですか?」
「六大凶牙に協調性は皆無だ。寧ろ各々が手柄を独り占めしたいはず」
「それはこちらに有利じゃのう」
「解せませんね…立場上は仲間なのに徒党を組まないなんて」
「かつての私も含めそれが当たり前だと思っているからな。絶対的強者である魔王様には従うが…それだけだ。絆なんてものは存在しない、仲間が死のうが悲しむことは一切ない」
「何だか心が無いみたいですね」
「そうだな」
「うむ」
「…」
唐突にしんみりムードになってしまった。これは良くないな。
「さて、そろそろ寝るか。今夜は時間をかけて寝かし付けるからな」
「はいっ」
「順番はどうする」
「ジャンケンするか」
「アニラは最後で構いません」
「なんじゃアニラ、珍しいのう」
「アニラはメインディッシュなので」
「おい、それはどういう意味だ」
「妾達はスープやポワソンと言うわけか。聞き捨てならんぞ」
食べ物で表現されるとちょっとエロいな…ってそんなこと考えてる場合じゃない。
「こらアニラ、その言い方はちょっとよくないぞ」
「ごめんなさい」
「そうじゃ反省せい」
「ミウ様、アニラは許しを乞うつもりはございません。どうかお仕置きを」
成る程、そっちが本命だったか、随分と狡猾になったものだ。2人はもはや呆れている様子だ。
「分かった。じゃあ尻尾を触らせて…」
「ならぬ!」
「ずるいぞミウ!」
「待て待て。ちゃんと埋め合わせするからそんなに声を荒げないでくれ」
実を言うと今夜は3人を抱くつもりでいた。何故ならエダロスの店で素晴らしい魔導書を手に入れたからだ。
その名も防音魔法。
ドーム状に魔法を展開させ内部の音を遮断するというとても便利な一般魔法だ。だが問題点が2つ、1つは有効範囲が狭いこと、もう1つは魔力を消費し続けることになるので長時間の使用は難しいこと。なので3人を平等に抱けるかどうか正直不安だ。俺の体力と魔力、2つの持久力が問われる。
3人にしっかり説明して同意を得た。
4人で話し合って俺が1人を抱いている間、他の2人はテントを背にして見張りをすることにした。アニラは罰としてトップバッター、ジャンケンでセルビナがメインディッシュとなった。
この寒いなか外でできるのか不安だったがテントと厚手の毛布、焚き火に加えてセルビナの風避け氷壁のお陰でそんな不安も杞憂に終わった。
アニラの希望通りお仕置きっぽく乱暴に抱いたらアニラの反応が予想以上に良くてヒートアップしてしまった。その激しさで自分の身体から湯気が立ち上っていて驚いたと言うか軽く引いた。
続くイヴとセルビナは以前よりイチャラブ増し増しで少し情熱的に抱いた。やはりガールズは身も心も最高だ。しかし消耗が激しく、俺はセルビナを抱き終えて直ぐに眠ってしまった。
目を覚ますとアニラとイヴが両側から俺を包み込む様にして眠っていた。俺の身体が冷えない様にしてくれたのか…まるで楽園だ。
2人を起こさない様に服を着てテントを出るとセルビナが丸太に座って火の番をしていた。
「おはよう。悪いな、昨晩はすぐに寝てしまって」
「そうだな。できれば誠意を示してほしい」
なっ、あのセルビナがそんなこと言うなんて、感無量だ。
俺は黙って座ってるセルビナの後ろに回り込んで優しく抱き締めた。そして両手を握り頬にキスするとセルビナはこちらに顔を向けて目を閉じた。それから俺達は長めの口付けをした。
朝食後、魔王城に向け出発。一度野営を挟む予定だが流石に夜の営みは無しだ。
ここからは気持ちを切り替えて行くべきだと皆で決めた。
8時間程歩くと城が見えてきた。
凄い…距離感が狂う程の大きさだ。セルビナが言うにはアルディアの王城よりも大きいらしい。
「もう少し歩いたら今日は休もう」
「ああ。気付かれない様にしないとな」
「うむ」
「そうですね」
今夜は火を起こせないので暗くなる前に食事と寝床の準備を済ませた。
流石に真っ暗闇では何も見えないので最小限の灯火魔法を使った。
夕食後、明日に備えて早めに交代制で睡眠を取った。




