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友好


「ちい、奴等の攻めてくる間隔が短くなっている」


「面倒じゃな。ブラッディクロスハンドレッドソード!」


ドドドドドドドドドッ…!


「ウガァー!」


「ここからはなるべく妾が戦う。吸血魔法で魔力回復できる妾なら消耗せずに倒せるからのう」


「分かった。でも体力や疲労は戻らないんだろ、無理はするな」

「うむ」


魔物に阻まれ続けたお陰でブデオン大雪原に来てもう6日になる。皆揃ってうんざりしていたその時だった。


「見えたぞ、魔国デスピアだ」

「やっと着きましたね」

「あれは…街か?」

「ああ。国民街だ。前に言ったな、魔人族にも争いを好まない者がいると。この街で暮らしてるのは主にそういう人々だ」


んー、なんと言うか…とても良い暮らしとは呼べない感じだな。


街に入り歩いていると物凄い視線を感じた。でも敵意は感じない…どちらかと言うと怯えが混じってる様に感じる。


「1日歩けば魔王城だが…どうする」

「宿なんて無いよな」

「宿どころかまともな店すら無い」

「だよな。まあどのみち野営は挟まないといけないしな」「まともじゃないお店はあるんですか?」

「ああ。私も噂を耳にしただけだが、確か魔導具店だったか」

「場所は分かるのか」

「なんじゃミウ、興味があるのか」

「ああ。魔国っていうくらいだからな、どんな物を扱ってるのか気になるところだ」

「分かった、街の人に場所を聞いてくる。ここで待っていろ」

「うむ」

「頼んだ」

「お願いします」


相変わらず街の人達はこちらの様子を窺っている。


「墓地の様に陰気な街じゃな」

「確かに暗い雰囲気ですよね」

「…そうだな」


「ねぇねぇ」

「ん?」


小さな魔人族の女の子が俺の袖を引っ張ってきた。角も小さくて可愛らしい。


俺はしゃがんで女の子の目線に合わせた。


「どうしたの?」

「お兄ちゃん人間だよね」

「うん」

「どうしてあたし達のことキライなの?」

「えっ」


そういえばセルビナが言ってたな。迫害や大規模な魔人族討伐のこと。


「お兄ちゃんは人間だけど君達のこと嫌いじゃないよ。クッキー食べる?」

「くっきー?」


女の子は目を大きくして俺が取り出したクッキーに手を伸ばした。


「やめなさい!」


怒鳴り声が響いた。この子の母親か。


「きっと毒が入ってるわ。帰るわよ!」


「なっ、幼女に毒など盛るものか!」


イヴの言葉を無視して母親は女の子の手を引っ張って去って行った。


「ミウ様」


アニラが慰める様に寄り添ってきた。


「大丈夫だよアニラ。ありがとな」


毒…か。暫くするとセルビナが戻ってきた。


「待たせたな。案内する」


路地裏の細い道を進むと見るからに怪しげな佇まいの雑貨店が現れた。思っていたより店が大きくて品数が多そうだ。


中に入ると武器と防具に装飾品、薬や用途の不明な物が沢山並んでいた。


「いらっしゃい」


「人間だが…売ってもらえるか」


「もちろんですよお客さん」


なんだこの店主、街の人達とは随分違う反応だな。


「私の対応が不思議ですか」

「え、ああ」

「実はお客さん達が街に入ってきた時から観察してました」

「観察?」

「はい。それで悪い人には見えなかった。ただそれだけのことですよ」

「人格も読めるのか」

「察しが良いですね。何となくですけど読み取れます」


やはり魔法か。どんなものか気になるが…


「さてここからは商売の話でお願いします。因みに何かお探しですか?」

「魔導書はあるか」

「もちろんです」

「全部見せてくれ」

「少々お待ちを」


そう言って店主は店の奥に入って行った。


「これは」

「それ、セルビナさんの『紫骨』に似てますね」

「短剣か」

「ああ。恐らく魔界の素材を使っている」

「ミウ様見て下さいっ」

「指輪か。ん、これ…」

「うむ、何らかの加護…或いは呪いに近い魔力を帯びておるな」

「それは冥王と妃達の指輪。4つの揃い売り商品です。お客さん達にぴったりですね」


魔導書を抱えながら店主が出てきた。


「妃!?素敵ですねっ」

「これはどんな能力が付属してるんだ?」

「それが困ったことに鑑定魔法でも分からないんですよ」

「イヴ、どう思う?」

「ふむ、奇妙な気配を感じるが…まあ危険な物ではないじゃろう」

「そうか。この指輪…何かの縁を感じる。店主、これをもらう」

「まいどあり。これがうちに置いてある全ての魔導書です」

「凄い、見たことない一般魔法ばかりですよ」

「本当だな。使えそうな物を皆で選んでおいてくれ」

「アニラはこれが欲しいですっ」

「ならぬ!」

「なんだ?」

「それは魅了魔法ですね」

「却下だな」

「はは、魅了ね…ってこれは転送石か!?」


青も緑も1つ15ケルンだとっ!?アルディアでは100ケルンだったぞ。


「何でこんなに安いんだ」

「ああ。魔国では原料の魔石が簡単に手に入るんですよ」

「成る程な。これも幾つかもらおう」

「まいどあり。ところでお客さん、ブデオン大雪原を越えて来たんですよね。魔物の素材とか持ってませんか?」

「ああ。色々持ってるぞ」

「おおっ!ヒュドラとフロストドラゴンの牙と角!それにアーヴァンクの毛皮まで!」


店主のテンションが急に上がった。


「他にもあるけど見るか?」

「是非!…とその前にお客さん、もし良かったらお金ではなくこちらの素材でうちの商品を買いませんか」

「構わないと言うか寧ろ重荷が減って有り難い。よろしく頼む」

「決まりですね」


それから店主は俺達の持っている大量の素材を、俺達は店の商品を見漁った。


結局俺達が選んだのは『冥王と妃達の指輪』セット、魔導書を数冊、転送石10個だ。


「それでは鑑定魔法で釣り合う様に価格の計算をします。気に食わなかったら遠慮なく…」

「いや、素材は全て譲る」

「お客さん、それでは大損ですよ?」

「構わない。友好の証に受け取ってくれ」

「…友好」

「すまない。人間なんかと仲良くなりたくないか…と言うより信用できないか」

「…お客さん、名前を聞いても宜しいですか?」

「創造士ミウ」

「私はエダロスです。ミウさんのご厚意、有り難く頂戴します。これからは上客としていつでも歓迎しますので。これは私からの友好の証です」


そう言って渡されたのは黒い転送石だった。黒なんてあるのか。聞いたことないぞ。


「これは?」

「黒い転送石は記憶させた1か所に限り制限無く使用できます」

「なっ、そんな物が存在したのか」

「これは代々受け継がれてきた言わば家宝。心から信頼できるお得意様にだけ渡すことが許されている魔導石です」

「そんな大事な物…出会ったばかりの人間なんかに渡して良いのか?」

「ミウさん、あなたは信頼を裏切る様な事はしないと私は思うのです…直感ですが、私は信じています」


そこまで言われると流石に照れくさいな。でも普通に嬉しい。俺は手を差し出した。


「改めてよろしくな」

「こちらこそよろしくお願いします」


エダロスとしっかりと握手をしてから、購入した商品を受け取って俺達は店を後にした。

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