門出
何とか呼吸を整えてミウの家族の元に向かった。
俺はリオの傍らに腰を下ろし手を握った。
そのまま数時間が経過し、虫が集り始めたのを見て俺は立ち上がり、何十往復もして村人全員を墓地に運んで丁寧に埋葬した。
村を回ってみたがやはり生き残ったのは俺だけだった。
俺はミウの家に入り倒れて泣いた。いや、涙は絶えず流し続けているからずっと泣きっぱなしか。たった1年の付き合いだったが皆のことが大好きだった。ミウの家族も村の人達も。
口の中が気持ち悪く、濯ごうと村の水飲み場に行った。
桶の水面に写った顔はそれはもう悲惨だった。
あれから何日経った?そういや何も食べてないな…そこに居たのは瞼を泣き腫らし窶れきって虚ろな目をしたミウだった。
俺はふとミウのお母さんの言葉を思い出した。
「ミウ、戻って来てくれてありがとう。生まれ変わった様に優しくしてくれてありがとう」
「う、うん」
そんな言葉を生まれて初めて言われて俺は分かりやすく照れた。そんな俺にミウのお母さんは微笑んで言った。
「ミウが戻って来れたのはきっと何か理由があるはず。その理由が何なのかは分からないけど、この際何でも良いわ。お母さんの願いはいつだって変わらないから。ミウとリオがいつまでも晴れ晴れと楽しく元気に過ごせます様に。もしあなたが村を出て遠く離れようとも、お母さんとお父さんはいつでもミウを想い、この村で待ってるわ」
あの時はまだ出会ったばかりなのに、その言葉を聞いて俺は号泣した。
前世では叶わなかった事、俺はこの家族を大事にしようとそう決めたばかりだった。
桶の水面にポタポタと涙が落ちた。
俺は思い切り顔を洗ってから空を見上げた。
俺が復讐の為に生きても皆は喜ばないだろう…怒りと悲しみはここに置いていく。ミウのお母さんの願いを皆の分も重ねて叶える。俺の居場所を築き、大切に想える仲間と出会い慈しみ、麗らかな楽しい人生にしてみせる。
それから1年間、俺は村を出る準備をした。
この世界の読み書きや金銭のやり取りについては学んでいたので多分問題は無いだろう。最も大事なのは力だ。自分を守る力、誰かを救う力。
俺は久しぶりに魔力の判断方法を試みた。
「!?」
何だこれは…はっきりと両手の平に感じるもの。空気の塊、波動、どう現せば良いのか分からないが確かに存在する。時間は幾らでも有るんだ、この力を知ろう。そして磨き上げるんだ。
22歳になった俺は旅の荷物を持ち、墓地で皆に挨拶をしてからミウの故郷ポマリス村を出た。
罰当たりを承知で村のお金を拝借した。知らない奴に村を荒らされて皆のお金を取られるくらいなら俺が盗っ人になってやる。
先ずは冒険者登録の為に村から1番近くに在る町『ロークス』のギルドを目指す。
地図を除けば俺はまだポマリス村しか知らない。ロークスの町までは歩いて2日程で着く。このタルハスという国は強い魔物は出ない地域らしいがあの魔人族の事もあって油断は出来ない。
あいつの目的でもあった祠に在った短剣はあの後魔人の死体から回収して俺が持っている。
本当はこんな物持ち歩きたくないが村には武器が無く、調理用の刃物や農具を持って行く訳にもいかないので仕方なくだ。
ロークスの町に着いたら色んな店に行って見てみよう。
あとはちゃんと実戦経験を積まないとな。
物凄く弱い魔物とか現れないかと期待しながら俺は歩を進めた。