遭遇
「気をつけろ。魔物が近いぞ」
「分かった」
「ほう、イエティじゃな」
イエティ…でかくて白いゴリラって感じだな。
3人で動きを封じ、アニラが『圧脚』のかかと落としバージョンで頭蓋を砕いた。
それから少し進むと今度は複数のオーガが向かって来るのが見えた。
「また敵ですか」
「人型の魔物、オーガか…これは恐らくユラノの仕業だ。魔物を私達に差し向けている」
「人食い鬼か、厄介じゃな。休む間が無いと消耗する一方じゃ」
「少しでも負担を減らす為に短時間の討伐を意識してきたが、最早それが通用する相手ではなくなってきたな」
「ミウ様、どうしましょう」
「二択だな。このまま進むか逃げ帰るか。皆の意見は?」
「ここまで来たのに逃げ帰りたくはないな」
「妾もそう思う。転送石を使う程追い詰められている訳ではあるまいしな」
「アニラも同様の意見です。いざという時は転送石で帰還すればよいかと思います」
「そうだな、俺も同意見だ。やるぞ!」
オーガ達が近付いてきた。大きな得物を手に重装鎧を身に付けている。手強そうだ。
「回転式杭っ!」 ドシュシュ!
「グオォ!」 ガシャアン!
よし、不意打ち成功で先ずは2体。その後は全員でオーガを全滅させたがやはり多少の苦戦を強いられた。速力は大したことないがオーガ自体がタフな上に身に着けてる鎧の強度が思ったより高い。消耗戦に用いるには最適の兵隊だな。
「次の敵が来る前に先へ進まないとな」
「そうですね」
「全く、あの魔人族は…。妾が始末する、よいなセルビナ」
「ああ。構わない」
先程からイヴが怒っている。魔物を差し向けてくることよりもセルビナへの誹謗に腹を立ててるのか…まあ人を殺めてきたイヴに対して言ってるのと同じ様なものだったしな。仲間と自分に対する悪態に怒っている感じか…気にして当然だな。
「イヴ、俺がさっきセルビナに言った言葉を覚えているか」
「無論覚えておる」
「俺はイヴに対しても同じ気持ちだからな」
「ミウ…。礼を言う」
「それは残念だ。あの言葉は私だけのものにしておきたかった」
「え、ああ…すまん」
「ふっ、気にするな。好きに変わりはない」
おいおい、その台詞と微笑はずるいぞセルビナ。
「ミウ様、アニラにも何かお言葉を」
「そうだな…でもアニラは言葉よりも行為で示される方が嬉しいんじゃないのか」
「…確かにっ!ではアニラを沢山愛でて…」
「待たんか、妾だって言葉だけでは物足りぬぞ」
「それを言うなら私だって同じだ」
「も、もちろん解ってる。それより今は先を急ぐぞ」
「はいっ」
「うむ」
「分かった」
そんなこんなで足早に進んでいると遠くから戦闘音が聞こえてきた。
「セルビナ」
「ああ。この気配、人と魔物が争っている様だ」
「どうしますか」
「愚問じゃぞアニラ」
「行くぞっ!」
「はあ、はあ、魔物に食われるくらいならッ!」
女の子が1人、ホワイトウルフに囲まれて自決しようとしていた。
「大杭っ!」
「アイシクルショット」
「ブラッディジャベリン」
「追い風の加護っ」
ドヒュヒュヒュンッ!
「ガウッ!」
「ギャン!」
「えっ!?」
俺達がホワイトウルフを始末し終えると、女の子はその場に座り込んだ。
「あ…ありがとうございました。あなた方も冒険者ですか?」
「ああ。そうだ」
よく見るとあちこちに擦り傷がある。装備もボロボロだ。
「イヴ、頼む」
「うむ」
イヴは治癒魔法で女の子の傷を治した後、ホワイトウルフ達から血を吸収して魔力を回復させた。女の子はその様子をぽかんと口を開けて見ていた。
「俺はAランク冒険者の創造士ミウ。君は?」
「私は鋭察のソリュテ、Aランク冒険者です」
「よろしく。君の仲間は?」
「…5人居ました」
「そうか」
「あの、仲間達の所まで同行して貰えませんか。置いてきた荷物に転送石があるので」
「分かった。案内してくれ」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げてからソリュテは歩き出した。
少し離れた所に遺体が5つあった。損傷が激しく辺りの雪は真っ赤に染まっていた。
ソリュテは涙を流しながら仲間達の遺品と自分の荷物を回収した。
「このままじゃあんまりだ。埋めてあげても良いかな」
「はい、お気遣い感謝します」
俺の『玉』で地面を抉って5人を手厚く葬った。
「もし良かったら仲間の荷物をお使い下さい。私に必要な物はもう無いので」
「ありがとう。気を付けて」
「ミウさん達もどうかご無事で…。そうだ、私達の拠点は城郭都市フスレイウに在るので立ち寄った際は是非とも訪ねて下さい」
そう言ってソリュテは転送石を使用して行ってしまった。城郭都市フスレイウって確かここから南西に在る大都市だよな。いつか行ってみたいな。
「どうするミウ、6人パーティーが故に物資が多いが…こういう時は…その…」
「気を遣うよな…。でも俺は遠慮なく頂戴するつもりだ」
「そうなのか?」
「ああ。冒険者達がここまで持って来た沢山の物資を破棄するなんて…運んだ彼等の苦労が勿体無い」
「なるほど…ミウの言う通りだ」
「そうですね。有り難く使わせてもらいましょう」
「そうじゃな」
そうして持ちきれない程の薪と食料と水と魔物の素材が手に入ったが、素直に喜ぶことはできなかった。
その夜は火を起こして温かいものを胃袋に入れた。
交代で見張りをして睡眠も取った。
しかし、夜が明ける前に再びオーガ達がやって来た。セルビナに頼んで氷壁を更に分厚くしてもらったお陰で奴等の足留めになり、灯りを増やしてからゆっくり戦闘準備ができた。
「ウォールブレイク!」 ガシャーン!
分厚い氷壁の破片の落下でオーガ達は混乱に陥っていた。
「回転式杭!」
「ブラッディクロスラージソード」
「アイスロックショット」
「連続圧拳っ!」
俺達は容赦なく襲いかかった。混乱に乗じて倒すのは負担が少なくて良策だ。これから野営中に襲撃を受けたらこの方法で対処しよう。
氷壁を再度設置して俺達は寝直すことにした。
日が昇り、軽く食事をしてから出発すると早速オーガ兵が現れた。勘弁してほしい。




