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罪過


朝になり、俺達は出発した。


「待て、何か来る」

「魔物か?」

「ああ。この数は…」

「ふむ、あれはホワイトウルフじゃな」

「あの毛色、親近感が湧きます」

「アニラの毛並みの方が断然良いぞ」

「ミウ様っ♡」

「戦闘前にやめんか。ミウもじゃぞ」

「すまない」

「油断も容赦も無し。そうだろ」

「悪かった」


「ガルルルッ!」


さて、ざっと15頭か。速い上に体が大きく力もありそうだ。


「ブラッディクロスハンドレッドソード!」


ドドドドドドドドドッ…!


「ギャンッ!」

「ギャオン!」


流石イヴ、本当に容赦ないな。いくら俊敏でも100本の血剣は避けられないだろう。


イヴは死んだホワイトウルフの血を奪って魔力を回復させた。本当に便利だな。


「どうじゃミウ」

「流石だな。前より血剣の速度が上がってるし発動までの時間も短くなった」

「ふふん、そうであろう」

「血の臭いで他の魔物が寄って来る。先を急ぐぞ」

「わかった」


そう言って歩き出した次の瞬間、聞き覚えのある咆哮が轟いた。


「なんてことだ」

「あれってまさか」

「フロストドラゴンじゃな」

「俺達はドラゴンに恨まれてるのか!?」


「グゥオオオオォーー!!」


「ヒュドラの時の倒し方でいけるか?」

「奴はヒュドラと違って飛行しながらブレスを吐くぞ」

「じゃあ先ずは地に降ろす。ダイヤモンドドラゴンの時みたいに俺が翼を撃ち抜く、アニラは回転の手伝いと発射時に追風の加護を頼む。イヴは裂ける俺の腕に治癒魔法を。セルビナにはあいつの相手を任せる」

「はいっ」

「うむ」

「了解した」


「巻風!」 ギュルルルルルル…!


「痛っ」


よし、痛みはあるがイヴの治癒魔法で出血せずに済んでいる。


「アイスロックスコール!」


ドガガガガガガッ!


「グ、グオオオオー!」 ヒュオオオオーッ!


フロストドラゴンは凄まじい勢いと範囲の氷結のブレスを吐いた。


「極大魔力斬!」


眷属契約の恩恵に加えて氷耐性の強いセルビナはブレスを受けながら巨大な魔力の斬撃を放った。


ガキンッ! 「ギャウ!」


流石ドラゴン、かなり頑丈だ。あの斬撃を受けて血の1滴も流さないとはな。


「よし、目眩ましを頼む!」

「任せろ。やるぞイヴ!」

「分かっておる」


2人が並んで掌をドラゴンに向けた。


ん、何をするつもりだ?


「混合魔法、レッドアイスエッジ!」


大量の赤い氷の刃!?確かに雪原ならただの氷より赤い方が視界を遮り易い。それにしてもいつの間に混合魔法なんて身に付けたんだ。


「いくぞアニラ!」

「はいっ!」


「超高速竜巻回転式大杭っ!」 ドヒュンッ!!


「ギャオオオ!」


見事翼に命中。大きな穴が空いた。


ズズーン…。


これでフロストドラゴンは飛べない。


「集まれ!」


「グゥオオオオー!」 ヒュオオオオーーッ!!


「大盾っ!」


俺が防ぎ、3人が支える。そしてブレスが終わったら一斉に高火力の技をぶつける。


「今だっ!」

「ゆくぞアニラ、セルビナ!」

「はいっ!」

「ああっ!」


え、なんだ?今度は3人並んで掌を向けた。


「混合魔法、ブリザード・オブ・ブラッド!」


凍てつく乱風に血刃を混ぜて放ち続け、血刃で傷つけた傷口を凍らせ、再び血刃を当て凍った傷口を割って削り無理矢理裂傷部分を拡大させる大魔法。


それをドラゴンのブレス並みの威力で永続的に放ち、一方的に攻撃を加え続けている。


3人が魔法を止め手を下ろした時、フロストドラゴンは血塗れの朽ち果てた氷像の様な姿になっていた。なんて恐ろしい技だ。


「驚いたかミウ」

「どうでしたか?」

「なかなかの技じゃろう」

「凄い…凄いぞみんな!いつの間に習得したんだ」

「実は前々からお主が寝ておる時に3人で考えておったのじゃ」

「ぶっつけ本番だったが予想以上にうまくいったな」

「はい。磨き上げれば更に強力になりますよっ」


何が嬉しいってこの3人が協力して何かを成し遂げたという事実が嬉しい。この気持ちは抑えられそうにないな。


「3人とも最高だよ。ハグとキスしてもいいか?」


それを聞いた途端3人は目を輝かせて近寄ってきた。


「ぜひっ!」

「では年長の妾から…」

「年など関係ない、公平にジャンケンだ」

「そうですよっ」

「ふん、よかろう。勝負じゃ!」


うーん、3人が揉める原因ってやっぱり俺なのか…。


その後、セルビナ、イヴ、アニラの順番でキスと抱擁を交わした。


「さあ行くか」

「待て。そこに隠れている奴、出てこい」

「くく、随分と偉そうに言ってくれるわね。それに人間と交わるなんて恥知らずもいいところだわ」

「お前は!」


フロストドラゴンの亡骸の陰から出てきたのはセルビナと同じ魔人族の女だった。セルビナの反応からして恐らく六大凶牙、そして…。


「ミウ、奴がアギレとエウルのパーティーを襲った張本人だ。魔王六大凶牙、二の牙、檜皮のユラノ」


「くく、日課の散歩をしてたら裏切り者に会えるなんてね。直ぐにでも貴女を殺したいけど、そうもいかなそうだわ」


「分かるのか」


「ええ、貴女が連れてるお仲間達、たまに現れる雑魚の冒険者とは大違い。私1人じゃ勝ち目は無いわ」


「逃がすと思うのか」


「くく、すっかり良い子ちゃんだけど忘れてないわよね。貴女の人殺しの魔王軍だった過去は消えないのよ…真っ赤に染まった手でその人間を愛し続けれるのかしら。 魔王城、城門へ!」


そう言ってユラノは転送石を使って消えてしまった。


「…」


セルビナは俯いたまま動かない。表情も目の色も暗い。思いのほか奴の言葉が刺さったか。


俺はセルビナの傍に行き両腕を腰に回して身体を密着させた。


「セルビナ、あいつの言った通り過ちは消せない。でもお前には現在と未来がある。俺の大好きなセルビナという魔人族の『今』は人として仲間として女性として、文句無しの素晴らしいものだと思ってる。だから顔を上げて胸を張って側に居てくれ」


「ミウ…感謝する。私もお前が大好きだ」


「セルビナさん、気にする必要ないですよ」

「そうじゃ。人殺しなぞ妾の方が遥かにしておるぞ、両手どころか全身真っ赤に染まっておるわ」

「イヴさんは少し気にした方が良いと思いますよ」

「なんじゃと」

「ふふっ、2人ともありがとう。私はもう大丈夫だ」

「それじゃ行くか」

「ああ」

「うむ」

「はいっ」


それからは暗くなるか吹雪いてきたら休む様にして歩を進めた。


薪が無くなりもう火は起こせない。


途中で枯れ木を見付けて切って回収したがこの量じゃ一晩も持たない…キツいな。

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