番外②
「あれれぇ、四の牙って寝返ったんじゃなかったっけ」
「そうだぜ。俺は裏切り者が空けた椅子に座ってんだ」
「成る程ね!」
ギィギィーンッ!!
エルティーは物凄い勢いで斬りかかったがセイヌスは軽々と全ての斬撃を受け流している。
「オッサン!手伝って!」
「ウムッ」
バーセアも加わって2人で攻め始めた。
「アギレ」
「ああ。あれじゃ援護は難しいな」
下手に攻撃したら2人の邪魔になる。手は出せない。
「おい、あいつらが圧してるぞ」
「凄い…」
ズザザッ…。
「やるな。このままじゃ俺は殺されちまうな」
「よく分かってるじゃん!」
「そうであるな!」
勝機を逃すまいと2人は決めに出た。
「ウォータージェイル」
「ゴボッ!?」
「ゴボボッ!」
2人は魔人が出した大量の水に捕らわれてしまった。
私と同じ水の属性魔法か。なんて水量、しかも水圧をかけられていて動けない様子…あれでは自力で脱出するのは困難だ。このままだと2人の息が持たない…。
「ははは!こいつらは死んだな。次はお前等だ!」
「シャイニングアロー!」 バシュ!
「おっと」 キーンッ!
あいつ、アギレの光の矢を完全に見切っている。
「バブルショット!」 ボゴゴッ!
先ずは2人に酸素を与える。これで暫くは平気だろう。問題は私とアギレでこいつを倒せるかどうか。
「小賢しいな。まあいいさ、水死が長引くだけだ。行くぜっ!」
「エウル、俺が接近戦、お前が援護だ」
「了解」
アギレは曲剣を2本抜いて迎え撃った。
キィンッ!
「アクアショット!」
バチィチィ! 「ちぃ!」
よし、2発同時に当たった。このまま当て続ければ隙ができる、そしたらアギレが決めてくれる。
「味方に当てずに俺を狙うか、やるな。それなら出し惜しみは無しだ!」
ズズズズズ…!
強大な魔力を感じる。何かする気だ。
「アギレ!一度下がって!」
「おう」
「くらえ、トレントコントロール!」
ドォォォォォーーッ!!
あれは、生み出した水流を槍先で操って…まずい!勢いがどんどん増している。
「なんだありゃ!?」
「アクアシェルター!」
ザァァァーーッ!!
「ぐおっ!」
「くっ!」
私の防御魔法がまるで意味を成さなかった。なんて質量と勢い、まさに激流。魔力量も魔法技術も私とは時限が違う。
「俺の一番得意なのはさ」
「!?」
「槍術なんたぜ!」
ザクッ! 「が…!」
「アギレ!」
激流に紛れて距離を詰めていたのか。突かれたアギレの脇腹から血がボタボタと垂れている。
「とどめだ」
「ハンディフラッシュ!」
「うぉっ!?」
アギレの掌から凄まじい閃光が放たれセイヌスは両目を覆って後退りした。その隙にアギレは治癒魔法で傷を塞いでいる。
奴は強い…私達だけじゃ勝てない。
一か八か、チャンスは今しかない!
ジャキン、ガシャッ!
私の魔弓銃は連結させることが可能だ。消費魔力量は増え、射出までの時間も長くなる。でも…
「威力は跳ね上がる!グランドアクアショット!」
バァンッ! バシャーーッ!!
「へぇ、大した威力じゃねえか。魔弓使いに気を遣って外したのは残念だったがな」
「くっ」
足元がふらつく。でも倒れる訳にはいかない、まだやることが残っている。
「ふん、魔力切れか。先ずはお前を…」
ザンッ! 「ぐっ、お前!」
エルティーの剣がセイヌスの背中を切り裂いた。
「いやぁ~死ぬかと思ったよ、ねえオッサン」
「そうであるな!」
バーセアは硬化魔法をかけた拳で大振りに殴りかかった。
「そんな鈍い攻撃喰らうかよ!」
ここで逃がさないのが私の役目!
「アクアフェターズ!」
水魔法でセイヌスの足を拘束した。
「ぐっ、しまった!」
「ヌンッ!」
ボゴンッ! 「ごあっ…」
バーセアの拳がセイヌスの腹にめり込んだ。
「ぐ…おらぁ!」 ザシュッ!
「ぬぅ」
「オッサン!」
セイヌスの振った槍でバーセアは下腹部から胸にかけて斬られた。
「この程度で勝ったつもりか?なめるな人間ども!まとめて激流に呑まれろ!トレントコントロール!」
私は魔力切れ、2人は満身創痍。あとはあなただけよ。
「この程度で勝ったつもりだぜ…シューティングスター!」
バシュンッ!
ドシュ! 「がっ…!?なんだとっ」
シューティングスター、それは極限まで凝縮して殺傷能力を上げた光の塊を文字通り光速で撃ち込むアギレの切り札。発射までに時間を要するが2人のお陰で充分な時間を作ることができた。
アギレの切り札は見事にセイヌスの心臓を貫いた。
「この俺が…人間ごとき…に」
ドサッ。
「やったー!殺したー!」
「ふう、危なかったのである」
「無事かエウル」
「ええ、助かったわ」
「ちょっとエウルちゃんさぁ、脱出のためとは言え死ぬところだったよ。あんなに強い魔法当ててくるんだもん。もー身体がボロボロだよ」
「ごめんなさい、他の方法が思い付かなくて」
そう、セイヌスに悟られない様にグランドアクアショットをわざと外し、捕らわれた2人にぶつけて強引に水中から押し出した。幸いにもあのウォータージェイルという魔法が緩衝材になったお陰で2人へのダメージを減らすことができた。
「構わないのである。お陰で勝てたのだから」
「まぁそうなんだけどさぁ」
「そのうち帝都から援軍が来るはずだからここで待とう。バーセアに治癒魔法を使ったから俺も魔力切れだ」
「そうね、ゆっくり待ちましょう。そういえばあなた達2人は何故この町に来たの、帝都の冒険者や傭兵に止められたのでしょう」
「だってぐずぐずしてたら皆殺されちゃうじゃん」
「ウム、町の人々の命が最優先なのである」
「ふふっ、成る程…。問題ないわよね、アギレ」
「ああ、いいと思うぜ」
2人は訝しげに私達を見ている。
「2人に頼みがあるんだけど」
「なーにー?」
「なんであるか?」
「私達のパーティーに加わってほしい」




