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湧泉


「妾じゃ、入るぞ…ミウ?」

「ここだ」


俺に気付くとイヴもバルコニーに出て来て隣に立った。


「綺麗じゃな」


「ああ」


「不思議じゃ…長いこと生きてきたが星空や海景色なぞ気にもとめなかった。それなのに今はこうして堪能できる…。これもミウのお陰じゃな」


最後の一言は恥ずかしかったのか呟く様に言った。


そんなイヴがとても愛おしく感じて俺は後ろから抱き締めた。


「ひゃっ」

「これからも一緒に色んな景色を見ような」

「うむ…約束じゃぞ」

「ああ。約束だ」


そう言ってからイヴの体の向きを変えてキスをした。


イヴは俺の服をギュッと掴んだ。微かに震えている。


部屋の中に戻りイヴをベッドの上にゆっくり押し倒すと、イヴは赤い顔を横に向けながら言った。


「優しく…頼む…」


こんなイヴを初めて見て、堪らなく可愛いと思った。


言われた通りに俺はイヴを精一杯優しく抱いた。


「大丈夫だったか?」

「うむ、思ったより平気じゃった…それに…」

「それに?」

「な、何でもないっ」


イヴは照れ隠しに抱き付き、俺の髪を触った。


「ミウの髪は美しい…。はっ、すまぬ!嫌じゃったか?」

「全然。好きなだけ触ってくれ。その代わり…」

「なんじゃ」

「俺もイヴのこと好きなだけ触らせてもらう」

「お、お主は妾に羞恥を与えるのが趣味なのかっ」

「まあ確かに恥ずかしがってるイヴは可愛いけど…。それよりも俺は愛する人に沢山触れたいと思ってる、ただそれだけだ。おかしいか?」

「…」


暫く黙った後、イヴは俺と目をしっかり合わせた。


「おかしくなぞない…妾も沢山触れてほしいと思っておる」


そこから2回戦、3回戦目と続いた。


「う、動けぬ」


息を切らしぐったりしながらイヴはうつ伏せに倒れた。


「はは、今日はもう休もう」

「ミウよ…」

「ん?」

「妾は幸せじゃ」

「俺もだよイヴカロン」


うっ、なんだ?頬に何か…


「起きたか」

「セルビナか」


頬が少しヒリヒリする。


「…もしかしてつねったか?」

「すまない。2人が身を寄せて幸せそうに眠ってるのを見てたら妬けてしまった」


な、何だそれ可愛いな。


「セルビナと寝てた時も同じに見えてたと思うぞ」

「そうか」

「ところでアニラは」

「朝食を買いに出た」

「珍しいな。俺を起こしに来ると思ったが」

「ジャンケンで私が勝ったからな」


ああ、そういうことか。服を着て顔を洗って戻るとアニラが抱き付いてきた。


「朝食を買って参りました」

「ありがとな。偉い偉い」

「うふふ」


頭を撫でるとアニラは尻尾をブンブン振った。


イヴを起こし、皆で食事を済ませてからカウソスを発った。目指すは魔王城だ。


「先ずは森を越えないとな」

「リオス大森林じゃな」

「ああ。広大な森林地帯だ、気を付けて進まないと方角が分からなくなって死ぬまで抜け出せないぞ」

「問題ない。俺は方角には強いんだ」

「さすがミウ様っ」


カウソスを発って2日、『リオス大森林』が見えてきた。


「…」


うん、前言撤回。俺の想像を遥かに越える大きさだ。


「すまん、これは予想以上だ」

「気にするでない」

「そうですよっ。それにしても大きいですね」

「最短ルートで抜けたいな。可能かセルビナ」

「任せろ」


森に入って2日が経った。魔物はそこそこ出現するが例によってイヴが血刃魔法で瞬殺してくれる。その程度のレベルだ。夜眠る時も交代で見張りを立てれば問題ない。


それよりも身体がベトベトで気持ち悪い、靴も泥だらけだ。


「風呂が恋しいな」

「確かに」

「そうじゃな」

「拭き布だけではすっきりしませんよね」

「なあアニラ、俺の体、臭くないか?」

「少し臭いますがお気になさらず。4人とも同様なので」

「なにっ」

「なんじゃと」


セルビナとイヴは慌てて自分の体をにおってから不快そうな顔をした。そんな言動すら可愛い。


「川か泉でもあればな」

「試してみるか」


そう言ってセルビナは地面に手をついて目を閉じた。これは…探知魔法か。


「…10時の方向に何かある…大きさからして沼か池か泉だ」

「沼と池は御免だな。ルートからどれくらい外れるんだ」

「距離はそれ程遠くない。ここに目印を残すから最短ルートへの復帰も容易だ」

「よし、駄目元で見に行ってみるか」

「うむ」

「はいっ」

「分かった」


パキキキキキ…。


でかいな。高さ20mくらいの氷の塔か…成る程これなら確実に迷わず最短ルートに戻れる。


暫く進むと開けた場所に出た。


「なっ」

「これは美景だな」

「ほう」

「うわぁ、綺麗ですね」


そこに在ったのは遺跡の残骸に囲まれた神秘的な泉だった。水は見た感じ澄んでいてとても綺麗だが…。


イヴが泉に片手を入れて目を閉じた。


「ふむ、毒性は無いようじゃのう」

「分かるのか?」

「簡単な解析魔法じゃ。まあ人体に害は無さそうじゃが念のため飲むのは止めておいた方がよいかもしれぬ」

「ええっ、美味しそうな水ですけど」

「水なら水筒にまだ充分残ってる。我慢しろアニラ」

「分かりました」

「助かったよイヴ。じゃあ身体を洗うだけにしておこう。俺が向こうで泉を背にして見張ってるから先に3人で洗ってくれ」

「うむ」

「分かった」

「アニラはミウ様と一緒でも…」

「ならぬ」

「駄目だ」


そう言って2人はアニラを泉へ連れて行った。


俺は一番高い遺跡の残骸に登り、泉を背にして座って見張っていた。30分くらい経ち、アニラが登ってきた。


「ミウ様、お待たせしました。交代致します」

「ん、この香りは?」

「故郷で買っておいたカモミールの石鹸でございます。いかがでしょうか」

「とても良い香りだ。俺も使いたい」

「よかったです。拭き布と一緒に置いてあるのでどうぞお使い下さい」

「ありがとう。見張りよろしく頼む」

「お任せ下さいっ」


そうして俺は泉に浸かりながら身体を隅々まで洗った。ああさっぱりした。気分爽快だ。


「せっかく身体を清めたんだ。今日はもう進むのはやめてここでゆっくり休もう。セルビナ、目印の氷は溶けてしまいそうか?」

「このくらいの気温なら一晩では溶けないから大丈夫だ」

「では野営の準備じゃな」

「ここは広いですし、カウソスで購入した組立式天幕を出しますか?」

「そうだな、使ってみよう」


火を起こしてテントを組み立て、寝床を作った。


汚れた肌着は全て血刃シュレッダーにかけて燃やした。


さて、次は食事だな。

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