変化②
俺が墓から出てきて1年が過ぎた。
今日も日課のストレス発散しにこっそり村の外れに来ていた。まあストレスなんてほぼ無いけど。
この世界の剣術はよく分からないが、地面に固定して立てた丸太を手製の棍棒で好き放題に叩くのは気持ちが良かった。
「ぎゃーーっ!!」
俺は飛び起きた。丸太を叩き疲れたので寝転がってたらそのまま眠っていた様だ。
それより今のは悲鳴か?
急いで村に戻ると断末魔の叫びが絶えず聞こえてきた。
「あ、ああ…」
頭が真っ白になった。血だらけの村人があちこちに倒れている。声をかけても反応がない、死んでいる…女性も子供も皆…吐き気がして俺はその場で膝を付き嘔吐した。
一体何が起きているんだ。
「やめてくれっ!」
「ぐああー!」
「きゃーっ!!」
向こうから聞こえてくる。そうだ、ミウの、俺の家族は…
ガクガク震える足を拳で叩きながら家に向かった。
もう誰の悲鳴も聞こえない。
「ああ…」
嘘だ、こんなの。
あそこに倒れているのはミウの両親だ。そして…
「あん?」
リオの体に金棒の様な物を突き立てながらそいつは俺を見た。
「ついてるぜ。祠の場所を聞くの忘れちまってよ、生き残りが居て助かったぜ」
俺より一回り身体の大きなそいつは明らかに人間ではなかった。
あの湾曲した黒い角。限りなく人間に近い魔物、魔人族だ。
「怯えてるとこわりいんだけどこの辺りに祠があるだろ。案内してくれねえかな。本来なら皆殺しだが、案内してくれたらお前は見逃してやるよ。断るんならこいつらと同じようになるだけだ」
そう言って魔人は俺を睨み付けた。
怒り狂って襲い掛かるなんてことはなく、身体の震えと涙が止まらなかった。
また吐きそうだ。
魔人がゆっくり近付いて来た。
「ほらさっさと決めろ。こちとら暇じゃねえんだよ」
ボゴォ。
「ぐあっ」
魔人の爪先が俺の腹に食い込んだ。蹴られたのだ。
衝撃と激痛が走り、膝が折れて再び嘔吐した。
もたもたしているとまた何かされるかもしれない、俺は何とかよろよろと立ち上がった。
「あ、案内します」と言って祠に向かった。
腹が痛い。足が震えて上手く歩けない、顎も震えてガチガチと歯を鳴らし涙も止まらない。こんな恐怖、生まれて初めてだ。
祠に着くと魔人は躊躇い無く中に入って行き、暫くすると「おおー!あったあった。これで褒めて頂けるぜ」と聞こえてきて禍々しい古びた短剣を持って出て来た。
「あん?お前まだ居たのか。恐くて動けないならさっきの所まで連れて行ってやるよ。今の俺は機嫌が良いんだ」
俺の腕を掴み引き刷りながら魔人は鼻歌を歌っていた。乱暴に投げられ四つん這いになって顔を上げると、目の前にはリオの亡骸が在った。
次の瞬間、俺の中で何かが目を覚ました気がした。
「うぁーーっ!!」
俺は立ち上がり魔人に襲い掛かった。
「あん?仕方ねえな」
魔人は金棒を構えた。
俺は奴の金棒目掛けて持っていた棍棒を振った。
バキィッ!! 「なっ!?」
物凄い音を立てて魔人の金棒が粉々に砕け散った。
俺は両手で棍棒を握りしめ高く振り上げてから、思い切り魔人の頭を狙って振り下ろした。
魔人は両腕を交差させて防ぐ体制をとったがボキボキと音を立てて奴の防御を容易く破壊し、俺の棍棒は魔人の頭をかち割った。
うつ伏せで倒れた相手を何度も殴りつけた。
息が上がり苦しくなったので手を止めると、魔人は血溜まりの中でピクリともしなかった。