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依頼②


ギルドの扉を開けると物騒な獣人達は会話を中断して一斉に俺達を見た。


警戒、威圧、痺れる様な視線ばかりだ。


しかし2人は我関せず。セルビナはクールに正面だけを見ている。イヴなんて口を手で覆いながらあくびしてる…まだ寝足りないのか。相変わらず肝が据わってるお嬢様方だ。


ギルド職員の獣人が近寄って来た。


「よぉ、あんた達ランクは何だ」


「全員Aだ」


セルビナの切り捨てる様な一言で場の空気が変わった。冒険者達がざわざわし始めた。


「こ、これは失礼しました。あのぅ、宜しければ是非ともお願いしたいクエストがあるのですが…ここの冒険者には荷が重くて」


態度と言葉遣いが一変してる。


「敬語は止してくれ。取り敢えず話を聞こう」


「お、俺達を見下さないのか?」


別の獣人が恐る恐るそう言った。


そういや偏見やら差別やらあるんだっけ、くだらないな。


「俺の仲間には獣人が居るし、そもそも見下す理由が無い」


この言葉でギルド内はアウェイからホームみたいな雰囲気に変化した。こうなったら仕方ない。


「交友の証として全員に一杯奢らせてくれ!」


俺の一言でギルド内が歓喜で溢れた。


「全くお主は」

「ふっ、ミウらしいな」


その後、件の荷が重いクエストの詳細を聞いた。


近頃魔物がレクテ近郊に現れる様になり、調査したところ未踏破のダンジョンから魔物が溢れ出ているらしい。


要は俺達にそのダンジョンの攻略を頼みたいという話だ。


最深部に居るボスを討伐すれば魔物は湧かなくなるが既に何組ものBランク冒険者のパーティーが挑み、誰一人として戻っていないらしい。


多額の報酬を約束すると言われたが、俺はお金なんかより人生初のダンジョン攻略が楽しみで仕方なかった。


「アニラはどうするんだ」

「10年ぶりの故郷だ。少しでも長く家族と過ごさせたい」

「そうじゃな。だがその優しさはあやつにとっては喜びにはならんぞ」

「そうなのか」

「セルビナよ、もし自分の知らぬ間に3人で迷宮攻略に行っていたと聞かされたらどう思う」

「そうだな…きっと怒りと哀しみが込み上げてくる」

「そういうことじゃ」

「待て待て。10年ぶりって部分を忘れるなよ、しかも状況が複雑なんだ。アニラはただ単に家を出た訳じゃない、拐われて奴隷にされていたんだ」

「ミウよ、アニラにとってお主は家族以上に特別な存在だと言ったじゃろ。声くらいは掛けてやったらどうじゃ」

「うーん…。そうだな、わかった。イヴは優しいな、セルビナの気遣いもアニラを想った優しさだよな」


俺は2人の手を握った。


「2人とも惚れ直したよ…アニラの所に行こう」


イヴとセルビナは照れながらも快く返事をしてくれた。


アニラの家が見えてきたその時、中から白い影が飛び出した。


「ミウ様!」

「ぐわっ」


飛び付かれた俺は尻餅をついた。


「貴様、どれだけ鼻が利くのじゃ」

「えっ、この距離で分かるのか」

「もちろんでございます…ミウ様に限りますが。ところでルダンさんとは会いましたか」

「ああ。4人の武具を注文して2週間後に完成予定だ」

「それは楽しみですねっ。そういえば今日はどうされたんですか?」

「妾達は迷宮攻略を引き受けたのじゃが、別行動中とは言えアニラも誘ってみようとミウが言い出してな」

「へっ?おいイヴ…」

「ああミウ様、そのお気持ちだけでアニラは今日も幸せでございます」

「こら、いつまで抱き着いておるのだ。離れんか」

「無理にとは言わないが、どうするアニラ」

「もちろんご一緒します。アニラは『クローバー』の一員なのですから」

「分かった。出発は明日の朝だ。アニラの分も準備しておくから安心してご両親とゆっくり過ごしてくれ」

「ミウ様、なんてお優しいっ」

「おい、そろそろ離れろ」


まずい、イヴもセルビナもだいぶ不機嫌になってる。


「そ、そういえばアニラ、ご両親とはちゃんと話し合えたのか」

「はい…酷く落ち込んでいましたがミウ様が独り身の人間と知って幾分か安堵していました」

「ん?どうして俺が独り身の人間だと安心するんだ?」「子孫繁栄に適しているからです」

「えっ?」

「ミウ、まさか知らないのか」

「教えてくれ」

「人間と他種族との間に子を儲けた場合、容姿や体格以外の人間の部分は殆ど受け継がれないのだ。仮にミウがアニラと子を作ればほぼ純粋な白狐の獣人が産まれる、ゆえに希少な獣人種を絶やさずに済む…それがアニラの両親が安心した理由だ」

「成る程な…って俺と子作りする前提になってるけど」

「まだ先のお話ですが、いずれはお願い致します…。でも、アニラはいつでもミウ様を受け入れられますので遠慮せず仰って下さいね」

「あ、ああ」

「んんっ!」


まずい、イヴがご立腹だ。


「私だっていつでも受け入れられるぞ」


いやセルビナ、そんなこと言ったら…


「わ、妾だって!」


ほらこうなる。俺としては嬉しいんだが…どうしたものか。


「皆の気持ちは分かった、ありがとな。さあ明日に備えて買い物に行こう。じゃあアニラ、また明日…」

「お待ち下さいミウ様」

「どうした」

「セルビナさん達と添い寝されてるんですよね。昨晩も…そして今夜も明日も。それって不公平ではありませんか」

「まあ、確かにそうなるな」

「抱き締めて下さいませ」


か、可愛い。アニラお得意の甘えん坊フェイスだ。埋め合わせか…確かにそれは大事なことだな。俺は黙ってアニラを抱き締めた。


「ミウ様の匂い、とても落ち着きます。明日の朝、宿に行きますね」

「ああ。道中気を付けてな」


ギュウウウ……。いたたたた、アニラの抱き締める力が増した。


「ずるいです、そんな優しい御言葉を掛けられたら離れたくありませんっ」

「もう充分じゃろ、離れんか」

「そうだ、離れろアニラ」


こ、怖い。嫌がるアニラをどうにか引き剥がし、俺達は別れた。


「どれくらいの規模のダンジョンか分からないから水分と食料は多めに持って行った方がいいな」

「そうじゃな。生き残りがおらぬゆえに情報が無い…長期戦も考慮して備えるべきじゃ」

「灯火魔法があるが念のためカンテラと石油も持参しよう」

「そうだな」


灯火魔法は先程ギルドに行く途中に寄った魔導書店で手に入れた。名前の通り灯火を生み出せる便利な一般魔法だ。今まで入った魔導書店には置いてなかった物なので人数分即購入した。


それにしても楽しみだ、まるで子供の頃の遠足前の気分だ。何といっても人生初のダンジョンだからな。今日は早めに食事を済ませて寝よう。


その晩、明かりを消して川の字になって寝てるとセルビナが真面目な口調で変なことを言い出した。


「なあミウ、においを嗅いでもいいか」

「どうしたんだ急に」

「アニラが言ってただろう。私も嗅いでみたいのだ」

「妾も嗅ぐぞ、それが平等と言うものじゃ」

「構わないが…あんまり期待するなよ」


2人はアニラを真似て俺の首筋に顔を近付けクンクンと鼻を鳴らした。


「これは…上手く説明できないがとても好きな匂いだ」

「同感じゃ。ミウは不思議な香りを漂わせてるのう」

「そうか?自分では分からないが。体臭なのかな…」


くっ…そろそろ離れてくれ。2人の身体が触れるだけでスイッチが入りそうだ。


「イヴ、頼む」

「分かっておる」

「催眠魔法がないと眠れないのか?」

「そういう訳ではないんだが…うーん」

「お主が眠った後に妾がセルビナに説明してやろう」

「助かるよ。それとイヴ、今日は俺の顔を立ててくれてありがとな」

「妾とお主の仲であろう、気にするな」

「感謝してるよ。2人ともおやすみ」

「うむ」

「お、おやすみ」


ぎこちないセルビナの「おやすみ」は普通に可愛かった。


それにしても毎晩催眠魔法をかけてもらわないといけない環境を変えるのもこれからの課題だな。


お、早速眠くなってきた。

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