試練②
「漸く着いたのう」
「そうだな。先ずは宿を探そう」
馭者のおっさんは俺達が乗る船の手配とその船に荷を積んでお役御免となった。礼を言ってチップを渡した。
手頃の宿で部屋を取り荷物を置いた。無駄な出費は避けようとイヴが言って1部屋に皆で寝ることにした。狭くはないけど…大丈夫かな。
船が出るのは明朝。それまではカウソスの観光でもするか…その前に。
「身体が鈍ってる。少し組み手に付き合ってくれ」
「よい案じゃ。受けて立とう」
「私も頼む」
「アニラもお願いします。相手はイヴさんで」
「何故じゃ、ミウがよいのではないのか」
「ミウ様に振るう拳は持ち合わせておりません」
「貴様…よいだろう、望むところじゃ」
「セルビナは俺とだ。問題ないか」
「構わない。向こうに開けた場所があった、行こう」
4人で町外れの空き地に来た。流石に町中で武器を振り回すのは危険だ。特にあの2人が。
「よし、妾達が先じゃ。よいなアニラ」
「もちろんです。いつでもどうぞ」
はは、殺し合わない…よな。なんか殺気を感じるけど。
「ブラッドソード」
シャキン。
いつもより魔力純度の低い小振りの剣だな。
「ゆくぞっ」
「はいっ」
そこから2人はほぼ闘志剥き出しの激しい打ち合いを繰り広げたので途中で止めた。本気じゃないとは言え勘弁してくれ。
俺とセルビナは刀で体術重視の立ち回りで軽く手合わせした。
「良い運動になったな。これから町を観光するけど、皆で行くか?」
「当然じゃ」
「当たり前だ」
「行きましょうっ」
例によってアニラが腕に引っ付いてきた。む、胸が。
それにしても流石港町、市場は新鮮な海の幸で溢れている。晩ご飯が楽しみだ。店も今のうちに決めておくか。
「ミウ様あれを見て下さい、綺麗ですね」
貝殻を使った装飾品か。色鮮やかで模様は色んな個性で溢れてる。
「お揃いで何か買おうか」
「買いましょうっ」
「ミウ、当然4人でお揃いという意味で間違いないな」
「あ、ああ。当然だろ」
恐いぞセルビナ。イヴの視線も恐ろしい。
それから俺達は時間を掛けて選び、虹模様の貝殻のストラップ的なやつをお揃いで買った。
「背負い袋に着けましょう、はぐれた時の目印になります」
「名案だ」
「そうだな」
「美しいのう」
装飾品を見てうっとりしてるガールズは今日も可愛い。
それから夕食をどこで食べるか決めて宿に戻った。
「毛布を敷いて横に並んで寝るんだよな」
「はい、ミウ様のお隣は…」
「公平にジャンケンじゃな。のうセルビナ」
「そうだな。気の毒だが1人はミウの隣で寝れない」
ああ、そういうことか。因みにジャンケンは俺が教えた。ガールズはなにかと揉めるからな。
「ジャンケン…ポンッ!」
「むう…」
「決まりですねっ」
「残念だったなイヴ」
敗北したイヴはそれから分かりやすくテンションが下がり、口数が減ってしまった。
「イヴ、食料を買い足しておきたい。買い出しに行こう」
「それならアニラもっ」
「ごめんなアニラ。じゃんけんで負けてしまったイヴと行かせてくれ」
「仕方ないな。私達はミウの隣で寝れるんだ。我慢しろアニラ」
「うう…」
「ふふふ、そういうことじゃ。さっさとゆくぞミウ」
えらい変わりようだな。
「分かった分かった」
本当は食料は足りてるけどあんな顔されたら放っておけないからな。
「イヴ、買い物はすぐに終わる。もっと近くで海を見たいから海沿いのベンチに行こう」
「うむ、よかろう」
すっかり元気そうで何よりだ。
2人でベンチに座り広大な海と青空を眺めた。海風と波の音が心地好い。無言でもガールズとなら全く苦にならない。気遣いは不要だし居心地が良いからな。
「ミウ、礼を言うぞ。その…誘ってくれたこと」
「気にするな。あれだと不公平だからな。俺は3人を平等に特別扱いしたい」
「全く、お主は欲深だな」
笑みを浮かべたイヴの端整な横顔を見て俺は改めて思った。
「好きだ」
「な!?ななっ、なんじゃいきなり」
まずい、また口に出してしまった。
「あはは、まあ…言える時に言っておこうと思ってさ」
「そ、そうか…確かにそうかもしれぬな…。ゴホン、妾もお主を好いておる。この先何があろうとも」
俺は自分から言い出したくせに恥ずかしくなった。でもその言葉が純粋に嬉しくてイヴの手を握った。
「嬉しいよイヴ、ありがとな」
「うむ。そ、そろそろ買い物にゆこうかのう」
「そうだな」
それから俺達は手を繋いだまま市場を回った。
買い物を済ませ、宿に戻ると2人はバルコニーに居た。
「ただいま」
「お帰りなさいませ」
「お、おかえり…」
おお、セルビナがおかえりって言ってくれた!あのクールなセルビナが。何だか新鮮だな。
「なにを見ておるミウ」
「そうですよ、セルビナさんばかりではなくアニラも見て下さい」
「ああ、そうだな…。2人で海を眺めてたのか?」
「はい、こんな綺麗な景色、いつまでも見てられますねって話していたんです」
「今日は天気も良いしな」
それから暫く4人で並んで海を眺めた。日が暮れてから晩ご飯を食べに出掛けた。
いわゆる海鮮料理ってやつを俺達は鱈腹食べた。
「美味しかったですね」
「ああ、毎日でも食べれるな」
「でしたら是非とも故郷の海の幸も味わってほしいです」
「そうだな。楽しみにしてるよ」
「はぁ、なんだか飲み過ぎてしまいました」
そう言ってアニラはぴったり密着して俺の腕に胸を押し付けてきた。
「嘘だな。お前は簡単には酔わない」
「そうじゃ。離れんかアニラ」
「ミウ様、アニラにくっつかれたら迷惑でしょうか」
う、この上目遣い…甘えん坊フェイス。ずるいぞアニラ。
「迷惑な訳ないだろ」
「ミウ、甘やかすな」
「そうじゃ。お主はアニラに甘過ぎる」
「イヴ、忘れたのか。俺は3人を平等に特別扱いする」
「妾とセルビナにも何かしてくれるということか?」
「当然だ。片寄った分、必ず埋め合わせる。アニラもそれで構わないよな」
「もちろんです。元よりミウ様を独り占めしようなどとは思っていませんので」
「よしよし、アニラはいい子だな」
「うふふっ」
頭を撫でるとアニラは尻尾をブンブン振って更に胸を押し当ててきた。おいおい勘弁してくれ。ただでさえ今夜乗り切れるか不安なんだ。
そして就寝時間になり、いよいよアニラとセルビナを両隣に寝る時がきた。俺、理性保てるのかな。




