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和解


「皆の者、今宵は冒険者ミウ達のダイヤモンドドラゴン討伐、採掘場の解放という偉業を讃え存分に祝おうぞ。グラスを掲げよ!」


全員が使用人に渡されたグラスを掲げた。


「乾杯!」


「乾杯っ!!!」


そこからはワイワイガヤガヤ賑やかに飲食を楽しんだ。


俺は王の元へ独りで行き、2人きりで話す時間を設けた。


「護衛は要らん。ミウ、場所を変えるぞ」

「ああ、助かるよ」


近衛騎士に睨まれたが全然気にならない、今やこの国での俺の存在は身分や立場なんて気にする必要が無いほど大きいのだから。


「この部屋なら静かだ」


「すまないな。なるべく早く広間に戻れる様に要件を済ませる」


「うむ、遠慮せず言うがよい」


「頼み事が幾つか有る。先ずは俺達の偉業を王都内で大々的に広めてほしい。2つ目はミゥーズ傭兵団専属の食材の調達と配達をしてくれる商人と住み込みで働いてくれる屋敷の使用人を募集してもらいたい。最後にダイヤモンドドラゴンの素材を一部頂きたい」


「ふむ…相分かった。明日の正午に城門前の広場に市民を集め、そなたの偉業を公表しよう。商人と使用人募集の件も公表の際に伝える。それに加えて騎士団に募集用紙を持たせギルドや比較的大きな店に配らせよう。ダイヤモンドドラゴンの素材は直接必要な分を取って行くとよい」


「話が早くて助かるよ。よろしく頼む」


「これくらいは大したことではない。また何か入り用があれば遠慮せず申せ」


そう言って王は握手を求めてきた。


「本当に感謝する。王様も何かあったらまた言ってくれ。可能な限り力になるよ」


俺達は力強い握手を交わした。


そして直ぐに大広間に戻った。


「どうじゃった」

「想像以上の対応に感動したよ。今度ダイヤモンドドラゴンの素材を貰いに一緒に来てくれ。俺はどの部位が必要とか分からないからな」

「うむ、任せよ」

「私も行こう」

「アニラも行きます」

「よし、じゃあ皆で行くぞ。ところであれだけ硬かった部位を外せるものなのか?」

「絶命した時点であやつの体表の魔力は消えておるし、死体相手ならゆっくり的確に鱗の隙間に刃を通せるから問題なかろう」

「それを聞いて安心した。じゃあ後は楽しむだけだな」


そうして存分に飲み食いしながら王都騎士団とミゥーズ傭兵団を労ったりした。


騎士団と傭兵団は混ざり合って仲間の様に酒を交わしていた。


前世の俺は大勢で飲みに行くのが大の苦手だったが、アニラとレリスが両腕に抱き付いているお陰で楽しむことができた。


セルビナとイヴとダレアとポルメネは少し離れた窓際で静かに飲食を楽しんでいる。あれはあれで画になるな。


ルムリスは両親と居たが頻繁にこちらを窺っていた。レリスが気になるのかな。


「こらレリス、お酒は駄目ですよ」

「えー、もう少しで18歳だから良いじゃないですか!」

「いけません。親御さんがいらっしゃるんですからっ」


そういえばこの世界ではお酒は18歳からだっけ。捕まる訳じゃあるまいし飲んでも大丈夫だと思うけどな。


そんな感じで夜遅くまで祝賀会は続いた。


途中で王と近衛騎士数名、山猫一家は帰った。


「俺はそろそろ寝たいから戻るけど皆どうする」

「妾も共に戻ろう」

「アニラも」

「私もだ」

「部下達を置いては帰れないので私は残ります」

「そうか。ポルメネ、お前は帰って休め。疲れてるだろ」

「全然平気です」

「強がりおって。疲労が顔に出ておるわ」

「そうだな。無理をせずにもう休め」

「そうですよポルメネさん」

「本当に平気なので」

「頑固だな。ダレア、後を頼む。ポルメネは連れて帰る」

「はい。お願いいたします」

「いえ、私は…」

「イヴ」

「分かっておる」


イヴがポルメネの額に掌をかざすとポルメネは糸が切れた様に倒れたのでお姫様抱っこした。


「催眠魔法ですか」

「うむ、こうでもせんと帰らんじゃろ。それにこれ程容易に術に掛かるということはやはり疲労が溜まっている証拠じゃ」

「なるほどな。屋敷までは遠い、今日は俺達の部屋で寝かせよう」


ポルメネを背負って宿に戻り俺とセルビナの部屋まで運んでベッドに寝かせた。


「狭いかもしれないが今日だけ我慢してくれ」

「問題ない。では寝るぞ」

「ああ。お休み」


明かりを消して俺達も眠りに就いた。


何か気配を感じて目を覚ますと、側にポルメネが座っていた。


外はまだ暗いが月明かりでなんとか顔が見える。


ポルメネは小声で話し始めた。


「すみません、起こしてしまって…」

「気にするな。どうした」

「ボスにも姉さん達にも気を遣わせてしまって申し訳ないです」

「そんなに謝るな。お前は悪くない…がもう少し頭を軟らかくした方が良いかもな」

「…努力します」

「無理に変われとは言わない。自分らしさも大事だ、ポルメネのペースでやってみろ」

「はい、ボス」

「朝まで長い。ベッド戻れ…」

「あの、ボス」

「なんだ」

「私、やっぱりボスのことが好きです。お休みなさい」


そう言ってからポルメネは素早く俺の頬にキスをしてベッドに戻った。


「…」


参ったな、普通に可愛い。それに純粋に嬉しかった。


それから半年で俺達は旅に出る準備をした。


先ずは屋敷の完成。綺麗に内装されて家具も揃い、念願の浴場も完備されている。


俺達は遂に宿暮らしを卒業した。


王の協力で商人も使用人も数名雇うことができた。俺達は王都アルディアではすっかり英雄扱いなので応募者が殺到してしまい、選ぶのに苦労した。


毎日の鍛練も怠ることはなく、長旅に必要な物も思い付く限り全て買い揃えた。


そして武具の原料となるダイヤモンドドラゴンの素材…鱗、角、牙、爪を手に入れた。流石に持っては歩けないので港町カウソスまでは王が手配してくれた荷馬車で行くことにした。


そんなこんなでいよいよ出発の日が近い。


屋敷暮らしになって先ず困ったのは夜にガールズの寝かし就けに行くことだ。決して嫌な訳ではないがうっかり先に寝てしまうとまあ怒られる。


3人が俺の部屋に来て寝ていた日もあった。


俺の部屋は個室の中でも少し広い方なのでベッドはセミダブルで大きめのソファも置いてある。


俺が寝かし就けるのを忘れて寝ていると部屋に来た3人が誰がソファで誰がベッドで寝るかを揉めていて起きたことがあった。


それとあれから数週間後にアギレとパーティーメンバーの女の子、『水撃手エウル』の2人が謝罪しにわざわざ屋敷に来た時は驚いた。


しっかり頭を冷やした様で随分と反省と後悔をしていて何度も何度も謝られた。改めて話すと普通に良い奴らだったので俺は気にするなと全力でフォローし、ガールズにも許してやる様に頼んだ。


何でも2人は魔王討伐にもう一度挑むとか。先ずは『リュギアロマ帝国』の『帝都リントゴス』で仲間を募るらしい。先日2人が発った際にガールズと見送った。


「じゃあなミウさん、また会った時は酒でも飲みながらお互いの冒険話をしようぜ」


「ああ。楽しみにしてるよ」


「あの、ミウさん達にこれを。旅の御守りです。身に付けていると運が上昇すると言われていて、私達も持っているんです」


「おお、ありがとうエウル」

「ありがとうございます」

「感謝する」

「すまぬな…何じゃミウ」

「いや、何でもない」


イヴは変わった。何と言うかとても人間らしくなった気がする。そんなイヴを見ていると素直に嬉しい。でも人間らしくなったな、なんて言ったら失礼だから口にはしない。


「じゃあ2人とも気を付けてな」

「ああ。ミウさん達もな」

「皆さんどうかお元気で」


俺は2人の旅の無事を祈りながら手を振った。


そして23歳になった俺は遂に王都アルディアを出る日を迎えた。

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