嫌悪
外に出て露店でフルーツジュースを買って飲んでいると、どう見ても髪や尻尾が濡れたままのアニラが走って出て来た。
しかも薄着から肩が出ていて色っぽい。2人きりなら未だしも公共の場ではやめてほしいな。
「ミウ様、アニラにも一口いただけますか」
「飲みかけだぞ。新しいの買うか?」
「いいえ、ミウ様のお口が触れた物がよいのです」
「別に構わないけど…それよりアニラ、ちゃんと髪の毛と尻尾拭かなかっただろ。綺麗な肩も出てるし」
そう言いながらはだけた部分を整えるとアニラは嬉しそうに照れた。
「綺麗だなんてっ」
「ほら拭き布貸して」
アニラからこの世界のタオル的な物を取り、頭をわしゃわしゃ拭いた。
「ありがとうございます。アニラは今日も幸せでございま…んっ♡」
「えっ!?」
尻尾を布で包んで拭いた瞬間、アニラはとんでもない声を出した。え、尻尾って性感帯か何かなのか?
「あ、あのミウ様、尻尾は自分で拭きます…」
少し息を荒くさせながらアニラは自分で真っ白いもふもふの尻尾を拭き始めた。
色っぽいと言うか最早官能的だな。
暫くするとイヴとセルビナが出て来た。
「アニラ、ミウと2人きりになる為にあんなに急いでたのか」
「全く、風呂くらいゆっくり入らんか」
「何のことでしょう」
惚ける様にそう言ってアニラは俺の腕を抱き締めた。む、胸が…薄着だからいつもより感触が凄い。
「お前がミウか」
気付くと冒険者風の青年が側に立っていた。隣には同じく冒険者風の小柄な女の子が立っている。
2人とも明らかに俺達を敵視してるって感じだな。
「そうだけど」
「俺の名は流星のアギレ。後ろの女どもが魔人やら吸血鬼やらか」
ん?二つ名が有るのってAランク以上だったはず…そういえばよく見ると2人とも服も体も汚れてるな。荷物も脇に置いてあるしクエスト帰りか?
「何か問題あるのか」
「ああ、問題大有りだ。獣人奴隷、吸血鬼、魔王の手先とつるんでやりたい放題って聞いて放っておけるか…うっ!?」
急にアギレとやらが身構え隣の女の子は後退りした。
この溢れ出す殺気は…
「こやつ等は殺してもよいか」
「逆に殺さない理由はあるのか」
「ないと思いますよ」
何て物騒なパーティーメンバーだ。
うちのガールズは殺る気満々になっていた。
「3人とも落ち着け。おいアギレとやら、挑発は省いて要点だけ言ってくれ」
「ちっ、いいだろう。俺達は元々5人パーティーで全員がAランク冒険者だった。2ヶ月程前から魔王討伐の為に旅をしていたが、道程は険しく過酷を極め、何より北の魔物どもが予想以上の強さだった。結局『魔国デスピア』にも辿り着けなかった…『ブデオン大雪原』に入ってすぐに魔王六大凶牙の二の牙が現れたからな。俺達は手も足も出ず、勝てないと悟ったリーダーを含めた3人の仲間が1番若い俺達2人を逃がす為に犠牲になった。その魔人は凶悪な魔物を大量に解き放ち俺達を追わせた。その後、死に物狂いで何日も休まず逃げ続け何とか切り抜けて命からがら王都に戻ってきてみれば、最近活躍してる冒険者の仲間に魔王六大凶牙が居るだと?ふざけるな。危険なお前等は俺が今殺す」
な、長い…想像以上に喋るなこいつ。
「成る程のう。ミウ、ルムリス達が言っておった最近魔物が活発なのはこやつ等が放たれた魔物を引き連れて逃げ帰ったのが原因じゃ。恐らく道中の他の魔物も活性化されたのじゃろう」
「黙れ!俺達は死ぬところだったんだ!仲間が身を挺して守ったこの命、無駄にはできん!」
「お前達よりランクの低い冒険者、騎士、傭兵や一般人に被害が出てることを何とも思わないのか」
「お前はそんなこと言える立場じゃないんだ魔人族!口を出すな魔王の手先め!」
「はぁ…アギレ以外全員下がれ」
「ミウ様!?」
「何故じゃ!」
「ミウ、私は…」
「セルビナ、気にすることは何も無い。今のあいつに必要なのは捌け口だ。仲間を失い必死で逃げ帰ったら今度は自分達のせいで大勢の人達に被害が出ている。行き場の無い憎しみ、悲しみ、罪悪感を俺達にぶつけることにしたんだろ。とにかく皆下がれ」
何か言いたそうだけど3人とも下がってくれた。あとでちゃんと埋め合わせしよう。
「おい、この俺に1人で挑むのか。仲間の化け物どもに助けを求めても良いんだぞ」
「分かったからさっさとかかって来い」
「てめぇ、ぶっ殺す!」 ジャキン!
あれは弓?弦と矢が魔力でできている。魔導武器ってやつか、初めて見た。
「シャイニングアロー!」 バシュシュッ!
属性魔法か!?
アギレは速い上に追尾機能付きの光の矢を放ってきた。
キキィーン!
避けきれなさそうだから部分防御で弾いた。
「まだまだ!スパークルレイン!」
バシュシュシュシュ…!
光の矢の雨だ。街中だからちゃんと範囲を絞っている、なかなかやるな。
全身鎧で全て防いで距離を詰める。
「行くぞ、物干し竿!」
「!?」
アギレは危険を察知して弓をしまい腰の曲剣を2本抜いて自身に強化魔法をかけた。流石Aランクの実力者だ。
ガァキンッ!
だが間合いは見切れなかったらしい、なるべくモーションを抑えて振った俺の物干し竿をちゃんと防ぐことは出来なかった。
「ぐっ、何だと」
ガードが崩れた所に「玉っ!」 ドゴォッ。
「ぐふっ…この!」
バチンッ! 「がふっ」
物干し竿を納め、態勢を立て直して斬りかかって来たアギレの頬を思い切りビンタした。
尻もちを着いたアギレの胸ぐらを掴み無理矢理立たせてもう1発。 バチン!
「がっ…」 ドサッ。
もう1度胸ぐらを掴んだところで大きな魔力を感じた。
「アクアショット!」
「フリーズミスト」 パキキキ…!
連れの女の子が俺に水魔法を放った瞬間、セルビナが出て来て全弾凍らせた。
よりによって水の属性魔法とは相性が悪くて気の毒だな。
「くっ、おのれ氷凍魔法とは…。痛っ!」
アニラが女の子の背後を取り、両腕を掴み拘束した。
この2人、ろくに休みもせず消耗してる状態で俺達に喧嘩を仕掛けてきたな、恐らく実力の半分くらいしか出せていない…正直言って相手にならない。
「ぐ…くそがっ」 シャキンッ。
ドガッ! 「ぐおっ…」
アギレが立ち上がって曲剣を構えたので容赦なく前蹴りをくらわせて倒した。




