愕然
翌朝、朝食後に装備や荷物の確認を済ませてアルディアを出た。目指すは南西にあるロックドラゴンの住みかになってる巨大な岩山だ。
歩きで半日だからのんびり進んで野営して明日討伐すれば良い。無理は禁物だ。
アニラはべったりくっついて尻尾を振っている。何故こんなに緊張感が無いかと言うと、魔物が現れてもイヴが血刃魔法で瞬殺してしまうからだ。まるで埃でも払うように。快適過ぎてこれじゃただのハイキングだな。
「イヴ、次は私に斬らせろ」
「うむ」
「セルビナの次は俺だ。体が鈍ってきた」
「ミウ様の次はアニラです」
しかしワイルドウルフかゴブリンか小ぶりな鳥の魔物しか出ない。これじゃあウォーミングアップには不十分だな。
それから数時間、休憩を挟みつつ街道を歩いていると遠くに岩山が見えてきた。
「件の岩山が見えてきたぞ」
「おお、でかいな。距離感が分からなくなりそうだ。もう少し進んだら今日は休むか」
「そうじゃな。暗くなる前に野営の準備をした方がよい」
それから暫く歩いてから進むのをやめ、街道から少し外れた場所で野営の準備を始めた。食事の支度が終わる頃には辺りは暗くなっていた。
「ミウ様、初めての野営で緊張してしまって。お側で寝てもよろしいでしょうか」
「駄目じゃ」
「駄目だな」
「お二人には聞いてませんっ」
「俺は構わないんだが、ここは多数決でアニラの敗けだな。我慢できそうか?」
「ミウ、これ以上甘やかすでない。アニラもミウの優しさにあまり漬け込むな。よいな」
「…はい」
まずいな、これは良くないぞ。戦いを前に士気が下がっている。
「いつもみたいに寝かし付ける、3人ともだ。寝る準備ができた人から…」
「できましたっ」
早いな。横になったアニラの側に座り、手を握って頭を撫でながら顔を近付けて小声で話し掛けた。
「どうしてイヴが厳しくするか解るな?」
「はい」
「アニラは賢くて良い子だ」
次の瞬間、素早く頬にキスされた。そして満足そうにアニラは眠りに就いた。やられたぜ。
さてお次は…
「妾じゃ」
俺はイヴの手を握りアニラ同様顔を近付けて囁いた。
「ごめんなイヴ、アニラを甘やかすのはもう少し控える様に…」
「妾はアニラのことを想って注意してるのではない」
「え、違うのか」
「妾はアニラの様に甘えたりできぬゆえ、ずるいと思ってしまうのじゃ」
なんだよそれめちゃくちゃ可愛いな。
俺はそっと寝てるイヴを抱き締めた。
「なっ…」
「埋め合わせるよ、まだまだ足りないけど。それと少しずつで構わないから俺はイヴにも甘えてもらいたい」
「う、うむ。胸に留めておこう」
さてラストはセルビナ…って寝てる。2人に時間をかけすぎたか…悪いことをしたな。
交代制で見張りながら各自睡眠を取り翌朝になって出発した。
暫く歩くと立て看板が見えてきた。
『危険 この先ドラゴン在り 立ち入りを禁ずる』
「ふむ…竜の気配を感じるぞ」
「フンフン、これがドラゴンのにおいですか」
「よし、もう少し近付いたら荷物を下ろして戦闘準備だ」
「うむ」
「ああ」
「はい」
だいぶ岩山が近くなったのでこの辺りの茂みに荷物を置いて回復薬と治療薬、強化薬を各々持って先に進んだ。
盗まれることはないと思うがセルビナが荷物の周りに氷で柵を設置してくれた。
急に威圧感を感じて見上げると、岩山の頂上に岩と同じ色のドラゴンが居た。あれがロックドラゴンか。
俺達に気付いた様で翼を広げて咆哮した。なかなかのプレッシャーだ。
ロックドラゴンは翼を使って飛びながらゆっくり降りて来ている。
「む、あれはロックドラゴンか…?まあよい。ミウ、作戦通りでよいな」
「ああ。ドラゴンには気の毒だが早く終わらせて報酬を貰いたいからな」
「ゆくぞ、ブラッディクロスハンドレッドソード!」
イヴの頭上に大量の血剣が現れてロックドラゴン目掛けて一斉に飛んでいった。
ドドドドドドドドドッ!!
相変わらず凄い技だ。
「これは…この手応えはまさか!?」
「どうしたイヴ…うわ!?」
何だこの光は。眩しい、ロックドラゴンが光を放っているのか?
「馬鹿な!間違いない、こやつはロックドラゴンなどではない。ドラゴンの中でも上位種、ダイヤモンドドラゴンじゃ!」
「なんだと!?」
「話が違うじゃないですか!」
「そんなに強いのか?」
「強いと言うより厄介じゃ。無属性ゆえにブレスは吐かぬが、奴の鱗は鉱石の中でも一番硬いダイヤモンドで覆われておる。更に体表には硬化魔法が施しており攻撃は物理魔法共に一切通らぬ。結論から言うと討伐は不可能に近い。妾のブラッディクロスソードをあれだけ食らって無傷なのがよい証拠じゃ」
確かにあれだけ純度の高い血剣を100本も受けたのに傷1つ付いてない。
「恐らく奴はこの岩山の採掘場で鉱石を長年取り込み続け進化したんだ。ミウ、これはかなりまずいぞ。ダイヤモンドドラゴンを討伐したという話は一度も聞いたことがない。クエストの難易度は未知数だ」
「な、なんだと!?」
「来るぞ!あやつの攻撃は基本的に体当たりのみじゃ。しかし上空からの体当たりは万物を一撃で粉砕すると言われておる。避け切れなかったら終わりだと思え!」
ダイヤモンドドラゴンが突進してきた。思ったより速いが全員避けることが出来た。
「ミウ様、転送石で戻りますか?」
「俺の魔法を当ててみて駄目だったら退こう。みんな援護を頼む」
「うむ」
「分かった」
「はいっ!」
集中して『杭』をいつもより鋭く、硬くして勢いよく発射する。
「イヴ、奴の勢いを少しでも弱めるぞ!アイスエッジ!」
「分かっておる。ブラッディナイフ!」
「追い風の加護!」
2人の大量の魔法の刃物をアニラの風魔法で発射威力を上げてダイヤモンドドラゴンに向け放った。
ガガガガガガガガガ…!
あいつ、お構い無しで突っ込んで来る。
「くらえっ、杭!」 ドヒュヒュンッ!
2発同時発射、どうだ!
キキィーン!
「なっ」
「避けろミウ!」
「ミウ様!嵐風拳っ!」 ゴォウッ!
「ぐっ」
アニラの攻撃でダイヤモンドドラゴンの突進が少し逸れ直撃は避けれた。
だが肩をかすっただけで容易く防具ごと皮が削がれ血が吹き出た。




