愛狐
翌朝、アニラの声で目が覚めた。
「ミウ様、起きてください。今日はアニラとデートですよっ」
と言ってるアニラは俺の布団に入って添い寝状態だった。こらこら、襲っちゃうぞ。
布団から出るとベッドのセルビナはまだ眠っていたので俺はアニラに向けて口に人差し指を当ててから声を潜めた。
「もう少し寝かせてあげよう、支度するから下で待っててくれ」
「はいっ」
珍しく起きていたイヴに声を掛けてから宿を出た。
アニラはいつも以上にべったりだった。胸の感触もいつも以上だ。
ロックドラゴンとの戦いに備えて防具を新調したい。あとは今着てる服と靴もボロくなってきたから序でに4人分買おう。セルビナとイヴのサイズ選びはアニラに任せるか。
うちのパーティーにはちゃんとした鎧を着るメンバーは居ない。俺とイヴは魔法が防具みたいな物だし、アニラとセルビナは速力が主体だから重装鎧なんて着たら動きが鈍くなってしまう。
重さ控えめの丈夫な生地で出来た軽装鎧と柔軟性と耐久性のあるショートブーツを4人分、あとはセルビナとアニラに防御用の腕当てを買うか。
ん、あれは宝飾品の店?うーん…よし!日頃の感謝を込めて3人に何か贈ろう、勿論サプライズだ。
「アニラ、イヴ達の服と靴を選んでくれるか。あと腕当てもどれが良いか決めておいてくれ。俺はお金が足りなさそうだから宿に取りに戻る」
「分かりました、選んでおきます」
「じゃあ行って来る」
そう言って防具店を出た。別々で買い物しようなんて言ったらアニラは嫌がるに違いない、俺も別行動より一緒に買い物して回りたいし。だがこれはサプライズギフト。見付かる訳にはいかない。
宿に向かうふりをして人を盾に隠れながら宝飾品の店に入った。おお、なんて綺麗なんだ。加工した鉱石を嵌め込んだ様々な装飾品が並んでいる。
何気なく手に取った指輪の値札を見ると…高っ!300ケルンだと!?確かに他のに比べて使われてる鉱石が大きいけどこんなに高いとは…!あ、そうか。ロックドラゴンのせいで高騰してるのか、おのれ許さん。
俺は暫く店内を見て回った。うーん…それぞれ小さめで戦いの邪魔にならなそうで良いと思ったけど…1つ80ケルン。3つで240ケルン。食事代を抜くと有り金ギリギリだ。
イヴにはピジョンブラッドルビーのチェーンブレスレット、アニラにはグリーンカルサイトのチェーンネックレス、セルビナにはパライバトルマリンのワンポイントピアス。チェーン、ポスト、キャッチ、石座は耐久力の高い特殊銀でできてる上に保護魔法もかけてあるらしい。
鉱石の色は3人の属性魔法をイメージして選んだ。
喜んでくれるかな…。
急いで防具店に戻るとアニラは丁度会計をしていた。
「お金足りたのか」
「大丈夫でしたよ。ミウ様、遅かったですね」
「ごめんな。お昼ご飯何が良い?」
「そうですね…シチューとバゲットが食べたいです」
「分かった。良い店を知ってるから行こうか」
俺は黙って買い物袋を持って歩き出した。
「駄目です!アニラがお持ちします」
「いいからいいから」
「もうっ」
不機嫌そうな顔をしながら腕に抱き着いてきたアニラは尻尾をブンブン振っていた。可愛い奴め。
食事の時、アニラがビーフシチューを口に付けながら食べていたので拭いてあげた。
「ごめんなさい。気を付ける様にしているのですが美味しい物を食べてるとつい夢中になってしまって…」
アニラはらしくない少し落ち込んだ表情をした。
「他に何か理由があるのか」
「はい…実は奴隷の頃、食事の量も与えられる時間も物凄く厳しかったので毎日慌てて口に入れておりました」
そういえば初めて闘技場で会った時、頬が痩けてたかも。俺はアニラの頬をフニフニと軽く摘んでからバゲットを1つあげた。
「これからはゆっくり沢山食べる習慣が身に付くから大丈夫だ。可愛いんだけど口につけるのは少し気を付けないとな」
アニラは感動した様に目を輝かせて尻尾をブンブン振りながら大きく頷いた。
店を出てスイーツと紅茶をテイクアウトしてイヴとセルビナと来た高台に向かった。
「良い場所ですね。風が気持ちいいです」
アニラは目を閉じて微笑んでいた。長くて真っ白な睫毛が日に照らされてキラキラしている。
石の長椅子に腰掛け、スイーツと紅茶を頂いた。
「ミウ様、実は1つお願い事を聞いて欲しいのですが」
畏まってどうしたんだ?少し緊張する。
「何でも言ってくれ」
「ありがとうございます。魔王城を目指す前に、アニラの故郷である獣人国ティーバに居る両親に会いたいのです」
確か獣人族の国ティーバは王都アルディアの東に在る島国だ。そんなに遠くはないはず。
そうか、俺は何て気が利かないんだ。
「ごめんなアニラ。もっと早く連れていくべきだった。ロックドラゴンを討伐して旅の準備が出来たら先ずはティーバに行こう」
「そんな、ミウ様が謝る必要はありません。寧ろアニラの我が儘を聞いてくださり心から感謝しております」
そう言って抱き付いてきたアニラの頭を俺は優しく撫でた。
「ミウ様の手は温かくて心地好いです。寝かし付けて頂く際、なるべく早めに寝ないようにしているのですが撫でられるとすぐに眠ってしまいます」
そう言っていじける様に口を尖らせたアニラはいつも以上に愛おしく見えた。
「よしよし」
両手で頭を軽くわしゃわしゃするとアニラは気持ち良さそうに目を閉じた。
「ミウ様、アニラは今日も幸せでございます」
俺達はそのまま夕方までべったりくっついていた。端から見たら完全に恋人だな。
宿に戻り、イヴ達の部屋に行くと2人は荷物を広げて明日の準備をしていた。
「2人とも買い物ありがとう」
「おお、帰ったか。そちらも大荷物じゃな」
「ミウ、足りない物はないか」
「イヴ達が買い揃えたなら大丈夫だろう。これは俺達4人の新しい装備品だ。色とデザインはそれぞれ変えてあるけど機能性は同じだ」
3人はああだこうだ言いながらお互いの装備品を見比べていた。
「ゴホン、3人に大事な話がある」
3人は顔を見合わせてから真剣な面持ちで側に寄って来た。




