激闘
『冒険者ミウへ。一騎討ちを所望する。ユイナ台地で待つ。来なければ逃げたとみなす。魔王六大凶牙四の牙、濃藍のセルビナ』
「ミウ様がどうしてこのような者に目を付けられるのですか。やはり仲間であるイヴさんが雌黄のユビルジウスを始末したからでしょうか」
「俺、ロークスの町でセルビナに一度勝ってるんだよ。多分再戦しに来たんじゃないかな」
「えっ」
「嘘ではない、妾も見ていた」
「流石ミウ様っ、それにしても再戦とは。このアニラが行きましょうか」
「待たんか。妾に任せれば直ぐに終わる」
「いや、ご指名は俺だ。それに万が一2人に何かあったら嫌だ」
「ミウよ、妾に万が一など…」
「ミウ様っ、それほどまでにアニラを」
む、胸が。腕に抱き付かれながらイヴを見ると何となく恨めしそうな顔をしていた。ちょっと可愛い。
「とにかく1人で行って来る。正々堂々挑んできたあいつの気持ちに応えたい」
「1人では行かせられん。何があるか分からんからのう。無論決闘の邪魔はしないと誓おう。アニラは戻っておれ」
「いいえ。アニラはいかなる時でもミウ様にお供すると決めたので」
「分かった分かった。その代わり2人は離れて見てるだけ、助太刀無用。約束だからな」
「うむ」
「はい!」
王都を出てユイナ台地に向かった。
そういえばここは鍛練によく使っている場所だ。遠くに人影が見える…徐々に鮮明になっていく。
セルビナだ。防具が少し変わっている。俺も防具を新調したいけど今は屋敷のことが優先だから節約だな。
「よく来てくれた。お前に負けたあの日からお前を越えることだけを考えていた」
感じるぞ…こいつ、かなり強くなってる。
「勝ち逃げする気はないからな、かかって来い」
俺は創造魔法で日本刀を創造し構えた。
「刀剣か。面白い」
見えているのか、流石だな。セルビナも刀身が紫色の刀を抜いた。
「1つ提案させて欲しい。もしも俺がまた勝ったら俺達の仲間になれ」
「仲間だと、ふざけているのか。私は魔人族、お前は人間だぞ」
「俺は本気だ。種族なんて関係ない、まあ嫌なら構わないさ。1度負けてるから勝つ自信が無いのは当たり前だ、恥じることはない」
「なんだと。良いだろう、その挑発に乗って提案を受けよう。私が2度も負けるなど…有り得ないのだからなっ!行くぞっ!」
速力も斬撃も以前戦った時の比じゃない、剣術だけなら間違い無く俺より強い。
「連射式粒っ!」
「アイスウォール」
ガガガガガガ…!
「やはりお前の魔法は見たことがない。だがどんなものかは大体解った」
セルビナは氷壁の上に立ち魔力を漲らせている。
一度戦っているからな…俺の創造魔法を理解しているのはハッタリではなさそうだ。
「アイスロックレイン!」
「なっ!」
セルビナが掲げた手のひらの遥か先に巨大な氷塊が幾つも現れ、俺目掛けて降り注ぐ。何て質量だ、魔力消費を考えていないのか?それよりこの広範囲、避けきるのは難しい。
「玉っ!」 バリンッ!
氷塊を砕いてやり過ごすしか…
「!?」
砕いた氷塊からセルビナが現れた。
「はっ!」
ガキィィンッッ!! 「ぐっ」
重力を加えた一撃、何て威力だ。並みの武器なら折られていた。
そのまま俺達は数え切れない程の剣を交わした。お互いに数ヶ所傷つけ、息も上がってきた。
だがまだまだこれから…な、これは!?俺の体が所々凍結している。
「はっ!」
バシュッ。 「くっ」
しまった。反応はしたが体の凍結により避けきれず、一太刀入れられた。創造魔法による部分防御も範囲を見誤った。
右肩から血が流れる。
「フリーズミスト。気付けなかった様だな」
嘘だろ…あの激しい斬り合いの最中に魔法を使っていたのか。傷は浅いが体の凍結で動きが鈍くなっている。この状態だとセルビナの高速剣術に対応出来ない。
だったら…
パリンッ!
皮膚と凍結部分の隙間に『鎧』を創造し解除するだけだ。
「やるな」
「行くぞっ!」
俺達は再び息が上がる程の刀による攻防を繰り広げた。
ドシュッ!
「ぐっ…玉!」 ザザッ…!
また一太刀受けてしまった。しかも太刀を受けた瞬間を狙って放った『玉』がかわされた。
この近距離なら当たると思ったが甘かったか。左肩から右下腹部にかけて斬られた、血が滴る。
最早部分防御は間に合わず、かといって全身防御しながら刀を振るう魔力は残ってない…だがこれで良い。
「お前の剣術はなかなかだが私には及ばない、それはお前も分かっている筈だ。なのに何故斬り合いに拘る?」
「相手がお前だからだ」
「ふっ。やはりお前は殺すには惜しい奴だ。だからこそ敬意を払い全力の抜刀術で終わらせる」
セルビナは刀を鞘に収め、居合い抜きの構えをとった。
次で決めに来る…俺は足を開き、刀身が見えない様に刀を低く後ろに構えた。
想像を具現化することに集中…そして身体強化魔法を発動。俺もこの一振にかける。
それを悟ったセルビナは笑みを浮かべた。釣られて俺も口角が上がってしまった。
ザァァンッ!! 「がっ…」
刹那。セルビナが動いた瞬間、思い切り下段から刀を振った。斬り上げられ宙を舞うセルビナ。防具は破壊され脇腹から肩にかけて血が噴き出た。
ドサッ。
「な、何が… まさか!」
セルビナは無理に体を起こし俺の手元を見た。
そう、俺は卑怯な手を使った。最後の一振り、俺は刀身を1mに伸ばして向かって来たセルビナに先手を打ったのだ。
傷を負ってまで斬り合いに拘ったのはセルビナの鋭い見切りによる刀の間合いの把握を利用させてもらう為だ。
本当は常にこの長さの刀身で戦いたいのだが今の俺の魔法技術ではまだ難しい。この創造魔法の名は『物干し竿』確か佐々木小次郎の愛刀だったっけ。
重量に縛られない俺の創造魔法なら刀身が長かろうと振るうのに問題は無いので強みになると考えたものだ。
だが先も言った通りイヴの様にまるで呼吸に等しく瞬時に武器を創り扱うことは未だ出来ないし、刀身を伸ばせばその分魔力消費量も増える。まあ後者はそんなに大きな問題ではないのでやはり前者をどうにかするのが今後の課題だな。
「悪いな、こんな勝ち方して」
「いや、命を賭けた真剣勝負だ。卑怯など無い…勝利を確信し、抜刀術で決めようとした時点で私は負けていた」
そう言ってセルビナは少し笑みを浮かべながら空を眺めていた。




