本性
アニラは四六時中、尻尾をブンブン振りながら俺にべったりだった。
イヴに叱られる度に俺を潤んだ瞳で見てくる。まるで甘えん坊フェイス、可愛い過ぎる。
こんなキャラだったっけ…いや元々こういう性格なのか?
「イヴ、今日は大目に見てくれ。甘やかすって宣言した俺の責任でもある」
「ふん、仕方ないのう」
「ミウ様、ご迷惑でしょうか…アニラは同情で愛でられるのは嫌です」
俺はアニラの頭をゆっくり撫でた。
「迷惑な訳ないだろ。仮に嫌だったらちゃんと伝えるし、アニラは特別な仲間だ。そんなこと気にする必要ない」
「ああミウ様、アニラは幸せでございます」
「だから幸せはまだ早いって。そういえばイヴ、眷属契約ってアニラとも結べるのか」
「可能じゃ。妾が契りの杭を作り、妾の時と同様にアニラとミウでお互いの胸に刺すのじゃ。従者となるアニラが詠唱するのじゃぞ。しかしお主も悪知恵が働くのう。アニラにも妾の恩恵を与えるつもりとは」
「やっぱり嫌か?もしイヴの気に障るのなら…」
「構わん。戦力を上げるのはよいことじゃ。ミウの好きにせい」
「ありがとうイヴ。アニラには昨晩話したけど、本当に大丈夫か?」
「もちろんで御座います。ミウ様と契りを交わすことができるなんて、身に余る光栄です」
それから俺とアニラは茶々っと眷属契約を交わした。眷属契約を結ぶとお互いに直接だろうと間接だろうと命を奪う様な事は出来ない。もしも破った場合はその者の心臓に罰の杭が打たれる。そして従者への恩恵内容は身体能力向上、あらゆる毒無効、聖属性以外の全ての魔法耐性だ。
「これは…凄いです。力が漲ってます。ミウ様、イヴさん、ありがとうございます」
「待て、なにゆえ妾はイヴ様ではなくイヴさんなのじゃ」
「アニラにとっての主人はミウ様だけなので」
「なんじゃと」
「ま、まあまあ。それよりミゥーズ傭兵団を待たせてる、早く行こう」
ミゥーズ傭兵団は俺にべったりのアニラを見て驚いていた。
「本当にあのおっかねえ獣人の姉ちゃんか」
「闘技場最強の獣戦士…だよな」
「何と言うか、随分と垢抜けたわね」
「これがアニラ本来の姿だよ…多分。それよりこの王都に俺の自宅兼お前達の拠点となる家を買いたいんだけど」
「おお!良いっすね!」
「やったぜ!俺らの拠点だ!」
「ボス、早速空き家を売ってる店に行きましょう!」
皆嬉しそうだ、良い物件が見付かると良いな。
そうして不動産屋で色んな物件を見せてもらった。
ぐっ…流石王都、桁が違う…お金が全然足りない。これはどうしたものか…ん?
「この屋敷って何でこんなに安いんだ」
「ああ、その屋敷は市街地の外れに在るんですけど、どうも魔物が沢山住みついてる様で」
「ギルドに討伐クエストを頼めば良いのでは」
「だいぶ前に依頼したのですがBランク冒険者が5人行って1人も戻らなくて。それから誰もクエストを受注してくれないので王都の騎士団にも頼んだのですが、なかなか動いてくれません」
「ふん、情けない。王都の騎士がとんだ腑抜けじゃな」
うん、ここにしよう。広くて部屋数も多いし。魔物は駆除すれば良いだけだし。
「おじさん、俺達が魔物をどうにかする代わりにもう少し安くしてくれ」
「へ?どうにかできるのですか。失礼ですが頭数が多くてもBランクの実力では危険かと…」
「心配ない、Aランク相当が3人居るからな」
俺達はそのまま郊外に在る屋敷に向かった。
おお、この大きさで500ケルン。かなり得した。
「ミウ様は外でお待ち下さい。このアニラが魔物共を全て叩き出して参ります」
「待て。アニラ、お主もここにおれ。低級な魔物なぞ妾が直ぐに蹴散らしてくれる」
あれ、何か張り合ってる?
「分かった分かった。じゃあ2人で行って来てくれ。なるべく屋敷を壊さない様に頼む」
「ふふふ。よいことを思いついた、見ておれっ」
ギンッ!
イヴが禍々しい魔力を込めた殺気を放つと、屋敷の中から沢山の魔物がパニック状態で出て来た。
その魔物達をアニラが容赦なく打ちのめしていく。なんて動きだ、身体能力向上なんて体術メインのアニラにもたらす影響は計り知れない。今のアニラと戦っていたら俺は確実に負けていただろう。
そうして1匹も討ち漏らさずに終わった。
「ここからは全員で中に入って魔物が残ってないか調べるぞ」
「おおー!」
「ボス!大変です!」
突然ミゥーズ傭兵団の1人が息を切らして駆け寄って来た。
「お前、今までどこに行ってやがった!」
「ギルドに変なクエストが受注されてるって噂になってて、気になって見に行ってたんだ。そしたらボスの名前が載ってた」
「俺の?」
「はい、一部分しか見えなかったのでご自分でギルドに行って見てみて下さい!」
「分かった、皆は屋敷に魔物が残ってないか調べてくれ。俺は1人で…」
「ならぬ。妾も行く」
「当然アニラもお供致します」
うーん、言っても聞かないだろうな。
「2人とも行くぞ」
「はいっ」
「うむ」
ギルドに着くと人集りが出来ていた。
「おい、ミウって奴が来たぞ!」
1人が言うと皆が俺を見た。何なんだ一体?
クエスト掲示板に一際目立つクエスト用紙が貼ってあった。
「これは…!」




