白嵐
初戦の相手は屈強な冒険者だったが難なく倒した。
なるべく防御以外で創造魔法を使うのは止めておこう。せっかく体術を教わったんだ、格闘のみで行けるとこまで行きたい。
それから2日間、苦戦せずに勝ち進んだ。
3日目、遂に白嵐と呼ばれる戦士が現れた。
「さあ剣のゲートから現れたのは雷帝亡き今、実質闘技場の頂点に君臨する最強の戦士!『風制拳』の達人、白嵐のアニラ!」
「あれは…」
なんと獣人族の女性、しかも首輪をはめている。恐らく奴隷だ。
それにしても美しく神秘的な姿だ。初雪の様な白い毛髪に耳と尻尾。青竹色の眼。何の獣人だろう、白い狐っぽいけど。
「ほう。白狐の獣人じゃな。希少種じゃ」
とイヴが教えてくれた。確かに王都には様々な獣人が居るけど白狐の獣人は見たことがない。
それにしても佇まいからしてかなりできる…見たところ武器は持っていない様だがどんな戦いをするんだ。
盾のゲートからザ・脳筋みたいな大男が出てきた。手には巨大な鉈を持っている。
試合開始の合図で脳筋男が鉈を振り下ろす。アニラは鉈に片手を添える様にして受け流し、脳筋男の腹に縦拳を入れた。
ドゴォッ! 「ぐおっ」
闘技場中央から壁まで吹っ飛ばされた脳筋男は吐血して意識を失っていた。
「今のは魔法か?」
「うむ。風の属性魔法じゃな。上手く使っておる。魔法が主力の妾とは違ってあやつの最大の武器は風魔法を沿えた素手による格闘の様じゃ」
「うおお!また一撃で決めたぞ!」
「俺もあんな奴隷が欲しい!」
歓声が上がる中、アニラはさっさと退場して行った。
あの子、勝ったのに全然嬉しそうじゃないな。奴隷ゆえに嫌々戦わされてるのか。
翌朝、団長のダレアに起こされた。クエスト代行で結構稼いだらしく、俺は全員をべた褒めした。
律儀にも報酬を俺に渡しに来たそうだ。
「それはお前達が稼いだお金だ。皆で分けろ」
「ボスとイヴ姉さんのお陰で俺達は生まれ変わったんだ!恩を返させてくれ!」
「そうよ!」
「そうだそうだ!」
「分かった分かった。お前達の気持ちは有り難く受け取るが金はやっぱり受け取れない、その代わり朝飯を奢ってくれ。食べた後は鍛練するつもりだったけど、遅くまでクエストに行ってたんだろ。お前達は休め」
「いいや!俺達も行くぜ!」
「このくらいで休みなんて必要ないわボス」
「分かったよ。と言う訳でイヴ、今日も頼む」
「うむ」
俺にはもう教えることはないらしく、ひたすら創造魔法で刀を創る練習をした。
辺りが暗くなってきたので王都に戻り闘技場に向かった。
戦士の控え室で暫く待っていると呼び出された。
さてと、戦士紹介で相手がアニラだと分かった。
遂にこの時が来た。急に鼓動が早くなる。
盾のゲートを出るとミゥーズ傭兵団の熱い声援が降り注いだ。それだけで心強い。イヴも見てくれている。俺は独りじゃないと実感させてくれて有り難い。
アニラと対峙して改めて思った。かなりの手練れだ、それに眼に光が無い…自分の意思で生きることを完全に失っているようだ。
「よろしく」
「…?」
怪訝そうな表情をされた。スポーツじゃあるまいしそうなるよな。
試合開始の合図が鳴り、アニラが一瞬で間合いを詰めて来た。
ドガッ!
回し蹴りを鎧を創ってガード、脚は無事じゃ済まないはず…
「!?」
脚に風魔法を纏っている…なるほどな。
衝撃で後退りすると一気に畳み掛けて来た。
打撃の嵐。攻撃一つ一つに風圧が加えられてる訳か、道理で一発が重い訳だ。
隙を見て一発入れようと殴ったつもりが清々しいくらい容易に流された。受け流す時も風魔法を使っている。
「圧拳っ!」
あの縦拳か!?まずい、鎧を腹に集中。
ドゴッッ! 「ぐおっ!」
空中で体勢を整えて着地。いてて。凄い威力だ。でもイヴとの契約による恩恵と鍛練のお陰でダメージは少ない。
ザッ!
さっきより速い!?
「圧脚っ!」
ドガァッ! 「ぐっ!」
今度は前蹴りを食らい壁まで飛ばされて叩きつけられた。背中に鎧を集中させたから問題ないが…
「かはっ」
口から血が流れる。なんて重い一撃だ。俺は軽くストレッチしながらどこか痛めてないか確認し、アニラに突進した。
左ストレートに見せかけてアニラが受け流しに入った瞬間、右ボディを入れた。
「くっ」
「!?」
手応えが…風圧で衝撃を軽減させられたのか。
「旋風掌!」
バシィッ! 「ぐあっ」
乱回転する風を纏った掌底打ちを食らい、回転しながら再び壁に叩きつけられた。
いてて。風魔法を使ったあの武術、まさに攻防一体だな。さてどうしたものか。
「何をしておるアニラ!さっさと終わらせんか、この役立たずが!」
成る程あのデブオヤジがアニラの主人か。絵に描いたようなクズ貴族って感じだな。
「申し訳ありません、ご主人様」
こんなに強いのにあんなデブオヤジに怯えながら深く頭を下げるアニラを見て、俺は決めた。
「君さ、俺のパーティーに加わらないか」
「…何を訳の分からないことをっ、次で決めさせてもらいます」
「なっ!?」
あれは身体強化魔法、そして右拳に渦巻く風…いや、最早小さな竜巻みたいになってる。
「これで終わらせます。嵐風拳っ!」
瞬きする間も無く懐に入られ、渾身の一撃を食らった。
両腕と腹に『鎧』を纏って防御し、飛ばされない様に思い切り踏ん張った。
「ぐぐぐ…」
鎧を着けなかった頬や太股が風圧で切れた。なんて威力だ、だが耐え抜いたぞ。
戦闘中は終始無表情だったアニラの表情に焦りが見えた。
「そんな…あれに耐えるなんてっ」
「何をしておるこの使えない獣め!試合に勝てぬのならお前はもう要らん!利用価値の無い奴隷なぞ不要なゴミと同じじゃ!棄てられたくなければさっさとそやつを倒さんか!」
うるさいし酷いな、流石の俺でも殺意が芽生える言い方だ。
「承知しました…ご主人様。 はああーっ!!」
あの光、身体強化魔法を更に上げたのか。反撃の隙のない速さ、風魔法の威力も上がっている。
でも、先より攻撃が雑で荒い?防御しやすくなった。それにこのペースだときっと魔力が持たない。
「はあっ、はあっ、」
身体強化魔法は身体に負荷が掛かる、今なら当たる!
「玉っ!」 ボゴォッ!
防御しながら創造していた『玉』が見事に胸に命中した。
アニラは受け流そうとしなかった…やはりそうか。
彼女は仰向けに倒れ、動かない。




