格上
「この気配、あんたも人間じゃないな。まさか同族か?」
「誰が魔人族じゃ。妾が何者だろうと貴様には関係ない。黙ってかかって来んか」
「あんた相当強いな。待ってたぜ、全力を出せる相手を。運営の奴等のせいであの獣女とは戦えないからな」
バチバチバチ!電気がユビールの体を覆っていく。
「はああー…」
みるみる姿が変わっていく。
赤い巻き角、漆黒の瞳、黄色い髪。
「もう隠すのも面倒だ。俺の名は魔王六大凶牙、六の牙、雌黄のユビルジウス!」
おいおい、六大凶牙ってセルビナと同じか。
「うわあ!魔人族だ!」
「六大凶牙だ!逃げろ!」
「誰か騎士団を呼べ!」
場内は大混乱。観客は殆ど居なくなってしまった。怯えながらも試合見たさに残った奴等は相当物好きだな。
「おら行くぜー!」
シャキン! 「おっと。これは血刃魔法…そうか、あんたが封印されてた吸血鬼だな。やけに強い訳だぜ」
「お喋りな奴よ、少しは黙れんのか」
「へっ、行くぜ。ライトニングクロウ!」
両手に電撃の爪が現れた。ユビルジウスの動きは物凄く速かったが、イヴは凄まじい手数と速さの血刃でユビルジウスを近寄らせなかった。
キンッ、キンッ、キィンッ!
お互いに一切手を休めずに攻防が続いた。徐々にユビルジウスが前に出る。
「おらぁー!」
遂に間合いに入って突きを繰り出した。
「ブラッディクロスソード」
ドシュ! 「ぐあっ」
イヴは深紅のいかにも邪悪そうな剣を出してカウンターを入れた。感じる。あの剣、何という強度と切れ味…凄まじい完成度だ。瞬時にあんなものを創れるなんて。
「ちい!」
「貴様が雷を体に纏って戦う近距離肉弾戦が得意なのはよく分かった。じゃが次の接触で体の一部を切り落とす」
「くくく。接近戦じゃ部が悪いのは分かった」
バチバチバチッ!
物凄い音と共にユビルジウスの体から電撃が溢れ出た。
「俺のとっておきだぜ。サンダーボルトフィールド!」
落雷の様な音がしてユビルジウスの両手から放たれた電撃は闘技場全体に広がった。
「ぐわっ!」
「ぐああ!」
「きゃああ!」
あいつ、俺達や観客もろとも…く、体が痺れる。
「ミウ!」
「どこ見てやがる!」
グサッ!
「イヴ!」
イヴが腹を貫かれた。
「杭っ!」
俺がユビルジウスに向けて撃とうとした瞬間、「問題無い!納めよミウ」と制止された。
「へっ、致命傷の筈だ。勝たせて貰うぜ!ライトニングヘビーアックス!」
ユビルジウスは電撃で巨大な斧を創って飛び、振りかぶった。
「致命傷だと、嗤わせるでない。貴様はやり過ぎた、その罪の重さと格の違いを身をもって知ってから息絶えろ。ブラッディクロスハンドレッドソード」
「なにぃ!?」
あれは、先程の完成された血剣が…ハンドレッドって…100本!?イヴが掲げた掌の先に天井を埋め尽くす程の血剣が出現し、一斉にユビルジウスに向かった。
「こ、このっ!」
奴が振り下ろした雷電の巨大な斧は血剣を10本近く砕いて消滅。それはそうだ。あの血剣1本1本が高純度の魔法剣。それが100本なんて想像を絶する。
ドドドドドドドドド…!
闘技場の壁が破壊され、全ての血剣を放ち終えた時にはユビルジウスは何と言うか殆ど原型がなく残骸しか残っていなかった。
ユビルジウスの残骸から血液を吸収し魔力に変えて治癒魔法で貫かれた腹を修復し、イヴはけろっとして闘技場中央に立っていた。
「審判!何を呆けておる、さっさと判定せんか!」
「は、はひ!えっと、ユビール改めユビルジウス死亡につき勝者イヴカロン!」
残った観客とミゥーズ傭兵団が歓声を上げた。
まさか魔王六大凶牙の1人だったとは。
奴は決して弱くなかった。イヴが強過ぎるだけだ。その後、優勝賞金を貰ったが壁の修理代をしっかり引かれた。
「すまぬ…」
「気にするな」
肩をポンと叩くとイヴは安心した様に表情を緩めた。普通に可愛い。
それから皆で運営者達の居る部屋に行き、半ば脅して明日から普段通り闘技大会を再開することを約束させ、魔王軍の幹部を撃退した礼として俺の参加料金を免除してもらった。
よし、次は俺の番だ。この闘技場にはまだ白嵐と呼ばれるトップファイターがいる。
宿に戻る途中、イヴはとても眠たそうだった。怪我と魔力を回復させても疲れは残るみたいだ。
「背負わせて戴きますよ、お嬢さん」
「な、何じゃ急に…よ、よいのか?」
「当然だろ」
イヴは恥じらいつつ嬉しそうに身を委ねてきた。
「お疲れ様」
「うむ」
宿に着いた頃にはスースーと寝息を立てていたのでそっとベッドに寝かせ毛布をかけた。
暫くイヴの綺麗な寝顔を眺めてから俺も床に就いた。
翌日、俺達のことは瞬く間に拡がり王都中で騒がれていた。
これ以上目立ちたくなかったけどまさか魔王軍の幹部が闘技場に居るとは思ってもみなかった。
ミゥーズ傭兵団に冒険者のクエスト代行で稼いでもらおうと思った矢先、噂の影響もあって依頼してくる冒険者が続々と現れた。まあ宣伝になったということだな。
俺はと言うとイヴと鍛練だ。数時間が経ち休憩しようと提案して草の上に寝転がった。
「ミウはかなり上達しておる、うかうかしてると追い抜かれてしまいそうじゃ」
「…そうか。なあイヴ、膝枕してくれ」
「な、また唐突に。まあ膝枕くらい別によいが」
イヴの膝は少し冷たくて柔らかかった。
「寝心地最高だ」
「そ、それは何よりじゃ」
「人間に膝枕したことあるか?」
「あるわけなかろう。そもそもこんな風に人間と馴れ合い接すること自体が未経験じゃ」
「もしかしてイヴって処…」
「ゴホン!そろそろ休憩終わりじゃ!」
それから夕方までみっちりしごかれ、食事を摂ってから闘技場に向かった。
おお、これは驚いた。壁が殆ど修復されてる、やるな運営者達。
「ボス!」
ミゥーズ傭兵団も合流した。さあ頑張るぞ。




