外伝Ⅶ
村を歩いていると村人達が愛想よく挨拶をしてくれた。
魔物討伐の影響か、初めは私達に対してここまで友好的ではなかった気がする。
「よぉフィリパ」
声のする方を見るとエイデンとソティリスが居た。
「エイデン、武器を手にしてるってことは鍛錬?」
「あぁ。鈍っちまうからな、お前らもだろ」
「そそ、そうですっ」
「ほどほどにな。あくまでも今日は休息日だ」
「わかってるわソティリス。それじゃあね」
「おう」
2人と別れ、村外れに向かって歩いているとカレンが口を開いた。
「ふふ、副隊長とエイデン先輩、よく喧嘩してますが仲良いですよね」
「そうね。この隊は曲者揃いだけど忌み嫌い合ったりはしないからね、なんだかんだ協調性もあるし喧嘩だって本気じゃないし…まあ良い隊だと私は思ってるわ」
「そそ、そうですねっ、拙もそう思います」
「この辺りでいいでしょ。身体ほぐしたら始めるわよ」
「はいっ」
そうして軽く手合わせをして一汗かき、私達は近くにあった石段に座って喋っていた。
「そういえばカレン、ヴェザレフで王命聞いた時は随分と取り乱してたけど、もう平気そうね」
「あああ、あれはっ…こういった任務は初めてだったので」
「まあそうよね、終わったらヴェザレフに戻れるかしら」
「…」
「どうしたの?」
「いいい、いえなんでもありませんっ」
カレンは誤魔化したが私には解る…きっと故郷の家族を想ったのだろう。ヴェザレフで再び町の守護に就くということは前と同様に家族と顔を合わせることができなくなる。
「カレン、休暇を取ったら」
「えっ」
「いや…そのほら、仕事ばっかりじゃあれでしょ。町の守護は隊士1人の一時離脱くらいは可能な任務だと思うし…たまには息抜きしないと」
カレンは暫く黙って私の顔を見てから小声で何かを言った。
「…本当にあなたは優しいですね」
「ん?」
「いいい、いえ!なんでもありませんっ。休暇の件、考えておきます」
「そう、無理だけはしないでよ」
「…はい」
自分で言っておいて恥ずかしくなり、私は勢いよく立ち上がって身体を伸ばした。
そして剣を取って振り向きカレンに言った。
「もう少し付き合ってくれる?」
「はいっ、喜んでっ」
軽く手合わせをしてから私達は昼食を取りに村の酒場を訪れた。
「いらっしゃい…おっ!傭兵さん達!」
「ここここんにちはっ」
「…どうも」
「さっきまでお仲間さん達が居たんですよっ」
「そうですか」
「食事ですよね!掛けて待っててください、すぐに調理を始めるので!」
「よろしくお願いします」
「おおおお願いしますっ」
良かった、隊長やエイデン達が居るとゆっくり食事するのは難しい。本当は独りが一番気楽だが…
「なな、なんですか先輩」
「なんでもない」
まあカレンなら良いか…などといつの間にか心を許してしまっていた。
「おおお美味しいですねっ」
「そうね。口についてるわよ」
そう言うとカレンは慌てて口元を布で擦った。
「…ぷっ」
「あ、先輩いま笑いましたねっ」
「ゴホン、笑ったけど…文句ある?」
「いいいいえ、ありません。ただ…」
「ただ?」
「フィリパ先輩の笑顔は素敵ですっ」
真正面からそんな恥ずかしい事を…まったく困った子だ。
「そういうことは言わないで」
「すす、すいませんっ」
しまったという表情でカレンは恐る恐る私を見た。
「嬉しいけど…人前では言わない様にして」
「…え」
「返事は?」
「はははい、喜んでっ」
食事を済ませてから宿に戻り、私達は夜までダラダラして過ごした。
休息日なんて要らない気がするけど、コルトン隊長の判断は恐らく正しい。
調査対象である聖騎士達が迫っている…この先いつ遭遇するか、相手に敵意があるかどうか。
兎に角『万全の状態』で村を出るには充分な理由だ。
そうして私達は早めに就寝したが、他の2人が寝息を立てる中、私はなかなか寝付けなくて結局遅くまで起きていた。
「…リパッ、フィリパ!」
「ん…」
「出発の時間ですよっ」
「せせせ先輩、支度はしておきました」
「ふああ、ありがとカレン」
「まったく、だらしない先輩ですね」
「はいはいどうせ私はだらしないですよ」
「フフフ、フレヤ先輩っ」
「はぁ…もちろん本心じゃありません。さあ行きますよフィリパ」
「んー」
私は早朝が苦手だ。寝起きも悪くて仲間に毒を吐いてしまう時もある。そんな私をカレンはいつも庇ってくれるしフレヤは見限らずにいてくれる…いい加減しっかりしないとな。
「フィ、フィリパ先輩、荷物は拙が運んでおくので着替えて顔を洗ってきてください」
「…ごめんねカレン」
「ひぇ!?ななな、なんですか急にっ」
「あなたの先輩なのに面倒掛けてるから」
「…」
「カレン?」
「面倒だなんて思ってませんよ」
「そ、そう」
今のカレンの声音と表情、いつもと様子が違くて少し驚いた。まだ寝惚けているのかもしれない、さっさと顔を洗いに行こう。
「んんっ、私も本気で怒ってる訳ではありませんからね」
「…ありがと」
礼を言うとフレヤは焦った様子でプイとそっぽを向いた。
「揃ったな。これから俺達は『交易都市アヴグラ』を目指す」
「情報収集ですね」
「その通りだ。だが既に聖騎士によって都市は壊滅してる可能性もある…とにかく慎重に行くぞ」
全員返事をしてからラシモス村長や村人達に別れの挨拶をした。
「皆さんには本当に感謝しています。寂しくなります」
「用事が済んだらまた立ち寄るかもしれないのでその時はよろしくお願いします」
「そうですか!皆さんならいつでも大歓迎ですよ」
そう言ってラシモスさんや村人達は快く私達を見送ってくれた。そうして私達は『イアーナ村』を後にした。
「人助けか…悪くねぇな」
「そうですね」
「せせせ拙もそう思いますっ」
「私達は汚れ仕事に近いものが多いからな…ああいう風に正面から感謝の言葉を受け取るのは久しぶりだったな」
「…確かにそうね」
「ハァ…ちゃんと切り替えろよお前ら」
コルトン隊長にそう言われ、私達は声を揃えて返事をした。




