外伝Ⅵ
ズズズズズズズ…!!
「ガァァウッ!」
ソティリス、フレヤ、エイデンが魔力を高め、それに反応してタラスクスはフレヤに向かって走った。
「させるかよ」 ガギィンッ!!
「はっ!」 ギャリンッ!!
「ガウゥ…!」
コルトン隊長と私とカレンで時間を稼ぐ、3人の邪魔はさせない。
「ガァッッ!!」
タラスクスは鋭い爪の生えた腕を振り上げた。
ガァキィィンッ!!
コルトン隊長が素早く前に出て攻撃を受け止めた。
「ぐっ…なんちゅう力だよっ!」 ザァンッ!
「やあっ!」
「せいっ!」
ザシュシュッ!
「ガァウ…!」
「アネモス・メガロスドゥレパーニッ!」 ドビュンッッ!!
「スパイラル・ブレイズッ!」 ゴォォォォーーッ!!
「スターライト・ジャベリンッ!」 バシュッ!!
私達3人で隙を作った瞬間、他の3人が一斉に高威力の魔法を放った。
「グァオオオーッ!!」 ズズーン…。
全ての魔法が命中し、タラスクスは胴体を地に着けた。
「やあああーッ!!」
ザァァンッ!!
「グルゥア……」 ドシャァッ。
最後は高く跳び上がったカレンによる全力の振り下ろしでタラスクスは首を落とされた。
それからソティリスが警戒しながらタラスクスの体に近寄った。
「どうだソティリス」
「…死んでますね」
「隊長、周囲に魔物の気配はありません」
「よし、狼煙を上げろエイデン」
「了解ぃ」
「良い一撃だったわカレン」
「いいい、いえ、思い切り攻撃できたのは先輩方のお陰なのでっ」
「また謙遜ですか。褒められたら先ずは御礼ですよ」
「おおお、お褒めの言葉ありがとうございますフィリパ先輩っ」
「ふふっ、どういたしまして」
「それにしても泥まみれですね」
無事魔物を討伐したというのにフレヤはあからさまに不機嫌だった。確かにこれほど汚れたのは久しぶりだ。
「早く湯浴みをしたいわね」
「そそそ、そうですねっ」
暫くすると村人達がぞろぞろと現れた。
沼地の手前まで荷車を持って来たそうだがこの巨体、おそらく乗せられないだろう。しかも村人達も泥濘みに足を取られて歩くだけでも辛そうだ。
「隊長、私達で運びましょう」
「フィリパの言う通りです隊長」
「ハァ…わかってるよ。さっさと終わらせるぞ」
「了解です」
「はいっ」
「おうっ」
それから私達と村人達で数時間掛けてイアーナ村までタラスクスの骸を運んだ。
「おおっ!なんと礼を言っていいか…」
「村長さん、頼みがあります」
「…はい?」
「湯浴みをしたいので水を沢山沸かして頂けますか」
「え、ああ!急ぎ準備いたします!」
「よろしくお願いします」
「おいフレヤ、隊長が話してからでも…」
「よくありませんっ」
「私もフレヤに同意する…これはあんまりだ」
そう言ってソティリスは自分の身体を不快な表情で見た。
私達は全身泥まみれ、臭いもなかなかキツい…これは確かに2人にとっては緊急を要する段階だ。
「はっ。この程度の汚れ、俺にとっては大したことないぜ。お前ら気にし過ぎなんだよ」
「それは当然だろう。蛮族上がりと高貴なエルフとでは価値観が異なるからな」
「んなっ…また言いやがったな、俺は蛮族じゃなくて貴族専門の野盗だ!」
「ああ…あ、あまり変わらないような…」
「なんか言ったかカレン!」
「いいい、いえっ、なにも!」
「エイデン、その辺にしたら。ソティリスも」
「フィリパの言う通りです、王国騎士として恥ずかしくありませんか」
「ぐっ…わかったよ」
「ふん」
「というか隊長が止めてくださいよ」
「ハァ…俺は疲れてるんだ」
「みんなも疲弊してますよ」
「わかってる。だから明日は1日休んで出発は明後日にする」
「え、いいのかよ隊長」
「この先もタラスクスみたいな魔物が出るかもしれない…それに聖騎士達ともぶつかるかも分からん。万全の状態で行く、いいな」
全員返事をしてから村人が沸かしてくれた井戸の水を使って私達は全身と着ていた衣服を洗った。
「せせせ先輩、拙が洗っておきますよ」
「自分でやるからいいわよ」
「私はお願いします」
「お任せくださいっ」
「フレヤ、自分の服くらい…」
「いいんですフィリパ先輩」
「だそうですよ」
「フフ、フレヤ先輩、先に宿に戻って休んでください」
「ありがとうございますカレン」
そうしてフレヤは去っていき、私達は服に着いた泥を洗い落とした。
横でせっせとフレヤの服を洗うカレンを見ながらこの子は無理しているのではないかと少し心配になった。
そんな私の視線に気付いたカレンが手を止めて私の目を見て口を開いた。
「フィリパ先輩」
「なに?」
「拙は家事全般が好きなんです」
「そうなの」
「はい。ですから好きでやっています」
「…それならいいけど」
「やや、やっぱりフィリパ先輩は優しいですっ」
「そうでもないわよ。カレンのもついでに干しておくわね」
そう言って自分とカレンの衣服を手にして私は宿に戻って洗濯した衣類を干した。
翌日は隊長命令でゆっくり過ごすことになったので私は堂々と寝坊した。
「せせせ先輩っ」
「ん…」
目を開けると至近距離にカレンの顔があった。
小動物がこっそり覗いている様で可愛い…じゃなくてっ。
「…近いわよ」
「ごごっ、ごめんなさい!相変わらず美しい寝顔でついっ」
「それはどうも…フレヤは?」
「朝食を済ませてから少し身体を動かしてくる、と」
「そう…確かに少しは動かないとね」
身体を起こしてベッドを降り、着替えてからカレンを見た。
「あなたも出かけるの?」
「せせせ拙はフィリパ先輩に着いて行きますっ…よろしいでしょうか?」
「かまわないわよ。身体を動かしたいから手伝ってくれる」
「はい、喜んでっ」
そうして私達は武器を手にして宿の外に出た。




