外伝
それから暫く見つめ合っていると、足音が近付いてきた。
「戻りました」
「ありがとな」
「ティオのドレス姿はどうでした?」
「それはもう…」
「ミウ、いいからっ」
恥ずかしそうにティオが俺の言葉を遮ると、メティは口に手を当てて笑った。
「うふふ、今のティオの様子で充分わかりましたよ」
「ドレス、メティとミミルも買ったのか?」
「私達は買っていません。せっかくお祭りを楽しみに来たのに、ティオだけ顔と身体を隠しながらなんてあんまりだと思って買ったので」
「なるほどな」
「メティとミミル…本当に優しい。ティオは恵まれてる」
「ふふっ、照れちゃいますよティオ」
「次はティオだけじゃなくて3人で着飾りたい」
「おお、それは楽しみだな」
「そうですねっ」
メティとティオは目を合わせて互いに微笑んだ。
「ところでミウ、先ほど口づけしていましたよね?」
「え、ああ」
「…」
何かを訴える様なメティの顔…これは聞くまでもないな。
「ティオ…」
「平気」
どうやらティオも解っているようだ。
俺はメティの手から飲み物を取ってから腰に片手を回し、ゆっくりとキスをした。
ーーーーーーーーーー
「コルトン隊長、伝令兵はなんと?」
「ハァ…参ったな。ソティリス、説明するから全員を集めろ」
「了解しました」
私達『リオンクライ王国騎士団特練一番隊』が『ヴェザレフの町』に派遣されて数ヶ月、今のところ悪魔は現れていない。初めに聞かされた時は驚いたが当然の事だ、悪魔なんて絶滅した種族なのだから。
それにしてもいったいいつまで勇者の穴埋めをしなければならないのか…などと見張り台で考え耽っていると新人のカレンが走ってきた。
「フィ、フィリパ先輩、召集がかかりましたっ」
「わかった」
カレンと共に町の冒険者ギルドに設けられた騎士団の集会部屋に行くと、私とカレンを除く隊士は既に揃っていた。
「よぉフィリパ、珍しく最後だな」
「あなたも着いたばかりじゃないですかエイデン」
「余計なこと言うなよフレヤ」
「フィリパ、カレン、席に着け」
コルトン隊長に言われ私とカレンは椅子に座って隊長を見た。
「先刻『王都ベレンティカ』より王命が下った。先日、聖騎士が聖兵100数名を連れてメネーニ、バニアイ、ロォカスの方角に進軍したとの情報が入ったのでその調査を我々特練一番隊に任せるとのこと。町の守護は三番隊が引き継ぐそうだ」
それを聴いてこの場の全員が動揺していた。
神国…ただの噂だと思っていたがまさか本当に侵略を始めたのか…?
「つーか調査ってなんですか隊長」
「調査は調査だ」
「もも、もしも聖騎士に見つかったらどうするんですかっ」
「落ち着けよカレン。相手がやる気なら引く理由はねぇだろ、なあ隊長」
「ハァ…戦闘はなるべく避ける。神国と揉めたらどうなるかわかるだろ」
「最悪戦争になりますね」
「ソティリスの言う通りだ。今回は慎重に行動する…やれるかエイデン」
「…はい」
特練…『特別熟練兵』とは国内および各地から集り構成されているリオンクライ王国騎士団のなかでも腕利きの精鋭と認められた兵士のことだ。5〜6人構成で三隊、隊士全員が一般騎士を凌ぐ強者…しかしその正体はとても道徳的とは言えない人間が殆どのいわばならず者上がりの騎士の寄せ集め、ゆえに未だに『試験段階』を脱せない組織だ。
エイデンは血の気が多いが入団当時に比べればだいぶ丸くなった。それに生意気を言うだけあって腕は立つ。あとは他の隊士…特に副隊長であるエルフのソティリスと私と同期のフレヤが比較的真面目でしっかりしてるので暴走しても上手く正してくれるのが大きい。正直言って私とコルトン隊長は2人程できた人間ではないので助かる。
「ん、なんだフィリパ」
「いえ」
「まあそういう訳で三番隊が到着したら俺達はここを発つ。各々準備しておけ」
全員声を揃えて返事をし、解散となった。ギルドを出ると日が傾き始めていた。
私が空を眺めていると不意に袖をグイグイ引かれた。
「フィフィフィ、フィリパ先輩っ」
「なに?」
「どど、どうしよう、こんな任務…拙なんかに務まるでしょうか」
「大丈夫よ、みんな一緒だし。それにカレンは一番強いからね」
「ななっ、なにを言っているんです!?拙なんてこの中では雑魚ですよっ」
「つーかエリシオンってやっぱりきな臭い国だよなぁ」
「同感です。今後のためにも接触する際はしっかり見極めておきたいですね」
「ああ。にしても戦闘を避けるっつーのが難点だなぁ」
「せせせ拙は戦わないに越したことはないと思いますっ」
「はぁ?なんだそりゃ」
「おいカレン、出発までにもう少し気を引き締めておくんだ。それじゃあ隊長の指示通り各自いつでも発てる準備を」
「おーよ」
「はい」
「りゃ、了解ですっ」
「わかりました」
ソティリスとエイデンが居なくなるとフレヤが溜め息を吐いた。
「どうしたの」
「エイデンの言葉遣い…なんとかならないのでしょうか」
「んー、難しいかもね。じゃあ私は鍛冶屋に剣を取りに行くから」
「夕飯はどうしますか」
「いつもの店でいいんじゃない」
「わかりました。では…」
「ああ…あのっ、ご一緒してもよろしいですかっ」
「食事ならいつも一緒じゃない」
「かか、鍛冶屋ですっ」
「別に構わないわよ」
「ありがとうございましゅっ」
すると再びフレヤの溜め息が聞こえてきた。
「いいですかカレン、人の言葉を遮るのはよくありませんよ」
「あわわ、もも、申し訳ありませんっ」
慌ててそう言いながらカレンは深々と頭を下げた。
それを見てフレヤは口を開きかけたが私と目が合うと鼻から息を漏らして黙った。
「…では私はここで」
「またあとでね」
「はい」
「おお、お気をつけてっ」
フレヤはカレンをちらりと見てから頷いて去っていった。




