焦燥
「巨悪を焼き払う聖なる執行者シルバーフェニックスよ、奴等に裁きを下すのだ!」
「フェニックス!?」
「ば、馬鹿な!」
「2人とも知っているの…」
「ピィェェェッ!!」 ボォォォゥッ!!
くそ、喋ってる時間はないか。シルバーフェニックスは甲高い鳴き声を響かせて上空から白い火球を放ってきた、しかもかなりの量だ。
「大盾っ!みんな集まれ!」
俺の一声で3人は傘のように掲げた『大盾』の中に入ってきた。
「ミウ、あれくらいならかわせるけど…」
「わかってる。情報がほしい、手短に頼む」
「なるほど。でも…」
「申し訳ありません、私は情報というほど知らないのですが…フェニックスとは今まで架空の生物として認知していたので驚いてしまって…」
「すまない、僕もメティ君と同じだよ」
「ティオも同じ…でもあれは白銀色」
「本来は何色なんだ?」
「確か朱色ですよ」
「僕は黄金と真紅って書物で読んだよ」
「んんっ」
「あ、すまないティオ君」
「す、すいませんっ。とにかくあの距離です、攻撃をかわしつつ魔法しかありませんね」
「召喚魔法なら術者を狙うべきかも」
「確かにそうだね」
「そうなのか?」
「うん。術者が死ねば魔法は解除される…もしくは屈伏させて聖獣を帰還させればいい」
「わかった、聖騎士は俺がやる。鳥は頼んだぞ」
「うん!」
「任せてくれ!」
「はいっ」
「ピィィィーッ!」 ズズズズズズ…!
『大盾』を解くと、俺達の無事を確認するや否シルバーフェニックスは巨大な白い火球を作り出した。オレヴィは既に離れているな…。
「エンチャント・ムーンライトサーベルッ!」
ブゥーーーン。
「威力を削ります。アネモス・ヴェロス!」
「スコタディ・スティレート!」
バシュシュシュシュッ!!
「はあああ…」 ズズズズズズ…。
「はぁーーッ!!」
ドガァッ!!
エルフ2人の魔法とゼリウスの一振りによって放たれた大火球は見事に砕け散った。
「まさかあれを……ぬっ!?」
キィィンッ!! 「貴様っ!」
「ここからは俺がお前の相手だ」
「愚かな、3人ではシルバーフェニックスには勝てんぞ」
「俺は信じてる。玉杭っ!」
「っ!?」
バシュッ! ドゴォッ! 「ぐおっ…!」
『杭』と『玉』の時間差攻撃、久しぶりに使ったな。しかしもう魔力は残り僅か、剣術で決めるしか…
「おのれっ」
「ッ!?」
ガギィィンッッ!! 「ぐっ…」
『玉』をまともにくらったのに直ぐに反撃…やはりただの人間ではないのか。おかしいとは思っていた、属性魔法は先天的に身につくものなのに『ファイブマスター』は少なくともうち2人が聖炎魔法を扱える。何らかの方法で聖騎士になってから属性魔法を身につけているのか…?そもそも聖炎魔法自体が『異質』に思える…
ガキィィンッ!! 「くっ」
駄目だ、戦闘中に考えるのは止そう。それにしても…
キィキィーンッ!
ビシュッ! 「ぬう、このっ…!」
ドシュッ。 「がっ…」
この刀剣、『黒裏』はすごい、とても扱い易い。こいつのお陰で俺の剣術が栄える!
ザンッ!
「ぐ…くそぉ!なぜだっ!なぜ劣るっ!『神聖樹の雫』を飲んだはずなのに…!」
「気付いてないのか、召喚魔法とやらでだいぶ魔力を使ったろ。それに俺の仲間をなめるなよ」
そう、実はティオがずっとオレヴィの足元だけに『闇の絨毯』を敷いているのだ。オレヴィ自身の影に合わせ視認困難にし、更に気付かないくらいに威力を抑えて。だが身体機能を低下させる闇魔法は少しずつ確実にオレヴィを蝕んでいき今は俺が優勢になっている訳だ。こいつは頭に血が昇って気付かなかった、それが敗因だな。
「穢れたダークエルフが仲間だと…凡人ごときが聖なる騎士である…」
ガァキィィンッ!!
「ぐおっ…」 ドサッ。
俺は下段から思い切りオレヴィの剣を弾き上げ、その衝撃で相手は尻もちをついた。
「お前には聞きたい事があるが…先ずはあの聖獣とやらを帰すんだ」
「ぐぐ…」
ジャキ…。 「最後だ。聖獣を帰せ…」
ボフンッ!
俺がオレヴィに切っ先を向けた瞬間、奴の周囲に煙幕弾が投げ込まれた。
「隊長殿っ!」
「よくやった。そいつの足を止めるのだ!」
「はっ!」
しまった、鎧を脱いだ兵士が接近していたのか。
俺は身体強化魔法を使用して一気に煙幕から脱したが、オレヴィは既に離れていて残りの兵士と入れ替わる様に去っていった。
まずいな、直ぐに追わないと全て報告されて勢力を増強させて再び攻めて来るかもしれない。俺達…特にティオの情報を神国に持ち帰られるのもかなり痛い…きっと狙われるからな。
そんなことを考えていると兵士達が俺を取り囲んだ。
「行かせないぞこのっ…」
「召喚の生け贄になった奴らは死んだのか?」
「なにっ!?」
「そうだ。だが名誉ある死だ!」
「その通りだ!あいつらも喜んでいるに違いない!」
「栄誉ある死だ!」
「そうだそうだ!」
なんなんだこいつ等は…?洗脳でもされているのか。俺はゆっくり剣を構えて殺気と魔力圧を放った。
ここは戦場、いちいち情けはかけられない。
「命が惜しくない奴はかかってこい、栄誉ある死をくれてやる」
「うっ…」
「怯むな!我々は神に仕える聖なる騎士団!」
「そ、そうだ!悪には屈しないぞ!」
「いくぞーっ!」
「おおっーー!!」
仕方ないな…それにしてもさっきから離れた場所で派手な戦闘音が続いている、皆が心配だ…早く加勢に行きたいところだ。
ーーーーーーーーーー
ゴォォォォォッ!!
「うわっ」
「くっ!」
「…っ!」
なんて火力…いや、それよりもどうなっているんだ。まさか本に書いてあった通り不死だと言うのか!?
「ゼリウス」
「ああ、傷が治っているようだね」
「どうしますか」
「このまま僕らだけが消耗し続ければ敗色濃厚だ」
「そうですね…でも負ける訳にはいきません」
「うん」
「もちろんだよ」
とは言えどうしたものか…あの回復力は手に終えない。それに加えてあの飛行速度と聖炎魔法も厄介だ。回避能力が高い上に強力な魔法を惜しみなく放ってくる、なんとか攻撃を当ててもすぐに治ってしまう。
「首を落としてみるかい?」
「確かに、試す価値はありますね」
「うん、脳が機能停止すれば自己治癒もできないはず」
「決まりだね」
「先ずはあの機動力をどうにかしないと」
「そうですね…来ます!」
「ピィェェェ~ッ!!」
ボボボォゥッ!!
くっ、なんて範囲の聖炎だ。大草原は大部分を焼かれてほぼ草のない平原だ。
3人とも残りの魔力は多くない…僕の魔法剣付与で無理をしてでも翼を狙って地に落とすしか…
「グランドアクアショット!!」 バァンッッ!!
ドバシャアーンッ!! 「ビィエッ…!?」
その時、突如激流の様な水魔法がシルバーフェニックスを襲った。




